帝国への道3
あまり変わり映えのしない道を馬車が進んでいく。馬が頑張ってくれているので、快調と言って良いのが救いだろうか。
「そう言えば、お二人ともこういうお仕事が多いんですか?」
他に誰に聞かれることもない、草原の街道を行く馬車の上である。俺はあまり遠慮せずに聞いた。
「私はそうです!」
馬車の車輪が回るガラガラという音に負けないくらいの声でカテリナさんが答えた。
使用人だけど、家事的な仕事はあまりしないのだと前に言っていたな。
「頭を使うのがどうも上手くないものでして。手先もあまり器用じゃないですしねー。そんなわけで、マリウス坊ちゃ……様からは主にこういう仕事を任されてます」
「私も同じようなものですよ。私はカテリナさんとは違って、あまり荒事には長けていませんが」
アネットさんは比較的抑えめの声で言った。
荒事に長けていないそうだが、遺跡のときにはルイ殿下と一緒に来ていたし、ヘレンも置いて行こうとは言わなかったので、そこそこ手練れなんじゃなかろうか。
でも、荒事に強いのと、知略に優れたのと、両方の密偵が揃ってるというのは中々バランスがいいのではなかろうか。
ルイ殿下とマリウスがこの2人にした理由もそこにありそうな気がするな。
「エイゾウ様はずっと鍛冶屋を?」
「え? いえ、鍛冶屋の前は別のことをしていました」
俺のほうにも水を向けられて、俺は誤魔化しつつそう言った。
誤魔化しはしたが嘘ではない。プログラマー、というこの世界ではまだ出現していないであろう仕事をしていただけだ。
「それでは、あの腕前になるには苦労なされたでしょう?」
「それがどうも、鍛冶屋のほうが性に合っていたようでして、思いの外すんなりと。もちろん、それなりの苦労はしていますが」
チートを貰ってるので、とは流石に言えなかった。だが、アネットさんはそれで納得したようである。
「才ある方が、その才に目覚められたのは我々にとっても僥倖でした。そう言うときは上達も早いと聞きますし」
「そういえば、ディアナお嬢様も剣を習い始めてから、凄い早さで上達なさってましたねえ」
しみじみとカテリナさんが言った。ディアナは〝剣技場の薔薇〟とまで呼ばれるくらいに剣が達者である。
その自信も自分より強い人間が2人もいる環境では些か陰りを見せてしまっているが、2人のうち片方は最強と言って良いくらいの人物なので、卑下するもんでもないと思うのだが。
もう片方が俺であるところには素直に申し訳なさもある。
「あれは元々の気性というやつでは」
「あ、今度お屋敷にいらしたときに、お嬢様に言いつけますね」
「それはご勘弁ください」
俺が言うと、カテリナさんが大きく笑った。アネットさんもクスクスと小さく笑う。
「〝黒の森〟って普段はどういう生活をなさってるんですか?」
アネットさんが聞いてくる。探りを入れているのかなとも思ったが、単純に気になってのようだ。少しばかり目に興味の色が浮かんでいる。
普通なら住もうとは絶対に思わない場所での生活。そりゃあ興味はあるよな。
俺たちがしたいかどうかはさておき、宮殿での生活がどういうものか気になるみたいに。
「そうですねぇ。でも、そんなに変わったところはないですよ。普通です」
「〝黒の森〟で普通に暮らせているのが、もう普通じゃないと思いますけどね」
そうツッコミを入れたカテリナさんの声に肩を竦めて、俺は2人に〝黒の森〟でののんびりした暮らしについて、語り始めるのだった。




