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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第4章 魔物討伐隊遠征編
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エイムール邸にて

「おいおい、これはどういうことだ?」

「見ての通り、報酬だよ」

「いや、それは分かるんだが……」

 俺は額の話をしているのだ。何をどうしたら洞窟に潜っていったのと、修理の歩合でこんな量の金貨になるのか。俺がそれを伝えると、マリウスは苦笑しながら言う。

「普段は金、金と言う割に、貰う正当性についてはえらく拘るよな」

「いわれのない金を受け取るわけにはいかないってだけだ」

「めんどくさい職人みたいな事を言うんだな」

「そりゃ、めんどくさい職人だからな」

「そうだった。うっかりしていたよ」

 俺とマリウスは笑いあった。


「それは変な金じゃない。つじつま合わせなんだよ」

「つじつま合わせ?」

 マリウスが頷いて続ける。

「エイゾウには重要なアレを作って貰ったことがあっただろう?」

 アレ……?ああ、家宝か。リディさんがいるから具体的には言及しないのだろう。

「あったな」

「あの時は不自然にならずに動かせる金額があの額で上限だったが、今回は隠れ蓑がいっぱいあるんでな。あの時に俺が足りてないと思った分が上乗せされている。だからつじつま合わせだよ」

「なるほどね」

 あの時、俺に渡した金額では不足しているとマリウスは考え、今渡そうとしているわけだ。誤魔化し方も深くは聞くまい。

 ただ、普通の方法ではないだろうから、そういう手段をとってまで用意してくれたのだとすると、これは受け取らないのも誠実ではないようには思う。

「わかった。今回は受け取るよ」

「そうしてくれ。それはエイゾウが受け取るべき正当な報酬だ」

 俺は金貨の詰まった小袋を背負い袋に入れた。まさかこんなおっさんの背負った袋に、しばらくは遊んで暮らせるだけの金が入ってるとは誰も思わないだろうな。


「さて。これで報酬周りの話も終わったし、エイゾウは帰るだけか?」

「ああ、もう特に用事はないな」

「とは言っても、今日は帰りつけないだろう?」

「まぁね。宿でも取ろうかと思っているとこだよ」

 無理に帰れなくはないが、そこまでする必要を感じてはいない。どこかに宿を取って(もちろんリディさんとは部屋は別だ)、明日の早い時間に都を出れば、徒歩でもその日のうちに家にはたどり着けるはずである。

「それならうちに泊まっていくといい。客室も空いてるし。メシでも食べながら話をしよう」

 渡りに船ではある。リディさんを普通の宿屋に泊めても平気だろうか、というのは若干心配でもあったし、ここはお言葉に甘えておこう。

「すまないな。じゃあ、そうさせてもらうよ。リディさんもそれでいいですか?」

 リディさんは「都のことはよく知らないので」と頷いた。

「それじゃあ、早速だがまずは部屋に案内しよう。頼んだぞ」

 後半は来ていた使用人2人にかけた言葉だ。2人は頷くと、「こちらへどうぞ」と俺とリディさんを先導して案内を始めた。


 2人とも女性だが、俺のチートが武術に覚えがあることを教えている。生半可な人間が彼女たちを押し倒そうとしようものなら、次の瞬間に床に転がっているのは自分だろう。怖いわぁ、このお家。

 きらびやかさはないが、剛健さのある廊下を進んで、俺とリディさんは別々の部屋に招き入れられる。

「お湯をお持ちしますので、こちらでおくつろぎください」

「ああ、助かります。ありがとうございます」

 遠征の間、水で濡らした布やなんかで可能な限り身ぎれいにはしていたが、同じことでも湯でやるのと水でやるのとでは気持ちよさが格段に違う。いずれ家に五右衛門風呂でも作るべきかなぁ……。


 お湯と着替え――シンプルな構造のものだったので、着替えさせて貰う必要はなかった――を貰って体を綺麗にすると、人心地がついた。俺の服は今洗えば明日の朝には乾いているだろうという話だったし、洗ってくれるということだったので、お言葉に甘えてお願いしておく。

 ベッドにごろりと横になる。久しぶりのふわっとした感触が心地よい。それにしても、道中の馬車の乗り心地は酷かった。鎖や革紐で吊り下げる懸架式はあるようだが、それ以上のサスペンションはまだないので、あの乗り心地も仕方ないものとは言える。

 だが、前の世界でも板バネは古くからあったみたいだし、そこからしばらくはサスペンションの発展もあんまりなかったようなので、板バネは少し先んじて導入しても良いかも知れない。

 そんなことを考えていると、いつの間にか意識が闇の中に消えていった。


「……ま、……さま。……きてください。エイゾウ様!」

 ゆさゆさと俺の体を揺さぶる感覚。せっかく寝てるのに、と思って揺さぶる手をそっと掴む。

「キャッ!」

 驚いた声が小さく響いて、俺は目を覚ます。目をまんまるに見開いたエイムール家の使用人と目が合った。俺は自分の肩に置かれたその人の手を上から握っている。

 一瞬状態が分からなかったが、すぐに理解して慌てて離す。

「す、すみません!」

「いえ、驚いただけですので、お気になさらず」

 俺が謝ると、使用人は微笑んで言った。

「私、どれくらい寝てましたかね」

「1時間かそれくらいだと思いますよ。部屋にご案内したあと、夕食の準備ができてから、こちらに伺いましたので」

「なるほど……。別に手首を極めてくださってよかったのに。そしたら一発で目が覚めました」

「エイゾウ様が不埒なことをするお方なら、遠慮なくそう致します」

 使用人はクスリと笑うと、「失礼します」と言って俺の髪をちゃちゃっと触って直し、食堂へ案内をはじめた。


 夕食はマリウス、俺、リディさんの3人でとった。話題はどうしても今回の遠征の話になる。俺は洞窟内部での出来事を詳しく語った。マリウスは興味深く耳を傾け、リディさんが時折補足を入れる。

 マリウスは指揮の方の話だ。上は上で指揮する、ということが大変だということはよくわかった。

 いくら補給や負傷した兵士の管理、小隊ごとの指揮統制はそれぞれ専門がいるとしても、全体の統括指揮はマリウスの仕事だからな。一部をルロイが肩代わりしたところで、最終的に決定しないといけないのはマリウスだ。

 今回は目標もハッキリしているし、相手も本拠地を変えるような相手ではなかったから良かったが、魔族や人間相手の戦だったらこう易易やすやすとはいかないだろう、というようなことをマリウスは言っていた。


 戦は世の常だし避けることは難しいだろうから、マリウスには自分を含めて1人でも多く無事に帰還させられる名指揮官になって欲しいものだ。そんなことを思った。

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