帝国への道1
馬車は急ぎ足で進んで行く。全力で走らせてしまうと、すぐに馬は潰れるので、そうならずギリギリ長距離を走破できるくらいの速度なんだろうな。
ふと見回せば、荷台には馬のものだろう干し草や塩、水が積まれていた。そこそこの量に見えるが、道々で補給もするのだろう。
「そう言えば、帝国の都まではどれくらいなんです?」
「そうですね……」
俺の疑問に、アネットさんが空を見上げて小首を傾げる。
「エイゾウ様が以前潜入なさった街は、帝国でも端のほうにあたります」
「あそこまではそんなにかかりませんでしたね」
「ええ」
アネットさんは俺の眼を見て頷いた。
「状況にもよりますが、この速さで進むなら、あそこから更にもう3~4日はみていただけると」
「となると、7日かもう少しですか」
「そうなりますね」
向こうについてからは2週間ほどの滞在期間がある予定だ。つまり、おおよそ1ヶ月程度の外出になる。
帰る頃にはすっかり夏だな。そこそこの期間だなと思うが、過ごせばあっという間なんだろうな。
「お二人とも、持ち場を離れてて大丈夫なんですか?」
俺は懸念を口にした。カテリナさんにせよ、アネットさんにせよ、結構忙しそうなので、俺の帝国行きにかかずらっている暇があると思えない。
だが、返ってきたのは2人の笑い声だ。
「エイゾウ様が気になさることではないですよ」
「今これ以上に大事な仕事もそうありませんので!」
笑いながらアネットさんとカテリナさんが言う。
カテリナさんは続けて言った。
「そうそう、道中と向こうに着いてからの身の回りのお世話は私たちがすることになってますので」
「えっ」
俺は思わず腰を浮かしかけたが、馬車の上であることを思いだして再び腰を据える。
それによく考えれば、だ。
「帝国から呼ばれて行くからと言って、俺1人預けて、後で迎えに来ますんでよろしく、とはいかないですか」
「いかないですね」
どこか冷たさをはらんだ声色でアネットさんが言って頷く。
今回は皇帝陛下直々のお召しなので、俺に何かあれば帝国側のメンツが立たないことになるが、王国側としても誰もつけずに万が一があれば「なにやってたの」となりかねない。
体面的にもあくまで客としてやってきた身分なのだということを示す必要があるし、そこで王国の人員をつけないという選択ができないのは確かだ。
今度は少し嬉しそうなところを含んだ声でアネットさんが言う。
「ああ、あとエイゾウ様にはお覚悟いただきたいのですが」
「なんでしょう」
俺は怖々とアネットさんに答えた。
「恐らく……と言いますか、ほぼ確実に先方からもエイゾウ様に人がつくことになるかと思います。帝国側としてやらない理由がないですからね」
それを聞いて俺は思わず「うへえ」とため息をつき、カテリナさんの笑い声が街道を駆けていった。
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