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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第6章 帝国革命編
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帰りはこわい

 関所に並ぶ人々の後ろに、俺とヘレンも並んだ。馬車も人も一緒くたにごちゃっと並ばされている。

 こういうときには出国を完全に止めて全員追い返されてしまうものかと思っていたが、わずかずつだが列が進んでいるのでそうではないようだ。

 事態を把握していないのか、それとも何か別の目的があって止めていないのか、それは俺たちには分からない。

 だが、問答無用で追い返されないのなら都合がいいのも確かだ。追い返されるのであれば山越えも覚悟しないといけなかったが、そうでないなら助かる。


 俺たちの後ろにも次々と人がやってきて列をなしていく。前の世界の夏冬2回のお祭りと違って整然と並んでいるわけではなく、無秩序に4~6人くらいずつの横列で延びていっているだけだ。

 前の方を窺うと、少し先にカミロの馬車が見えた。フランツさんがじわじわと馬車を動かしている。向こうはこっちに目もくれない。

 関係があるのがバレると困るのもそうだが、単純にこの辺は徒歩の人がたまっていてどこにいるかよく分からんのもあるだろう。

 ヘレンはというとぴったり俺に張り付いている。ここまで来てヘレンに何かあったら苦労が水の泡だし、守るためにもそうしろと俺が言ったのだ。


 ここに来るまでの間、つまりまだ周りに人がほとんどいない間に俺とヘレンの“設定”について話をしておいた。

 王国に住んでいるジミーと言う職人のオッさんが帝国出身の嫁さんと知り合い結婚、今回帝国には嫁さんの実家の用事で戻ってきたが、済ませたので王国に戻るところである。

 実家は小さな村なので俺たちは何があったのかは具体的には知らないが、何かあったらしいことだけはこの状況を見て知った。

 一旦は王国に戻らないといけないので、早く戻りたいと言うシナリオである。

 その辺りを一通り話すと、ヘレンが驚いた顔で言った。

「アタイとエイゾウが夫婦?」

「こんなオッさんとじゃあ不満だろうが、まぁちょっと辛抱してくれ。ここを抜けるまでの話だ」

「いや、それはいいんだけど……」

 じゃあ何なのだろう。

「エイゾウは……嫌じゃないのか……?」

「そんなわけあるか」

「アタイ、体はデカいし、顔にも傷があるし」

「別に良いんじゃないのか。嫌がるやつもいるんだろうけど、俺はそうじゃないってだけだ」

 単に傷が目立つだけで、かわいい顔をしていると思う。身長が高いのもスラッとして純粋に綺麗な体つきしてるなぁと思うし。

 そこまで言うとヘレンの本気の拳を味わう可能性もあるから言わないでおくが。

「そっか……」

 俺の言葉を聞いて、ヘレンは俯いた。だから、俺はヘレンの顔が真っ赤なのも、その顔が少し嬉しそうなのも見ることはなかった。


 俺たちが列に並んでから、かなりの時間が過ぎた。少なくとも腹が減って荷物に入れていた干し肉を二人でガジガジ囓るくらいには過ぎている。

 その分、前にも進んではいるので気が紛れているが、これで進まなかったら暴動になりかねないな。

 後ろを振り返るとごった返す人々でいっぱいになっている。王国の都の大通りみたいだ。

 前を見ると関所の門が見え始めている。そこを見ると、王国側から帝国に入ろうとやってくる人々もいるにはいるのだが、この状況を見て大多数が引き返しているようだ。

 俺たちが来たときも出る方が混んではいたが、これほどではなかった。

 それでも帝国側に入る人がいる。多分もともと帝国に住んでいた人だろうな。


 更に時間がたち、カミロたちの馬車が手続きを受けている。

 彼の通行証は偉い人のお墨付きなので、荷物のチェックも通り一遍で済んでいるようだ。比較的速やかに門を抜けていく。フランツさんもカミロも振り返ることはなかった。

 俺たちが通り抜けられないかも、なんてことは微塵も考えていないだろう。その信頼が少しくすぐったい。

「次のもの!」

 そして俺たちの番がやってきた。ヘレンは俺の手をギュッと握る。完全に疲れ切った顔をした衛兵が俺とヘレンをじろりと見る。

 ヘレンの顔を注視していたら要注意ではあるが、今の所その様子もない。

 俺は懐から通行証を取り出して衛兵に渡した。受け取った衛兵が通行証をあらためる。

「王国から来たんだな?」

「へい。左様でして」

「そっちの女は?」

「あっしのかかあです。帝国出身でして」

「随分と年が離れているようだな」

 訝しげに眉をひそめる衛兵。俺はそっとヘレンの髪――カツラだが――を持ち上げて、傷を見せた。

「この顔じゃ貰い手がないってんで。あっしは可愛いと思ったんで嫁に貰ったんです」

 俺がそう言うと、ヘレンが真っ赤な顔でバシンと俺の肩を叩いた。演技なのかどうかはわからないが、その様子を見てわずかに衛兵の顔が緩む。

「そうか。通行証もおかしいところはないし、行って良い」

 衛兵が手振りで示す。俺は内心の興奮を押し殺し、

「ありがとうごぜぇやす」

 と言ってヘレンの手を引き、門を抜けた。


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