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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第1章 異世界での暮らし方編
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 作ったナイフが10本全て売り切れた。

 それ自体は疑いようもなく喜ばしいことなのだが、当然のことながら、次を作るまでは在庫がない。しばらく街に売りに行くのは休みだ。

 その間は製作を頑張っていくしかないが、その前にやっておきたいことがいくつかあった。


 まずは新しい製品の開発。とは言っても大層なものではなく、そろそろ長剣をいくつか作ろうと思う。これが行商人(あるいはその護衛の傭兵)に売れればいいな、という思惑である。ナイフよりは利益が多少良いだろうし。矢じりも作るのを忘れると、サーミャにめちゃくちゃ拗ねられるだろうから、そこは忘れずにおきたい。


 そして、家の拡張だ。サーミャが増えたのもあるが、よくよく考えれば客間がない。この家は"黒の森"の端には近いが、街から来るには一苦労と言った距離だ。普通の注文客なら、打ち合わせや作ったものの引き渡しだけして終わりだろうからまだいいが、もうちょっと付き合いの深い友人や取引先、みたいな人が来た時に泊まるにも泊まれない。かと言って、なんだかんだで遅くなった時に、森に放り出すわけにも行かないだろう。とりあえず2部屋増やしておけば、しばらくは平気かと思う。


 それには材料が必要だが、あいにく乾いた材木がない。このあたりの木を伐れば材木は手に入るが、乾くまでに早くても2週間ほどはかかる。更にそこから部屋を作るとなると、もっと時間はかかるだろう。だが街で買ってくるにも、ここは少し遠すぎる。俺は仕方なしに現地調達を決めた。


 さっきも言ったが、ここは森の中だ。周囲に材料はいっぱいある、が、それを入手するには道具がいる。斧と大鋸だ。斧は以前に作ったものがあるが、あれはあくまで"市販むけ"の品であって、俺が使うことは想定してない。なので、俺が使う専用のものを作成する。

 ……何だかドンドン作るものが増えている気がするが、作るのは好きなので気にしないようにしよう、うん。


 まずは斧と鋸だ。斧は板金を重ねて火床で熱し、叩いて厚い板金にしたら、形を作って焼入れして作る。木を伐り倒すために作ったので、刃は鋭くはしてない。

 大鋸は板金を叩いて薄めの鈑金にし、タガネでノコ刃を作ったら、ヤスリで研いで完成である。簡単に言っているが、慣れてないせいもあって大鋸だけで1日仕事だった。


 その合間の息抜きに、矢じりを作ることも忘れない。矢じりは木型に粘土を貼り付けて型を作り、それを砂の中に埋めて鋳型にしたら、"炉"で溶かした鉄を流して冷めたところで取り出す。湯口にしたところを加熱してシャフトを突っ込む穴を作り、その後で研いで鋭くすれば矢じり自体は完成である。このあと、サーミャが持っているシャフトに固定する作業があるが、それはサーミャが狩りに出る前日くらいの作業で問題ない。


 さて、いよいよ伐採である。家の周囲はちょっとした広場のようにはなっているが、それでも鬱蒼とした森の中であることには変わりない。もう少し庭というか、畑予定地を広げてもバチは当たるまい。

 斧やらを作っている間は、運動がてら水くみ(ただし瓶は一つだけの半分くらい)やその他にも、食事以外の雑事をサーミャにお願いしていたが、今日は鋸の手伝いをしてもらうことになっている。食事がずっと俺の担当なのは、サーミャ曰く「アタシが作るより、エイゾウが作ったほうが美味いからに決まってるじゃん!」とのことだからだ。……なんとでも言ってくれ、褒められるとチョロいのだ、俺は。


 俺は作った斧をひょいと担いで、木の前に立つ。そして野球でノックをするような体勢になると、そのまま斧の刃を木に打ちつけた。

 コーン!と空まで抜けるような小気味よい音が、かなりの音量で響くが、木に変化はない。……かに思えたが、木がズルっと打ちつけたのと逆の側に滑って倒れる。ズズーンと重い震動があたりを揺らす。

 断面は前の世界で製材機に通したあとのように綺麗だ。自慢の製品ではあるが、この《伐れ》味は恐ろしいものがあるな。気をつけて伐らないとこっちに倒れてきて、二回目の人生が終わってしまう。

 今後のことも考えて、もう一本だけ伐ることにする。打ち下ろし方向に伐るのも忘れない。再び大きな音と震動がして、無事に2本目も伐り終えた。


 伐った木の枝を斧で払う。普通は細い枝は剣鉈のほうが良いんだろうが、そこは俺ご自慢の斧である。何の苦労もなく切り払えた。そうしたら適当な長さで今度は垂直に斧を叩きつける。またまたコーン!という音が響いたが、何も起きなかったように見える。しかし、これはちゃんと切れているのだ。その証拠に、ぐっと押すと伐った長さでゴロリと転がった。それを何回か繰り返して、板材にする準備ができると、

「サーミャ!」

 俺は大きな声で家に呼びかけた。ややあってサーミャが家から大鋸を持って出てくる。呼んだらついでに持ってきてくれるよう頼んでおいたのだ。


「いよいよアタシの出番か!」

「ああ、だが無茶はするなよ。つっても、そんなに力はいらないはずだが」

「わかってるよ。エイゾウが()()出して作ったんだろ?」

「俺の道具だからな」

「じゃあ心配いらないよ。サクッと切っちまおう」

「おう」

 俺とサーミャと二人で倒れた木を挟み込むように立つ。間には大鋸。コレで横方向に切って板状にしていく。普通ならそれなりに力も必要だし、時間もかかるが、豆腐を切っているかのように、なめらかに進んでいく。

「わはは! なんだこれ! 気持ち悪ぃ!」

 あんまりにもなめらかなので、サーミャが笑い出す。

「あんまり笑って、ガタガタにするなよ?」

「わかってるって! ちゃんと気をつけてるよ!」

 結局、1回大鋸を入れるのに10分とかからなかった。

「この調子なら、今日中には切り分けるのはできそうだな」

「そうだな。普通ならもっとかかるんだろうけど、エイゾウの道具だからなぁ」


 間に昼食や休憩を挟んだりして、丸一日かけることにはなったが、板材の切り出しと乾燥のために積み上げる作業は完了できた。


 さて、いよいよ明日から長剣の製作に取りかかれるぞ。

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