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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第6章 帝国革命編
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マリウスの話

「マリウス……!」


 俺は思わず立ち上がる。仮に暇であろうと、この街の支配者であろうと、ホイホイと長いこと逗留していい立場でもない彼が、ここにいるのは素直に驚きだった。


「どうしたんだ一体」


 俺はその驚きを隠さずに口に出す。マリウスはいつものニヤリとした笑いを浮かべる。


「こっちで知ってることを教えてやろうと思ってな」

「それはそれは……」

「今後を考えれば、エイゾウの不興を買いたくない。何よりエイゾウは友人だ」


 マリウスは臆面もなく言ってのける。多少なりとも自分にも利益があることを知らせたのは、俺を安心させるためだろうな。

 純粋な厚意を信じられないやつというのは多い。マリウスが今身を置く貴族の世界では尚更だろう。


「気持ちはありがたく受け取っておくよ」

「そうしてくれると嬉しい」


 俺はマリウスの好意に素直に感謝した。そして、マリウスに促されて再び着席する。


「まぁ、私も自分で情報を集めて分かった範囲での話なんだが」


 マリウスも俺たちの向かい側に腰を下ろして、話を始めた。


「要は帝国――つまり皇帝は知ってたんだよ、革命を」

「知ってた?てことは起こることが分かっていた?」

「ああ。起こると分かってて利用したんだよ。見せしめみたいなもんだ。もう既に鎮圧されている可能性もある」

「じゃあ、なぜヘレンを捕まえたままにしておいたんだ?」

「知ってることを知られたくなかったからさ。バレていると分かったら起こさなくなってしまうだろ?捕まえた事自体を漏らさないようにしたのも、理由は同じだよ」


 ヘレンは詳細を聞いていなかったそうだが、出くわした連中が革命の情報を持っていた帝国側の人間だったということか。

 彼女が自分でも言っていたように、どれだけの情報が漏れたかは分からない。

 かと言って、迂闊に死体を出すとそこから勘付かれる可能性もあるから、しばらく生かしておいたのだろうか。いや、待てよ、それだと……


「じゃあ、俺たちが助け出さなくてもヘレンはどのみち助かったのか?」

「いや、それはないだろうな」


 俺の言葉にマリウスは首を横に振った。


「確かに革命が起きてしまった時点で、ヘレンがどうなっていようと関係はなくなってしまった。だが、生きていてもいいということは死んでいてもいいってことだ」


 俺を含んだエイゾウ工房の人間は息を呑んだ。マリウスは出されていた茶で少し口を湿らせると、再び口を開く。


「帝国としては後々を考えて、知っていたことをバレないようにしたいだろう。そうなれば革命が起きた時点で殺されていてもおかしくはない。なんで死んだのかなんて、ドサクサに紛れてしまえばさっぱりわからなくなるしな」

「むしろ俺たちの救出はギリギリだったのか」

「そうだな」

「とすると、もう平気とも言えないわけか」

「そうなるな。しばらくは今日みたいにしておいたほうがいいだろう」


 マリウスが今度は大きく首を縦に振る。

 今のこの世界だと司法解剖なんてものもないだろうし、殺されてしまえば死人に口なしだ。魔法があるにせよ、それが使えるのは基本的には貴族連中である。結果が正しいかははなはだ怪しい。

 加えて、皇帝たちが革命を知っていたのを知っている存在がまだ生きているというのは、皇帝たちにとっては喉に刺さった骨のようなものだろう。なるべくなら解決したいと思うに違いない。

 悩みを解決させてやる理由も必要性もこちらにはないのだが。


 ヘレンを見やると俯いている。別に気にする必要ないのにな。そう思っていると、ディアナがヘレンの肩に手をおいて、何かを小声で話し始めた。

 俺はそちらをディアナに任せて、マリウスに聞く。


「革命があると知っていた、ということは侯爵が危ないんじゃないのか?確か領地を切り取りに行っているんだろ?伏兵を置くには絶好じゃないか」

「それがなぁ……」


 マリウスがやたらとどでかいため息をつく。あのオッさん、またなんかやらかしてるのか。


「そっちも裏で話は付いてるんだよ」

「は?」


 マリウスの言葉に、俺はここに来てから何度目になるかわからない驚きを隠せなかった。


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