帝国の町2
アネットさんとハリエットさんから目を逸らし、帝国の町を行き交う人々を見る。
なるほど、言われていたとおり、王国の街よりも種族が多いようだ。あっちだと人間が7でその他の種族が3といった感じだが、
こちらでは人間とその他が同じくらいの割合でいる。それでも人間が多いのは単に人口比じゃなかろうか。
エルフは身体の維持に魔力が必要で、移動が難しいこともあって見かけないが、様々な動物の獣人、ドワーフ、マリートに巨人族、リザードマンが同じくらいいる。
種族が多いぶん、それぞれの人数は多くないが、皆明るい顔をして街路を行き交っていた。
そんな中、少し変わった風貌の人を2人ほど見かけた。
1人は黒い短髪のリザードマンかと思ったのだが、鱗の具合が違う男性、もう1人は長い緑の髪だが、肌が樹皮のように見える女性だ。
「あの方々は?」
「え? ああ、王国には少ないですかね。あの男性はマーマンです」
聞いては失礼かとも思ったが、思い切って聞いてみると、ハリエットさんが答えてくれた。
なるほど、マーマンの男性はリザードマンとは鱗の具合が違うと思ったら、魚の鱗なのか。風貌的に魚が人間になった感じではないが、ハリエットさんの風貌が蜥蜴の獣人と言ったほうが近いように、魚の獣人に近い人たちもいるんだろうな。
「マーマンはそれなりに陸を移動できるので、今後も見かけると思います。我々の末の妹はマーメイドで水が必須のため、あまり城から動けないのですが」
「末の妹さん、と言うことは」
「はい。母親もマーメイドです。普段は2人とも水を湛えた1部屋で過ごしています」
水が必須であまり外に出られないということは、マーメイドのほうは上半身が人間で、下半身が魚なんだろうな。
そして、当たり前だがハリエットさんたちの妹なので、皇帝陛下にはマーメイドのお后様もいることになる。
うーん、色々大変そうだ。
俺が内心で陛下の心労いかばかりかと思っていると、ハリエットさんが続けて言う。
「あちらの女性はトレントですね」
「トレント?」
「身体的にはほぼ樹木のような種族だそうです。『普通』の種族の中では一番精霊に近いと伺っています」
「ほほう」
「〝黒の森〟にはいませんでしたか?」
「私はお目にかかったことがないですね」
樹木の精霊、それも最上位の人には会ったことがあるのだが、トレントに会った記憶はない。
あれだけ広い〝黒の森〟なので、単に出会ってないだけの可能性は高いのだが、植生みたいなもので、〝黒の森〟だと育ちにくい条件があるのかも知れない。
しかし、肌の感じ以外は普通に人間の女性だと言われても分からない。目がウロになっているとか、鼻が枝のようになっているようでもない。
俺がそれを素直に伝えると、ハリエットさんは頷いた。
「そうですね。でも、肌以外にもよく分かるところがあります」
「そうなんですか?」
「はい。トレントたちは口や表情が動かないのです」
「では、会話は?」
「普通にできますよ。聞こえてもいます。慣れると感情もよく分かります」
そう言うハリエットさんの表情もなかなかに掴みづらい。道中も話していて、ここに来てようやく些細な変化が満面の笑みだったりするのでは、と思いはじめたところである。
そう思っていたことがバレると打ち首になりかねないが。
と、思っていたら、
「ハリエットもいい加減表情分かりにくいですからね」
そうヴィクトリアさんが混ぜっ返し、
「そうですか? 母様にはもう少し表情を隠す練習をした方がいいと言われるのですが」
ハリエットさんは本気のトーンでそう言って、首を傾げた。




