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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第1章 異世界での暮らし方編
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補給線は大事

 ロングソードの方もリケに見せたが、こちらも“一般モデル”なので、

「素晴らしいですが、やはりあの時見せていただいたものとは違いますね」

 という感想だった。こっちも明日見せることにして、今日はそのための型だけ作っておくことにする。


 型を乾かして、鍛冶場の火を落とした頃、サーミャが戻ってきた。

「ただいま」

「おう、おかえり。どうだった?」

 俺が聞くと、サーミャはニンマリと笑って、

「任せろ、大物の樹鹿を仕留めたぜ」

 と誇らしそうに言う。

「おお、やったじゃないか。今日も湖に沈めてあるのか?」

「ああ。血を抜いて冷やさないと、不味まずいからな」

 住人が一人増えたこともあるし、これから食料は少し多めに確保していっても、問題はなさそうだ。

「それじゃ飯の支度をするから、二人とも体拭いてこい」

「おう」

「わかりました」


 そして夕食。根菜がなくなりつつあるので、麦と肉と豆のスープのような粥のようなものを作る。タンパク質が多めだが、俺もリケもサーミャも体を動かす仕事だからいいだろう。

「明日はリケも一緒に鹿を運びに行くか」

「いいんですか?」

「人手は多いほうが良いからな」

「それじゃあ、ご一緒します」

「うん、頼むな」

 この辺りはどこかの段階で、二人だけにやってもらうことになるかも知れないし、今のうちに作業に慣れておいてもらうのは、悪いことではない……はずだ。

「そういえば親方」

「ん? なんだ?」

「そろそろ、鉄石や炭の備蓄が心許こころもとないのでは? 仕入先とかあるんでしょうか」

「そうなんだよなぁ……」

 そう、流石に今日明日無くなるというものでもないが、そろそろ鉄石(鉄鉱石)や木炭の量を気にする必要が出てきた。今までは貰った資材で回していたから、売上はまるまる儲けになっていたが、ここからは原価がかかってくることになる。なので同じ原価で利率の良い“高級モデル”も売っていく必要が出てくるだろう。

 しかし、一にも二にも原料がないとどうしようもない。

「作業始めたのは最近だから、仕入先とかがないんだよな。だましだましなら、1ヶ月ぐらいはもちそうなんだがな……」

「その間に買える先を見つけないと、ということですね」

「うん。今度街に行った時に、マリウスさんか行商人にでも聞いてみるか……」

「私もつて(・・)を当たってみます」

「頼むな」

 とりあえず出たとこ勝負しかない。ああ、そうだ。

「サーミャ」

「ん?」

「矢じりの調子はどうだ?」

「絶好調だぜ。樹鹿は大物になると背中あたりの皮が硬くて、なまってる矢じりだと刺さらないときまであるけど、難なく貫いてたし」

「そうか。あ、そういえば、心臓は狼にやらないって言ってたよな? どうするんだ?」

「森の土に埋める」

「埋める?」

「うん。そうやって森に魂を帰すんだ。そうしたら、森が新しい命にしてくれる」

「なるほどなぁ」

 原始的な信仰のようなものか。リケも「ほー」っと感心しているので、獣人か、この森の中だけの風習のようだ。

「サーミャは明日は鹿を捌いたら休みだろ? また手伝うか?」

「おっ、いいのか?」

「別にかまわんよ」

 そうやってリケの仕事をサーミャが、サーミャの仕事をリケが手伝ってくれるようになると良いなぁ、と思っているのだが、はてさてそうなるだろうか。


 翌日、3人で湖まで向かう。俺は水がめと斧を持参だ。まずは丸太の運搬台を作るが、斧で木を伐る時に、

「お、お、親方! これは!?」

「ん? ああ、この斧か」

「これは本当に素晴らしいですね!!」

 とリケが大興奮してしまった。昨日のうちに見せとけばよかったか……。

「使ってみるか?」

「いいんですか!?」

「ああ。めちゃくちゃ切れるから気をつけてな」

「はい!」

 俺が渡した斧をリケが構える。なんか、これはこれでドワーフ感すごいな。


「いきますね!」

 リケは斧を木に向かって打ち付ける。コーン!と気持ちのいい音が響いた。だが、見た目は何も起こってないように見える。

「?」

 リケが不思議そうにしているので、俺は声を掛ける。

「危ないから下がれなー」

「え? は、はい!」

 リケは俺に言われたとおり下がりながら、俺に訴える。

「音はしたんですけど、手応えが全く無くて……」

 だよな。

「まぁまぁ。もうそろだから」

「?」

 そうしてリケを振り返らせると、ちょうどその時、リケが斧を叩きつけたのと逆の側に、木がズルッと倒れていく。

「ええーーーーっ!?」

 大声で驚くリケ。サーミャが

「ビビるよな、あれ。アタシも最初見た時、ちょっと気持ち悪かったもん。それなのにエイゾウは平気な顔してるし」

 と同情している。そうか、前の時、そんなことを考えていたのか……。

「とにかく、こういうふうに切れるので、十分に注意して扱うように」

「わ、わかりました」

 おそるおそるという感じのリケだが、さっきのでコツは掴んでいたらしく、4本ほどの木を伐り倒して丸太に加工する。

「なかなか手際がいいな」

「似たようなことはやってましたからね」

 増築とかするならそりゃそうか。俺たちは丸太同士を縄でくくってまとめる。


「よーし、それじゃあ引き上げと行くか」

 俺が声を掛けると、サーミャが沈めたところに向かってザブザブと湖に入っていく。結構深そうだな。俺とサーミャの身長なら余裕があるが、リケはギリギリかも知れない。

「リケはちょっとこのへんで待っててくれ」

「はい」

 そうしてサーミャがいる辺りに向かうと、かなりの大きさの鹿が沈んでいた。体長が2メートル超えてるかも知れない。

「おお、デカいな」

「だろ。一回手負いにしたけど、それでも逃げるもんで、仕留めるまでに時間かかっちまった」

「そうだろうなぁ」

 この大きさだと、ここに沈めるのも一苦労したはずだ。

「これは大変だっただろう。えらいぞ」

「へへっ」

俺の褒め言葉をサーミャは素直に喜ぶ。


 まずはリケのいるところまで、俺とサーミャで鹿を引っ張る。そこからはリケも一緒に引っ張ったので、割とすぐに岸まで引っ張り上げることができた。

 その後は前と同じく、丸太の運搬台に鹿を引きずりあげて固定したら、水がめに水を汲んでそっちも固定する。これで移動準備が完了したので3人で運搬台を引きずる。

 たっぷり30分ほどかけて、我が家に戻ってくることができた。


 さて、ここから解体だ。デカブツだけあって、前回よりも持ち上げるのに苦労した。皮を剥いでしまう作業自体は前とそんなには変わらなかったが、“本気モデル”のナイフの切れ味に、リケがまた驚いていたくらいだ。

 俺とサーミャは日常的に使ってるから、余計なところを切ったりとかしないが、慣れてないと皮を切ってしまったり、内臓を取り出す時なんかにも、傷つけてはいけない臓器(膀胱や胆嚢、大腸なんかがそうだ)を傷つけてしまいそうだな。

 今日はリケに“高級モデル”を見せる約束をしているが、ナイフはリケ用に“本気モデル”でもいいかも知れない。


 鹿は大柄だったにもかかわらず、速やかに食肉へ姿を変えていた。肉の量は体格相応に多い。

「これだけあれば、3人とも大食らいでも2週間は余裕で持つな。助かるよ、サーミャ」

 俺がそう言うと、サーミャは

「そ、そうか? じゃあまた獲ってきてやるよ!」

 と嬉しそうに言うのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 音っていうのは摩擦から発生する物だから、いい音がして手ごたえが無いって言うのは物理的にあり得ないと思うんだよなぁ。 魔法か?
[気になる点] 木を伐採する時は追い口と受け口作らないと倒れる方向がめちゃくちゃになる ドワーフが切るならそこら辺しっかり知ってるはず
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