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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第6章 帝国革命編
201/980

関所へ

 ごった返す街道を避けてしばらく進むと、やがて人も馬車も減ってきた。

 ほぼすべての人が帝国から抜け出す方向に向かっている。極稀に逆方向へと――つまり帝国中央へと――向かう人や馬車も見かけるようになった。

 家族や大事な人をそちらに残してきたのだろうか。俺には理由を知る由も無いが、無事に目的を遂げて欲しいものである。

 他人のことはともかく、俺たちもまだ目的を完遂していない。

 フランツさんが交通量の減った街道に馬車を戻して、速度を上げた。これで今日行けるところまで行って野営をしたら、文字通り最後の関門が待っている。


 日が沈みかけてきたところで、再び街道から外れて野営の準備をする。ヘレンはもうかなり調子を取り戻してきていて、野営の準備もスイスイと手伝うまでになった。

 昨日の今日でこれなら大丈夫そうだが、何がきっかけで急に調子を悪くするかはわからない。本人の希望には任せるが様子は窺っておこう。


 夕食は積荷の材料を適当に放り込んでのスープと堅パンである。

 行商人らしくいくらか香辛料も積んでいたので、カミロに断って使わせてもらう。問題があれば今度の支払いのときにその分差し引いてくれ、とも言っておいた。カミロはゆっくりと首を横に振っていたが。


「誰も取らないんだから、ゆっくり食えよ」

 がっつくように食べ始めたヘレンに、俺は苦笑しつつ声を掛ける。

「しっかりと、でも素早く食べるのが戦場の常だろ?」

 ヘレンはうちに居たときのような、朗らかな声で答えた。調子が戻ってきていることにグッと来たが堪えて言う。

「いや、ここは戦場じゃ……あるか」

 まだ乗り越えるべきものがあるし、追手が俺たちに向かっていないとも限らないのだ。そういう意味では気を抜いていい状態でもない。

 王国に戻っても、家に帰るまでは安心できないだろうし。俺もヘレンにならって少し急ぎ目に夕食を口に運ぶ。


「明日の関所通過は俺たちとお前たちはバラバラにいくぞ」

 みんなの腹が満たされてきたところで、カミロが俺に言ってきた。

「ん?なんでだ?」

「こう言う状況だと余計な人間が乗っているより、バラバラでそれぞれが身分証明したほうが早いからだよ」

「避難民の疑いをもたれるからか」

「そうだ」

 どのみち俺の身分証は偽造のようなもんではあるが、この混乱で用意できるものではないから、怪しさは幾分少ないに違いない。

 それでも用意できそうな人間の馬車に乗っていて出してきた、よりは徒歩で来て自分で出したほうが更に安全だ、という事だろう。

「わかったよ。ヘレンもいいな?」

「うん」

 腹がくちくなったら今度は眠気が来たらしい。ややぼやっとした感じでヘレンが答えた。

「今日はヘレンはずっと寝てな。見張りは俺たちがするから」

「わかった」

 ヘレンを寝かしつけると、俺たちは3人で見張りの分担を決めて、見張り以外は引っ被った毛布で眠りについた。


 その夜は特に何事も起きなかった。俺が見張っている間に、時折街道の方を松明が進んでいくのが見えたが、こちらに近づいてくる人影などは1つもなかった。こっちに構っている暇のある人は普通はいないということか。

 みんな起き出して馬車に乗り込み出発する。移動速度の差もあるのだろう、街道の人通りは昨日よりも更にまばらになっている。

 そこを俺たちの馬車が進んでいく。歩いている人を見ると一様に疲れた顔をしている。歩き通しだった人もいるのだろう。

 乗せてやりたいところではあるが、全員は乗せられないし、こちらも急ぎなのだ。すまないな、と心の中でだけ謝って、彼らの道中の加護を懐の女神像に祈っておく。


 人通りがまばらなので馬車はやや速度を上げ、昼前頃には関所の近くまでたどり着いた、とフランツさんが声を上げた。見てみようとしたが、まだ目には入ってこない。

「そろそろ降りたほうがいいな」

 カミロが言って、俺は自分の荷物を、ヘレンは持ち出せたものがないので適当に食べ物なんかを詰めた背嚢はいのうを背負って馬車を降りる。

「じゃあ、また後でな」

「ああ」

 俺たちはカミロに手を振って別れた。


「それじゃ、行くか」

「うん」

 ヘレンに声を掛けると、少し後ろをついてくる。

 こういう道を歩く、という感覚が少し懐かしい。街に行くにはクルルの竜車だし、討伐遠征やここに来るのは馬車だった。荷車を引いていたのが随分と前のような気になってくる。

「大丈夫か?」

「大丈夫だよ。もう平気」

 それなりの期間、幽閉されていたのだろうし、もっと足がえているかと思ったが、しっかりとした足取りで歩いている。

「それを被ってるから平気だとは思うが、周囲には気をつけてくれ」

「ああ、もちろん」

 ヘレンはカツラを被った、いつもとは少し違う顔で笑って言った。俺たちの行く手に人々でごった返す関所が見えてくる。いよいよだ。

 関所を目にしたヘレンがそっと俺の服の裾を掴んで、俺はギュッと心の中で帯を締め直すのだった。


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