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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第5章 荷車と魔族の刀編
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鐔と柄

 片付けのとき、完成した刀身は一旦神棚の下に安置した。神棚と刀って雰囲気あるな……。特注モデルじゃないやつを一振り作って飾っておくのはありかも知れない。


 いつもならディアナと稽古をしてから夕食の準備なのだが、今日は先にやることがある。キレイに手を洗って、朝に仕込んでおいたパンの様子を見ると、かなり膨らんでいた。

 膨らんでいる生地のガス抜きをして6つにまとめてから、湯を張った鍋に水を加え、その上に板を渡してまとめた生地を並べる。これで上手くいくといいんだが。

 俺はその状態でディアナとの稽古に向かった。


 戻ってくるとパンは再び膨らんでいる。これなら焼いても大丈夫そうだな。オーブンはないので、鍋を利用して似たような感じで熱が回るようにする。ダッチオーブンと言えばカッコいいが、そこまで良いものでもない。

 1つの鍋とかまどでスープを作り、もう1つでパンを焼く。どちらからもいい匂いが立ち昇ってくる。これはなかなか期待が持てそうだ。


 やがてどちらも完成して、食卓に並べていく。

「今日のパンはいつもと違うな」

 サーミャが鼻をヒクヒクさせている。

「いつものパンは発酵させてないが、今日のは発酵させてるから柔らかいぞ」

「へー」

 サーミャは突付こうとして、リケに手をペシッと叩かれている。

 俺達は笑いながらいただきますを言って食べ始めた。


 スープはいつも通りの味だが、パンがふわふわでほんのりリンゴの匂いがしてうまい。こういうことにもチートが鍛冶ほどではないにせよ有効なのは助かる。

「おー、ホントにふわふわしてる」

 サーミャがパンを千切りながら言う。口でその柔らかさを確認するかのように頬張った。

「柔らかいパンってのも美味いもんだな」

「だろ」

「家で食べてたのと比べても遜色ないわね……」

 こちらはディアナだ。伯爵家なら毎日のように柔らかいパンを食べていただろうし、そのディアナの評価なら信頼できる。リケも美味そうに食べているし、リディはなにやらうんうん頷きながら食べている。


「エイゾウ……」

 パンを口にしたニルダが妙な迫力をもって言ってくる。

「な、なんだよ」

 妙な迫力に俺は思わずのけぞる。

「お主は何者なのだ」

「俺はただの鍛冶屋だよ」

「ただの鍛冶屋がこんなところに住んで、柔らかいパンを焼く技術を持っているわけがなかろう」

 ニルダの言葉に、俺以外の全員が頷く。

「じゃあ、色々できる鍛冶屋」

「だから何なのだそれは……」

 明らかにニルダが呆れている。だが、詳細に「実はチートを持っていて」なんて言ったところで信じてもらえるはずもないからなぁ。

「今のところはそれで納得してくれ」

「むう……」

 もちろんそれで納得できようはずもないが、俺に説明する気がないと分かるとニルダはそのまま食事に戻った。


 翌日、今日からは刀身以外の部分の作成に取り掛かっていく。具体的にはつばつかさやだ。

 これらも本来であればそれぞれに専門の職人がいる。俺の場合はチートでまかなって実用には耐えられるものにできるのだが、北方ではどうしているのだろうか。一度北方に行ってみる必要があるかも知れない。


 まずは鐔と柄と刀身と鞘の全てを結びつける大事な部品、はばきを作る。刀を抜いたときの刀身の根本にある金色のアレ、と言うとわかりやすいだろうか。

 小さめの板金を割って刀身に合わせた形に加工していく。これも銅なんかを使ったりロウ付けしたりと言った工程が存在はするが、俺の場合はチートを使って鋼で合わせてしまうのだ。

 この部分が鐔や鞘と組み合わさるので、チートを使っているとは言ってもかなり気を使う部分である。形が出来たら冷えた状態で鎚で叩いて締めながら刃の根元まで押し上げていく。最終的な位置を決めてヤスリで磨いて仕上げた。

 鎺も装飾のために彫刻を施したり、金を巻いたりすることもあるのだが、今回はこれで良いことにする。


 次は鐔だ。これも様々な形状があり、こうがい小柄こづかを収める穴が空いているものもあるが、今回それらは付属させないし、必要なら国許で作って貰えば良いものなので、丸型で凝った装飾はなしと言うことにした。

 となれば、比較的作りやすい部類に入る。俺の場合はチートという強力なアドバンテージがあるからではあるが、基本的には板金を丸くして鎺が入る穴を空ければ完成だ。ただこのままではあまりにあまりなので、薄めで縁取りが入るようにはしておいた。これで必要とあれば国許で彫刻してもらえば装飾も楽だろう。


 そして柄である。木でなかごが入る箇所を作り、目釘穴に合わせて柄にも穴を空ける。左右で組み合わせて茎を覆うような形にして麻布でピッタリと覆ったあと、革を菱形に巻き、柄頭にめる用の部品を鋼で作って巻いた革の端を留めるように嵌めれば完成である。

 この工程、本来は鮫皮で包んだり、組紐を巻いたりするのだが、どっちもこのあたりでは手に入りにくいので、俺なりのアレンジということになる。

 北方の職人がもしそれらを入手していたら、この仕事は噴飯ものかも知れないが、南の職人が頑張った成果として笑って許して欲しいところである。


 最後に鞘を作らねばならないのだが、ここらで日が暮れてきた。鎺と鐔はともかく、柄はチートが使えても専門外なので思いの外時間がかかったためだ。

 それでも一旦は姿が見たいので、鎺と鐔と柄を組み合わせてみた。鎺に鐔をはめ込み、茎を柄の中に収めたら、木で作った目釘をいれて固定する。

 こうして組み上がってみると、当たり前だが抜き放った刀そのものの形になった。

「おお……」

 ニルダが思わず声を上げる。この反応なら完成時にも満足して貰えるだろう。俺はそう思いながら刀を神棚の下に安置して、作業場の片付けを始めた。

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