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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第7章 アポイタカラ編
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豊かなる生活へ向けて

 翌朝、水汲みの時に薄氷を佩いて出た。いつも通りなら完全に過剰な武器だ。

 例えて言うなら、RPGで最初の村の時点で剣だけ最終装備みたいなものである。

 しかし、備えあれば憂いなしという言葉もある。思ったよりは邪魔にもならないし、万が一を考えれば良いものを持っているに越したことはないだろう。

 決して、決して昨日完成したのが嬉しいからではない……ということにしておきたい。


 水汲みは何事もなく終わった。いつもどおり俺もクルルもルーシーも綺麗になってるし、水は十分汲むことができた。

 しかし、風呂の水を確保しようと思うとこの方式では無理だな。なんらかの形で大量の水を得る方法が必要になる。

 あの湖の水には湧水もあるようなので、つまりはこの辺りには被圧帯水層――不透水層と不透水層に挟まれて圧力のかかった地下水が流れているはずだ。

 となれば、その地層まで井戸を掘るのも不可能ではない。

 幸い、俺は送風の魔法が使える。人を吹き飛ばすほどの風量はないが、外から穴に向かって風を送りこんで換気するくらいのことはできると思う。

 問題は俺が魔法を維持しないといけないので、掘るのは家族の誰かになってしまうことか。


 あるいは、前の世界でアイドルグループが無人島で作っていたように、水路を作るかだ。今回条件はあれよりはまだマシなはずなので早く出来上がる。

 ……とは言っても500mで他の事をやりつつ、2年半くらいかかっていた。

 もう少し集中して作業し、途中の難関などもないとしても1kmほど離れている湖と家に水路を通すとなると同じくらいかかる可能性はある。

 メリットは(やりようにはよるが)水車が使えるようになることだ。

 そうすれば普通の鍛冶屋みたく重く大きいハンマーを動かして、板金くらいならそっちで楽に打てるようになる。

 向こう何十年とここで暮らすつもりなら今時間がかかったとしても、早いうちにそういった設備を整えていくのは悪い話ではない。

 この辺りはゆっくり考えても間に合うが、目前に雨期が迫っている。それに備えた施設、というほど大げさでもないが次の納品後の2週間ではテラスを作らねばな。


 この日、俺は高級モデルの品をできる限りの早さで作り上げた。アポイタカラで剣と刀を打った経験が活きているのか、かなりの速度で出来たな……。

 こう、勘所が以前よりよく分かるというか。適切な叩くべき箇所や、力加減を外さない感じだ。この分なら、カミロのところへ納品に行く分はなんとか足りるかな。

 彼なら一般モデルだけでも文句は言わないだろうとは思うが、ほんの少しでも高級モデルも納品しないと、義理を欠くことになるという俺個人の仁義の問題だ。


 翌日、納品物を荷車に積み込んでいると、クルルがのそのそと所定の位置に着いた。もう何度も荷車を牽いているし、俺達が荷物を積んだら街へ行くことを分かってるんだな。

 俺はよしよしとクルルを撫でて、装具をつけていく。全ての準備が終わったら、俺は先にルーシーを抱えて荷車に乗せた。

 流石にまだ飛び上がって乗り込むのは難しそうだからな。視点が高いのが嬉しいのか、ルーシーはちぎれんばかりに尻尾を振って荷台の中をウロウロしている。

 皆乗り込んで出発だ。クルルが一声鳴いて荷車を進ませはじめると、ルーシーは手綱を持つリケの隣にいって前を見ている。尻尾はずっと振られたままだ。

 森の中、街道と景色が変わっていく。大丈夫なのかとこっちが心配になるくらい、ルーシーはずっと尻尾を振っている。


「こんな経験できる森狼はそうそういないよなぁ」

「そりゃそもそも飼われることが少ないしな」


 俺の感慨にサーミャが答える。


「走竜が牽く荷車に乗ったことある人間自体も希少ですし」

「そうねぇ。大臣でも乗ったこと無いんじゃないかしら」

「アタイも聞いたこともない」


 リケとディアナ、そしてカツラを被ったヘレンも口々にクルルの希少性を言う。リディもコクコクと頷いて同意している。

 前の世界で電車の窓から外を見る小さい子を見ているような気分で、アチコチの縁から景色を眺めるルーシー(落ちないように各人がサポートしていた)の様子を見ながら、俺達は街に到着した。

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