帝国で最初の食事
ヴィクトリアさんが指を鳴らすと、少しして酒と食事が運ばれてきた。
食事がやたら豪華だったらどうしようかと思ったが、そういうことはなく、全体的に肉が多いのと、パンが比較的柔らかい程度の豪華さで、贅をこらしたものではないようで、内心でホッと胸をなで下ろす。
だが、見た目通りの素朴さとは裏腹に、スープは燻製肉と乾燥ではないらしい野菜が入っているし、焼いた肉には少しだが凝ったソースがかかっているようだ。
俺はさておき、王国のお客さんや皇女殿下もいるので、下手なものは出せないのだろうな。
「美味しいですね」
スープを一口飲んだ俺は素直にそう言った。見て分かるような贅沢さはないが、ブイヨンからちゃんと仕込んだコンソメスープのような、そういう滋味深さが口に広がる。
コンソメスープも、ちゃんと作ると30時間以上かかるんだよな……。
「そう言っていただけて何よりです。帝国は王国ほど手の込んだ料理はないもので、緊張しておりました」
「いえいえ、本当に美味しいです。ねえ?」
俺はカテリナさんに言った。彼女も一口啜ってから満面の笑みを浮かべ、
「はい! これは美味しいです!」
笑顔のままでハッキリとそう言った。彼女もそれなりに演技ができてしまう人ではあるが、あの顔は本心だろう。
「〝黒の森〟ではどのような食事を?」
ハリエットさんが単刀直入に聞いてきた。一瞬ヴィクトリアさんが咎めるような仕草を見せたが、俺はあまり上手くない笑顔を作り答える。
「このスープと似たようなものですよ。肉が〝黒の森〟に住む獣のもので、野菜は庭の畑で採れたものが中心ですし、到底こんなに手の込んだものではありませんが」
言ってから俺は「もしかして、妹が何を食べさせられているのか気になったのかな」ということに気がついた。実際、アネットさんの視線がやや冷たい気がする。
もし、ハリエットさんがその意図で聞いたのであれば、粗末な食事に聞こえるような回答はマズかったかもしれない。
だが、その心配は杞憂だったようで、ハリエットさんはほんの僅か口角をあげて、
「まあ、〝黒の森〟の肉を? それはアンネマリーも喜んでいることでしょう?」
と言った。多分、少しだけ上がった口角は満面の笑みなのだろう。どうやら逆鱗には触れずに済んだようだ。
「ええ。彼女から直接文句を聞いたことはないですね」
俺が小さく肩を竦めて言うと、テーブルに笑い声が広がった。
それで俺はグッと酒のカップを呷る。中はエールで、アルコール度数も高くない。そんなエールでさっきの緊張を飲み下す。
「やはり、〝黒の森〟の肉って変わってるのですか?」
今度はヴィクトリアさんが興味津々と言った感じで聞いてくる。
「さあ、どうでしょう……。そこまで大きな違いはなかったように思いますが」
こっちの世界に来てから口にした肉の大半が〝黒の森〟のものなので、よそとの違いをちゃんと知っているかと言われると、そうでもない、というのが正直なところなのだ。
「私も興味ありますね」
何故かカテリナさんも話に乗ってくる。
「肉はそこそこ貯蔵しているのがありますので、帰ったらいくらか融通しますよ」
俺が苦笑交じりにそう言うと、ヴィクトリアさんとカテリナさんは、小さめにハイタッチを交わすのだった。




