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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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城塞都市

 重厚な金属の装飾が施された巨大な城門をくぐり抜けると、そこは外の荒涼とした風景とは打って変わって、むせ返るような活気と熱気に満ちた空間だった。


 革命騒ぎの折、ヘレンを救出するために密かに潜入したこの町だが、あの時は夜の闇と緊迫感に包まれていた上、隠密行動が最優先だったため、町の全容をじっくりと把握する余裕など全くなかった。

 こうして白日の下――いや、傾きかけた夕日の下で堂々と馬車から見渡すと、ここがいかに巨大で強固な「城塞都市」であるかが痛いほどによくわかる。


 まず目を引くのは、町をぐるりと囲む城壁の圧倒的な厚さと高さだ。内側から見上げると、その質量に息を呑む。

 単なる石積みではなく、負荷のかかる要所要所には金属製らしき補強がされており、万が一の激しい攻城戦にも徹底的に備えられている。

 鍛冶屋の端くれである俺の目から見ても、その力の入れようは尋常ではないなと思わされる。


 そして、町中を網の目のように縦横に走る水路だ。


「先ほども少しお話ししましたが、ここは帝都へ向かう流通の要ですからね」


 馬車の中から外を興味深そうに眺める俺に、ヴィクトリアさんが微笑みながら言う。


「ええ、本当に見事なものです。これだけの水路網があれば、重い物資の運搬はもちろんですが、いざという時の防衛線や、火攻めへの対策としても完璧に機能するでしょうね」


 俺がそう返すと、彼女は少し驚いたように頷いた。

 水路には荷舟が何艘も行き交い、堅牢な煉瓦造りの倉庫群へと吸い込まれていく。街道の交わる場所であり、これほどの水運も利用できるとなれば、町がここまで巨大化するのも当然と言える。


 目抜き通りは大型の馬車が三台並んで走れるほど広く、敷き詰められた石畳は長年の往来で滑らかに磨き上げられていた。

 沿道には様々な商店が軒を連ね、夕刻の書き入れ時とあって、客引きの声や商人たちの活気あるやり取りがそこかしこから聞こえてくる。


「やはり、帝都に近い軍事的な拠点だけあって、武具の需要もあるんでしょうね」

「ええ、常駐する兵の数も昨日の町よりもかなり多いですから。その分、質の良い武具が求められています」


 ヴィクトリアさんの言葉通り、通りを歩く衛兵たちの装備は統一感があり、よく手入れが行き届いている。

 以前の潜入時であればなるべく目立たぬように振る舞う必要があったのだが、今は堂々と大通りの中央を進んでいるのだから、なんだかひどく不思議な気分だ。


 御者台のカテリナさんが巧みに手綱を操り、人混みと荷馬車を縫うようにしてスムーズに進んでいく。水路にかかる頑丈なアーチ状の石橋をいくつか渡ると、喧騒の激しい商業区画から、少し落ち着いた雰囲気の区画へと入っていった。

 この辺りは、少し身分の高い人物が宿泊する宿が立ち並ぶエリアらしい。建物の装飾も少し豪華になり、警備に立つ者たちも相応に出来そうな雰囲気を漂わせている。


「あの騒動の時は、こんな場所をゆっくり眺めながら歩くことなんて、想像すらしていませんでしたよ」


 俺がぽつりと言うと、ヴィクトリアさんがクスクスと笑った。


「ふふ、そうでしょうね。今回はのんびりと過ごしていただいて大丈夫ですから」


 やがて馬車は、立派な石造りの建物の前で静かに停車した。

 透かし彫りの見事な鉄柵に囲まれた広い前庭があり、入り口には従業員らしき男が数人、背筋を伸ばして待機している。

 この人たちも多分「手の者」なんだろうな。


「本日の宿はこちらです」


 ハリエットさんの声に合わせるように歩み寄り、恭しく頭を下げる彼らに短く礼を言い、俺は馬車から降り立った。

 俺たちが降りるやいなや、彼らは馬車を裏手に回す。手際が良いな。


 足裏に伝わる石畳のしっかりとした感触。見上げれば、重厚ながらもどこか温かみのある宿の灯りが、夕闇が迫る空にぽつりぽつりと浮かび上がり始めていた。


 家族の待つ我が家の「いつも」の温かさには敵わないかもしれないが、この巨大な城塞都市が提供する夜を、今日は少しばかり楽しませてもらおうかな。

日森よしの先生によるコミカライズ版30話②が公開されております。

立て直しとエルフの宝剣の秘密のところになります! 宜しくお願いします!


https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430003800021_E?episodeType=first

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