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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第7章 アポイタカラ編
239/980

調達

 街の入り口にいたのは顔見知りの衛兵さんだ。俺たちに気がつくと軽く手を振ってきたので、俺達も振り返す。

 その目線が一瞬ルーシーを捉えたが、特に何か言われることはなかった。

 何かが増えるのはいつものことだと思っているのか、単に犬(ルーシーは狼だけど)は気にされないのかは分からないが、前の世界のように首輪やリードが必要ということもなさそうなので一安心ではある。

 でも、首輪代わりに色のついた紐か布で似たようなものは作ろうかな。この辺りで走竜や森狼を飼っているような家はそうそうないと思うが、所属を示す何かはあった方が良いとは思うしなぁ。


 街の中をゆっくりとクルルが荷車を牽く。時折、奇異の視線をクルルやリディに向けてくる人もいるが、大半は気に留めた風もない。

 それなりに見かけている人たち――つまりこの街に根ざして暮らしている人たち

 の間では、そういうものになってきているなら、嬉しい話だな。


 街の中で特に何が起きるでもなく、普通にカミロの店に着いた。荷車を倉庫に入れたら、いつもの丁稚さんにクルルと今回はルーシーを預ける。


「ここでクルルお姉ちゃんとお利口さんに待っててな」


 ルーシーを撫でながら言うと、「ワン」と一声吠えて尻尾を振る。お利口さんだ。

 木陰にうずくまるクルルとその周りを駆け回るルーシーを見ながら、俺たちはいつもの商談室へ向かった。


 商談室に入って、しばらくカミロを待つ。


「そう言えば、みんなは欲しいものとかないのか?」


 適当な話の最中、俺は切りだした。うちの収入は基本的に俺のものというわけではない。工房の共有のものだ。

 そのことは後から家族になったヘレンを含め、家族の皆に話してあるし、全員が納得している。

 にも関わらず、今のところ積極的に使っているのは俺だけである。少しばかりばつが悪いと言うか、罪悪感のようなものがある。

 以前に欲しいものを聞くと、繕い物するときの糸や、継ぐときの布切れなどは欲しがったのでカミロから貰う物品に含めたが、消耗品だし何かを欲しがったわけではない。

 欲しいものがそもそも自分でよく分かっていないサーミャや、大家族での生活で共有が基本だったリケ、森でほぼ自給自足の生活をしていたリディが欲しがらないのはある程度想像できる。

 ヘレンは何も持たずに来たので身の回り品は必要にはなったが、あちこちを渡り歩いていたから私物は持っていないに等しく、だから欲しがるものもない。

 しかし、貴族のお嬢様であるディアナはもう少し自分のものを欲しがるかと思っていたが全くそんな素振りを見せない。


「別にないわねぇ」


 そのディアナが事もなげに言う。


「うちは余裕あるから良いんだぞ。誂えた服とか」

「森の生活だといらないし、いざという時のはまだ持ってるわよ。家にもまだあるし」

「ううむ」


 確かに森で暮らしている分には都で着るような服はあまり必要ない。都で着るような服を直して動きやすいようにすらしている。

 しかし、どんな用事でマリウスに呼び戻されるか分からないのだから、豪奢な服も持っておいた方が良いのでは、と思うのだが、それも1着あれば事足りるのは確かだ。

 言われてみれば実家のエイムール家にもあるだろうし、服で困ることはないのか。


「強いて言えば」

「うん?」


 考え込んでいると、ディアナが続けた。


「家族共通のアクセサリーみたいなものは欲しいわね」

「なるほど」

「……アタイも欲しいな」


 ディアナの言葉に俺が相づちを打つと、ヘレンがボソリとつぶやいた。

 帰属意識、みたいなものは俺にもある。家族のためなら何でもできそうには思うし、家族の誰かが危難に遭えば、いかなる手段をもってでも排除するだろう。

 今回のヘレンが家族になるきっかけになった話もある。捕らえられれば取り上げられることもあるだろう(むしろそういう状況の方が多そうではある)が、そうならなかった場合に家族の証みたいなものがあった方が、心強かったりするのは納得できるな。


「分かった。じゃあ、元になる何かを今度探しに行こう」


 俺は皆に向けて話す。ちょうど良い機会だし、この後カミロに話をしとけば大丈夫だろう。

 それを聞いたサーミャが怪訝そうな顔をして俺に聞いた。


「探しに行くって、作らないのか?」

「作ってもいいけど、少なくともアクセサリーのデザインについては俺は無知だからな。追加加工するにせよ、参考にするにせよ、元になる何かは必要だ」


 生産のチートが効く範囲なのは間違いないが、そもそものデザインについては色々学んでみたいところでもあるのだ。


「それで、どうするんですか?」


 今度はリディが話しかけてきた。彼女は物静かに聞いているだけのことが多いのだが、珍しいな。

 俺はそんなリディを見て言った。


「都へ行く」

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