青い輝き
翌朝、起き出した俺はいつもの通りに水瓶を肩に担ぐ。外に出ると、待っていたのはクルルとルーシーだ。
「お前も起きてきたのか」
俺が声をかけると、ルーシーは尻尾を勢いよく振りながら、一声吠える。
あまり大きくない声だ。他のみんながまだ寝ているのを察しているんだろうか。
「よしよし、じゃあクルルお姉ちゃんと一緒に行こうな」
俺はクルルの首に水瓶をかけてやると、1人と2頭の水汲みの旅(徒歩30分くらい)が始まった。
朝の森は空気が少し澄んでいるように感じる。昼よりも気温が低いせいだろうか。
思い切り息を吸い込むと、その爽やかな空気が肺を満たして、まだ半分夢うつつだった脳が暖機運転を始める。
それにしても、日が昇りきらない中を人間と竜と狼の変わった一行が進んでいく光景は、他所から見ると奇異に見えるだろうな。でも、これがうちの家族なのだ。
湖に着いたら先に水を汲んでしまってから、水浴びをする。クルルも身体を拭いてやり、ルーシーも……と思ったら彼女は自らバシャンと湖に飛び込んでいた。
せっかくなのでそのままワシャワシャと毛を引っかき回して洗ってやる。気持ちよさそうにはしていたので、時々は洗ってやるか。
俺の身体も拭いたやつだが、持ってきているタオルを固く絞りながらルーシーの濡れた身体を拭いてやった。
当然、完全には拭ききれないだろうが、濡れっぱなしよりはマシだろう。
明日からはルーシー用に別のタオルも用意してやらないと。洗う洗わないによらず、湖に飛び込んだときには拭いてやらないといかんからな。
飛び込まなかったら、そのまま持って帰ればいいだけだ。
その後は普通に家に戻ってきた。クルルから水瓶を回収し、俺の分と併せて家の中に運びこむ。
それを見たクルルはいつも通り小屋の方へ戻っていったが、ルーシーは俺と一緒に中に入る。
「ああ、飯か」
今日から朝飯を作るときにはルーシーの分を先に用意してやる必要がある。
と言っても、単に干し肉を先に何も入れない湯で茹でて戻してやるだけだ。昼は昼でまた茹でてやればいい。
昼は狩りの次の日――つまり生肉が手に入る日はそっちになるだろうが。
鍋を2つ用意して俺たちの飯の分と、ルーシーのを茹でる分にわける。ルーシーの分は水を少なめにすれば沸くのも早いし、無発酵パンの準備をしていればちょうどくらいには準備ができるだろう。
もったいないのでルーシーの飯を茹でたお湯はそのまま俺たちの方に足しておく。多少は出汁が出てるだろうし。
ルーシーが早く早くと急かしてくるのを宥めつつ、茹で上がった肉を細かく切って冷ましている間に、朝飯の準備は終わりだ。
ルーシーも含めた全員で(ルーシーは待っているだけだが)いただきますをしたら、いつもの朝食の風景である。
いつもと変わらぬ、しかしほんの少しだけ賑やかになった風景がそこにはあった。
朝食を終えたら、日課の拝礼をして作業開始だが、危ないのでルーシーは外にいてもらうようにした。
鍛冶場の扉を開けると、外にクルルがいたので彼女に任せることにする。
「なんかあったら扉を叩くんだぞ」
「クルル」
「ワン」
俺の言葉を理解しているのかいないのか、俺がそう言うと2人共元気よく返事をした。さあ、仕事だ。
神棚の近くに鎮座させてあったアポイタカラを、柏手を打って拝んだあと手に取る。
ヘレンの剣にも使ったが、まだ俺の刀を一振り打つくらいの量はあるだろう。
……少し心配になってチートでも確認したが、なんとかいけそうだ。
塊を丸ごと火を入れた火床に突っ込んで加熱する。まるでそこだけが温度が低いかのように、アポイタカラは青く輝いている。
だがしっかりと温度が上がっていることをチートでつかみ、加工出来る温度になったら取り出して叩く。
キィンとガラスのような、氷のような音が鍛冶場に響き渡った。
その音を聞いて、滅多にないアポイタカラの加工を見学しているリケが言う。
「やっぱりきれいな音がしますね」
「ミスリルともまた少し違うな」
俺はそう返した。ミスリルの場合はもうちょっと澄んでいて高めの音がするのだ。
この辺りの聞き分けができるのは鍛冶屋としては滅多に無い機会ではあるだろうな。
他の皆は板金を作っている。サーミャとディアナは板金くらいなら鎚を持たせても平気になっているし、リディとヘレンが手伝えば心配はない。
そちらの方は聞き慣れた音だ。あれはあれで好きな音ではある。
その音とセッションするかのように、俺は青い輝きに鎚を振り下ろした。