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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第6章 帝国革命編
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野営の夜に

「今日は町に泊まるのか?」


 俺はカミロに聞いた。今日中に街まで戻るのは難しそうだ。

 関所を抜けた時点でもうとっくに昼を回っていたから、それまでに日が暮れてしまうのは確実に思える。


 さりとて、町に入るのも難しいところではある。まだ到着していないとは言っても、関所から一番近い王国の町だ。追手がいれば、捜しに来ることは間違いない。

 その時にのんびりと町にいれば見つかってしまい、ここまで見つからないようにしてきたのが水の泡である。


「いや、なるべく進んで野宿にする。お嬢さん方には悪いが、関所からは距離を離しておきたい」


 カミロはそう答えた。今のうちにいるかも知れない追手からは距離を離しておいて、行方を分かりにくくする方を選んだか。


「わかった」


 俺はカミロに頷くと、ヘレンとカテリナさんのほうを見た。2人とも頷いている。

 ヘレンはともかく、カテリナさんも平気なのを意外に思ったが、そう言えばこの人はここまで1人で来ているのだった。


 もしかすると、マリウスの家に勤めるまではヘレンと同じ仕事をしていたのかも知れないな。

 まぁ、女性の過去は探らないに限る。俺は2人が納得しているのなら、とそれ以上は触れないことを決めた。


 カミロの言った予定の通り、俺達は途中の町を通り過ぎる。

 訪れたのは一度きりだが、商売柄顔を覚えている人がいないとも限らないし、スルー以外の選択肢はそもそも難しかったかも知れんな。


 町をかなり通り過ぎて、太陽が街道と平野を同じ橙色に染め上げようとしているころ、俺達は馬車を止めて野営の準備を始めた。

 俺が鍋の準備をしている間に、他の4人に薪を集めてきてもらう。

 

 自然と飯を作るのは俺って事になっているが、今回はカテリナさんもいるんだから、そっちに任せても良かったんじゃ?


 そう思って、準備をしながらカテリナさんの方を見るとサッと目を逸らした。

 まぁ、使用人と言ってもそれぞれの専門はある。遠征についていったことや今回のことなんかを考えても、料理の方は専門ではないんだろう。


 飯を作ると言っても、今の状況だと結局は保存がきく食材をまとめて煮込んだだけ、みたいなものしかない。

 それでも生産のチートは適用されるので、そこらの旅人が適当に作るよりはうまい……はずである。

 

 すっかり日が沈んでしまって、唯一の光源である焚き火と、そこにかけた鍋を全員で囲む。

 俺の隣にはヘレンとカテリナさんが座っているので、それぞれに鍋の中身をよそってやる。

 干し肉と乾燥野菜と豆のスープだが、カミロに許可をもらって胡椒もきかせてるので、少しだけだが豪華にはなっている。


「ほい」


「ありがと」


「カテリナさんも」


「ありがとうございます」


 ヘレンとカテリナさんが器を受け取って、中身を口に運ぶ。


「やっぱりエイゾウのはなんかうまいんだよなぁ」


「私ははじめて食べましたけど、野営でこれだけの味なら大したものだと思います」


「だよなぁ。アタイも色んなとこ回ったけど、このレベルのはなかなかないぜ」


 二人がしみじみと感想を漏らす。嬉しいには嬉しいのだが気恥ずかしい。


「ただ煮込んだだけだぞ」


「それでこの味が出せるから言ってるんですよ。エイゾウ様はなんかズルいですね」


「だろ。アタイもずっと思ってた」


 照れを誤魔化そうとすると、カテリナさんとヘレンにピシャリと返された。それをニヤニヤとカミロとフランツさんが眺めている。

 カテリナさんはともかく、王国内に戻ってきた実感があるのか、ヘレンの調子が戻ってきているようなので、カミロとフランツさんは内心で不問にすることにした。


 夜間は女性陣には眠っていてもらい、男衆3人で見張りに立つことにした。最初がフランツさんで次に俺、カミロの順だ。

 寝ているところをフランツさんに起こされる。

 

「すみません」


「いえいえ、お気になさらず。持ち回りなんですから」


 起き出して、一応武器を手に周囲を見張る。帝国領内にいたときは夜間でも松明の灯りを頼りにして、街道を行く人がそこそこいたが、王国領内に入ったからか今のところはいない。

 あの革命騒ぎから離れてしまえば、見かけはまるっきりいつも通りという事に頭が少しついていけていない。


 俺が介入する余地は全く無いので気を揉んでも仕方ないのだが、なにか出来ることがあったんじゃないか、という思いはなかなか消えてはくれない。

 俺は空を仰ぎ見る。せっかちな月の女神様の祝福と、きらめく星々の輝きが俺たちをそっと見守っていた。


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