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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第6章 帝国革命編
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街から逃げ出す

 大通りに近づくと、そこは大混乱だった。

 何人かの人が松明を手に持ち、その明かりを頼りに一緒に移動してこの街を抜け出そうとしている流れと、それとは別にこの街を掌握すべく動き回る流れ、そしてそれに対抗しようとする流れが入り混じっている。

 ここでもカミロが「怪我人だ!どけどけ!」と大声を上げると、この混乱でも多少の理性は残っているようで、幾分通りやすくなった。

 人々の理性が空けてくれた僅かな間隙を縫って、俺たちは街路を走り抜ける。

 おそらくこの街の掌握は上手くいくだろう。初手で失敗するような計画はしていないだろう……と思いたい。

 であれば、落ち着いてしまう前に、この混乱に紛れて抜け出すのが一番だ。

 あと数時間は混乱が続くだろうが、それが過ぎ去ってしまえばこの街から出るのは難しくなる。


「俺たちの宿屋が燃えてないと良いが」

 火の手がいくつか上がっているのを見て、走りながらも俺は2人に話しかける。

「多分大丈夫だろ」

「ええ。この街を掌握して、街の人達の住居を差し押さえて駐留するのは体面的にも良くないですからね。一時的な駐留なら兵舎か宿屋になるはずです」

 2人は答える。

「なるほど。使うはずのものを焼いてしまっては意味がない、ってことか」

「そうなります」

 フランツさんが引き取った。この街を掌握することにも大きな意味はあるが、それだけでは革命は終わらない。

 少なくとも皇帝を玉座から引きずり下ろすまでは続くのだ。それが3日で終わるのか1年かかるのかはともかく、そこまではこの街を保持し続けないといけない。

 場合によっては籠城戦に近いことにもなるだろう。

 だとしたらあれは帝国貴族の館なのか。1棟か2棟くらいは見せしめも含めて焼いて自分たちの大義を示すとか?

 貴族の館が広いと言っても1棟2棟に収容できる人数は知れているだろうし、比較的小さめのところなら大勢に影響はないと判断するならわからないことでもない。


 大混乱を逆流するようにして、俺たちはなんとか宿屋に辿り着いた。宿屋は無事そこに建っていて、こういうときにありがちな略奪もまだ始まってはいない。

 馬車を置いているところに向かうと、来るときに見かけたデカい見張り番の人がデカい棍棒を手に律儀に立っていた。

「すまんがもう出るぞ!」

 カミロがそう大声で言うと、見張り番の人も

「分かってまさぁ!もう何人もお発ちになってやす!」

 と負けず劣らずの大声で返してきた。

 普通の馬車なら置いてサッサと流れに乗って街を出る選択肢もあったが、カミロの馬車は“特別製”だからな。

 ここに置いておくと後々の商売にも影響しかねない。

 来たときよりもかなり馬車の数が減っている中、俺たちの馬車を見つけてまず荷台にヘレンを載せる。

 荷台におろそうとしたとき、一瞬キュッと腕を掴んできたがすぐにその力は緩み、俺はそっと荷台におろした。


 その間にフランツさんが馬を連れてきて繋ぐと、俺とカミロも荷台に乗り込む。

 俺はヘレンを抱えて荷台の奥の目立たないところに横たえて毛布を被せてやった。

 心細そうにしているヘレンの手をそっと握ってやると、ギュッと力強い手応えが返ってくる。それを感じながら馬車が進み出した。


 まだまだ街路には混乱が続いているが、俺たち以外にも馬車が常歩くらいの速度で進んでいて、俺たちはその後ろにつく。

 俺とカミロは周囲を警戒する。ほとんど片付けたが、顔は普通に見られているので追っ手がかかっていた場合のケアだ。

 この混乱ではろくなことは出来ないだろうが、それでも用心に越したことはない。

 警戒をしながら、徒歩で街を出ようとしている人たちの姿を見ると、全員が旅装している。

 つまり町の住民はほぼ家に籠もっていて、これだけの避難民はほぼ行商や旅行をしている流れ者というわけだ。

 一応、子連れなどが居たら乗せてやろうかとも思っていたが、水を吐き出す水道口のように人を吐き出し続けている――つまりはもう門番が仕事を出来ていない――門のところを俺たちが出るまで、見かけることはなかった。


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