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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章 皇帝陛下の剣編

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謁見

日森よしの先生によるコミカライズ版第31話②が公開されました!

討伐を終えて、エイゾウに依頼されるものとは……。どうぞお楽しみください。

https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430003900021_E?episodeType=first

 前日のうちに「上手くいけばご覧いただける可能性も十分にある」とヴィクトリアさんに伝えていたこともあってか、皇帝陛下への謁見はすんなりと段取られた。

 何せヴィクトリアさんに頼んでから1時間も経っていない。意外と暇だった可能性もあるが、これはこちらに予定を合わせてくれたのだろう。


 普通の鍛冶屋であれば、その人生の中で1度も入ることがかなわないかも知れない、重厚な扉の向こうにある謁見の間。

 その広間に満ちる厳かな静寂の中、玉座には皇帝陛下がゆったりと腰を下ろし、その傍らには数人の文官や近衛騎士が彫像のように控えていた。

 俺とヴィクトリアさん、カテリナさん、アネットさんの四人は、玉座の前に並んで深く一礼した。


「面を上げよ。エイゾウよ、発見された石の正体は掴めたか」


 威厳に満ちた皇帝陛下の声が響く。俺は顔を上げ、背筋を伸ばして答えた。


「はい、陛下。あの未知の鉱石は、我々鍛冶屋の常識を根底から覆す、極めて特異な性質を持っていました」


 俺はこれまでの検証結果を、順を追って説明した。

 あの石は凄まじい吸熱性を持ち、周囲の熱を急速に奪い尽くすこと。

 そして、熱を帯びて飽和することで初めて、ハンマーによる強い打撃すら弾き返す硬度を発現すること。逆に言えば、熱を失っている常温の状態では、硬めの粘土のように変形させることが可能であること。


「常であれば柔らかく、熱を帯びて硬くなる……。なるほど、通常の鋼などとは全く逆の性質というわけか。それでは、武具として実用化するのは不可能ではないのか?」


 皇帝陛下が興味深そうに身を乗り出す。俺は恭しく頷き、用意していた革の鞘を取り出した。


「仰る通り、そのままでは使うたびに炉の業火へ放り込む必要があります。そこで、この性質を逆手に取り、陛下の護身用の短剣を打たせていただきました。いえ、打つ、というような作業ではありませんでしたが」


 俺は鞘から黒い短剣を抜き放ち(一瞬だが殺気が謁見の間に広がった)、両手で捧げ持つようにして見せた。

 星空のように煌めく漆黒の刀身が、謁見の間のシャンデリアの光を反射して美しく輝く。


「見事な刃だ。だが、今は常温であろう。柔らかいままでは護身用にはならんぞ?」

「ご安心ください。その刃の中心には、ヴィクトリア殿に調達していただいた〝竜の息吹〟が封入されております」


 俺がそう言うと、皇帝陛下はわずかに目を見張った。


「竜の息吹だと? あの何に使えるかよく分からないものをか」

「はい。〝竜の息吹〟には熱を発する特徴がありまして。ただ、帝都では生み出す熱もごくわずかです。しかし、底なしの吸熱性を持つこの石は、内部から発生するその微小な熱を一切外へ逃がすことなく、現在もじわじわと吸い込み続けています」


 俺は短剣の刀身に視線を落とした。


「昨晩形を整え、〝竜の息吹〟を刃の中に完全に封じ込めました。今朝の時点ですでに、昨日よりも確実に硬度が増していることを確認しております。完全に熱が飽和し、あの無敵の硬さに到達するまでには、ここから数ヶ月の時間を要するでしょう。ですが……」


 俺は陛下に目を合わせる。


「いずれは、立派な護身剣が完成するというわけだな」


 皇帝陛下が俺の言葉を引き継ぐ。


「ただ、吸い込んだ熱がいずれ身に着けていられないほどになるかどうか、についてはなんとも申し上げられませんので、そこはお気をつけください」


 俺がそう付け加えると、陛下は満足そうに口元を深く綻ばせ、たった一言、


「見事である」


 とだけ言った。


「勿体なきお言葉、光栄に存じます」


 俺が深く頭を下げると、ヴィクトリアさんたちも同時に首を垂れた。


「その短剣は余が直接預かろう。数ヶ月後につけるようであれば、余の懐刀として末永く重宝させてもらう。エイゾウよ、この度の大任、大儀であった。十分な恩賞を遣わそう」

「ありがたく頂戴いたします」


 玉座の傍らに控える側近の一人が静かに進み出て、俺の手から恭しく短剣を受け取った。

 これで、帝都での俺の役目は完全に終わった。

 未知の鉱石の調査と実用化。そしてほんのちょっぴりの親善大使の真似事。

 一時はどうなることかと思ったが、なんとか落ち着いたな。


 謁見を終え、金剛宮の豪奢な廊下を歩きながら、俺は大きく息を吐き出した。


「大役、お疲れ様でした、エイゾウさん」


 隣を歩くカテリナさんが、安堵の笑みを浮かべて労ってくれる。


「ええ。カテリナさんやアネットさん、そして〝竜の息吹〟を手配してくれたヴィクトリアさんの協力があったからこそ、無事に完成させることができました。感謝しています」

「ふふ、私は陛下のために素材の手配をしたまでですよ」


 ヴィクトリアさんが理知的な表情を崩し、少し照れくさそうに微笑んだ。


 この帝国での仕事も悪いものではなかった。

 だが、今の俺の心は、すでに遠く離れた〝黒の森〟へと向いていた。

 家族同然の仲間たちが待つ、騒がしくも温かい我が家。あそこに戻り、自分の工房でいつものように鋼を打つ日常が、今は無性に恋しい。


「さあ、帰る準備をしましょうか」


 俺の言葉に、カテリナさんとアネットさんが力強く頷いた。

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― 新着の感想 ―
おや、謎の鉱石に名前つけないのか
おや、この鉱石はここで終わりか。 この後刃をどう付けたり研いだり、もっと形を整える試作や他の金属と混ぜて合金にする案とかあるのかと思った。 今後また新たな使い道が出てきたりするのかな?
あの皇帝陛下の事だから、まだ何か驚かすネタを仕込んでいても不思議無い・・・気がする
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