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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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岩山の採掘場

日森よしの先生によるコミック版の31話①が公開されました!

ホブゴブリンとの再戦ですね!

普段あんまりバトルしない作品のはずなので、貴重なバトルメイン回もいよいよクライマックスです。

https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430003900011_E?episodeType=first

 いくらか町を過ぎ、激しく揺れを伝え続けていた馬車が、その速度を緩め始めた。

 切り立った岩壁の間を抜けると、不意に視界が開ける。すり鉢状に窪んだ巨大な岩肌に張り付くようにして、無骨な石造りの建屋や、太い丸太を組んだ櫓が立ち並ぶ光景が現れた。どうやら、目的地である鉱山の拠点に到着したようだ。


「到着いたしました。皆様、長旅お疲れ様でした」


 ルシアさんの落ち着いた声に合わせて馬車が完全に停止する。御者さんが外から扉を開け、俺たちは順番に地面へと降り立った。固まった身体をほぐすように伸びをすると、ふわりと独特の匂いが鼻腔を突く。岩を砕いた粉塵や大勢の人間が発する熱気が入り混じった空気だ。

 これが採掘場の空気というものなのだろうか。


 周囲を見渡していると、カァン、カァンという金属が岩を打つ乾いた音が、山彦となってあちこちから響いてくる。採掘された鉱石を運ぶための木製の猫車みたいなものを筋骨隆々の鉱夫らしき人たちが押して、忙しなく行き交っている。

 ここはただの活気ある鉱山というわけではなかった。要所要所には兵士たちが鋭い目を光らせており、物々しい警備体制が敷かれている。


「王国の鉱山もいくつか見たことがありますが、これほど大規模なのにしっかり防備が固められ、なおかつ整然としているのは初めて見ました」


 カテリナさんが砂埃を気にする素振りも見せずに、感嘆の声を漏らした。王国の使節として、彼女なりに帝国のインフラの強固さを分析しているのだろう。アネットさんも、周囲の兵士たちの配置や死角の少なさを、プロの目で素早くチェックしているようだ。


「ここは帝国の武を支える生命線の一つですから。特に今回は、陛下が直接関心を寄せられるほどの『未知の鉱石』が産出した場所です。警備も平時の倍以上に引き上げられております」


 ルシアさんが静かに答えながら、俺たちを先導するように歩き出した。兵士たちがルシアさんの姿を認めるや否や敬礼する。彼女もそれに軽く頷いて返しつつ、拠点の中央にある一際大きな石造りの建屋へと向かった。おそらくここが、この採掘場の管理棟のような建物なのだろう。

 分厚い木の扉を開けて建屋の中に入ると、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。石の壁が音を遮ってくれているらしい。


 奥の部屋に通されると、大きな机に大量の羊皮紙や図面を広げていた初老の男が、慌てた様子で立ち上がった。立派な灰色の髭を蓄え、鎧ではなく丈夫そうな革の作業着を身に纏っている。

 しかし、その体つきは岩のようにがっしりとしており、ただの文官ではないことが一目でわかった。長年、現場で土埃と汗にまみれてきた親方の顔だ。


「ルシア副将殿! お待ちしておりました」


 男が深々と頭を下げる。


「ご苦労様です、バルガス殿。採掘作業は順調ですか?」


 ルシアさんは男をバルガスと呼び、労いの言葉をかけた。


「はっ。例の鉱石が産出した層は現在厳重に封鎖し、今は他の鉱脈での作業を優先させております。……して、そちらの方々が?」


 バルガスさんの視線が、俺とカテリナさんたちに向けられる。ルシアさんは一歩下がり、俺を手で示した。


「ええ。こちらが、陛下が直接ご指名になられた鍛冶屋のエイゾウ殿です。そして、あちらは王国からの使節であらせられるカテリナ殿、アネット殿です」

「おお、あんたがたが……」


 バルガスは驚いたように目を丸くし、改めて俺をマジマジと見つめた。無理もない。見た目はただの冴えないおっさんだからな。

 だが、彼の目には侮蔑の色はなく、むしろ職人としての俺の力量を推し量るような、真剣な光が宿っていた。彼の手のひらに見える分厚いタコが、彼が現場の人間であることを何より物語っている。


「おっと、これは失礼いたしました。この採掘場の責任者を務めております、バルガスと申します。エイゾウ殿のお噂は、ルシア殿からの先触れで伺っております。なんでも、帝都の職人も舌を巻くほどの業物だとか」

「エイゾウです。ご丁寧にありがとうございます。いえいえ、私はただの鍛冶屋ですよ。今回はその、見慣れない石が出たということで、少しばかり私の知識をお役に立てればと馳せ参じた次第です」


 俺が素直に頭を下げると、バルガスさんはホッとしたように相好を崩した。


「そう仰っていただけると助かります。恥ずかしながら、長年この山を掘り続けてきたワシらの目をもってしても、あの石が何なのか、どう扱えばいいのか、全く見当がつかんのです」


 バルガスさんは深い溜息をつき、頑丈そうな手で己の髭を撫でた。


「ベテランの工夫が振るったツルハシの刃が欠け、その割に手で揉んでやると形を変える、と言う代物でしたな。現物はこの奥の保管庫に安置してあります。早速、ご案内いたしましょう」


 バルガスさんが立って、俺たちを外へと促した。

 さあ、いよいよ未知の素材との対面だ。それにはどうしても胸が高鳴ってしまう。

 俺はそのワクワクを隠さずに言った。


「ええ、お願いします。職人として、ワクワクしてますよ」

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