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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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デビュー6周年&Web版1000話到達記念特別編「それは後の世に言う」

「ううーん、ここじゃなかったのかな?」


 見かけには少女、と言われるであろう人物が〝黒の森〟を行く。


「いや、でもここのはずだよね」


 この大陸最大の森林地帯だが、かつては「この世で最も危険な地域」と言われていたことを、少女は思い出し、周囲をキョロキョロと見回す。

 当時は危険な獣たちが徘徊する場所であったそうなのだが、少女の見る限りでは、そんな様子はなく、小鳥たちの声が響き、リスが何かの木の実をのんびりと食べている。


 ここに来るときに「意外と気性が荒いから、不用意に近づかないように」と言われた樹鹿が数頭、遠くの開けた場所でのんびりと草を食んでいるのも見えた。

 一説によれば肉食動物のうち、森狼などは知恵をつけ、人間――ドワーフやエルフや獣人や巨人族を含めた諸々の種族――たちと共存する道を選んだのだとか。


 時折、虎や熊に出くわすことがあるそうなのだが、それらも基本的には人間の気配を察知するとそっと離れるのが大半だと聞いている。


「もう少し探してみよう」


 そう言って、少女は森の奥へと一歩を踏み出した。


 きっかけは自宅の倉庫に眠っていた1冊の書物である。古い時代の言葉で書かれていたそれは、読むのには難解であったが、内容は壮大な物語のようだった。

 少女は暇があればそれを読み耽った。荒唐無稽な依頼をこなす人々に感嘆し、危機が迫る場面ではハラハラし、問題が解決すれば嬉しさを感じた。


 そう、最初はただの物語。ご先祖の誰かに話を作るのが上手い者がいて、その誰かが書いたお話なのだろうと、そう思っていたのだ。


 それがただの物語ではない、いや、むしろ物語を装って残された、王国の歴史というページの端に小さく書かれた注釈のようなものであると気がついたのは後年のこと。

 自宅の倉庫にあった、王国の歴史を綴った書物の内容のうち、欠けている部分にその物語がピタリと嵌まっていたのだ。


 となれば、これは本当にあったことに違いないと調べはじめるまでには、さほど時間はかからなかった。

 家系、というものなのだろうか。代々男性側にはあまり備わっていなかった調査能力だったが、少女にはそれが備わっていたらしく、学校や図書館、あるいは地元の役場に残されていた資料などなど、そう言ったものからドンドン裏を取っていった。


 結果的にはいくらか完全に情報がなく、完全に正しいと断定できないものもあったにせよ、少女が得た結論は、「この物語の人物は実在した」ということだった。


 そうなると、居ても立ってもいられず、少女は少しの間旅に出ることにしたのだ。

 その物語の痕跡を追って。


 そうして辿り着いたのがこの〝黒の森〟。今は物語の人物が居住していたという場所に向かっている。


「結構距離があるって書いてあったっけ」


 少女は独りごちる。随分と辺鄙な場所に住んでいたのだな、と少女は思った。

 危険性がかなり減じたとは言え、獣人以外で〝黒の森〟に住もうとする人物はあまりいない。純粋に不便だからだ。

 神秘的な人物だし、歴史の表舞台から姿を隠していた人物なので、そういうところに住むのは理解できなくもないが。


 そして、ピクニックをするにはいささか厳しい道を行き、少女は辿り着いた。

 目の前にはログハウス調の建物。物語にあった工房に違いない。


 工房は朽ちた感じはない。物語が真実であれば、かなり昔に建てられたもののはずであるにも関わらずだ。

 特に柵もないので、少女はそっと工房に近づいた。人の気配はない。

 意を決して、扉をノックしたが返事もなかった。つまり、ここに人は住んでいないのだろう。


 いくらかの逡巡のあと、少女は扉を開けた。くぐもっているが、鳴子らしき音がカランコロンと響くのが聞こえ、思わず身を縮こまらせたが、声が響くことも、人が出てくることもない。

 工房の中を見て、少女は目を見張った。まるで昨日まで誰かが住んでいたかのように、内部が整えられていたからだ。


「なんなんだろう、ここ」


 少女は呟いた。物語に出てきた工房であることは分かっている。

 だが、その話に出てくるそのまま過ぎて、逆に違和感しかないのだ。まるで物語を再現して作られた舞台装置のような、そんな違和感。


 しかし、舞台装置でないことや、誰かが住んでいるわけではないこともすぐに分かった。生活や作業、それら人が暮らしていくのであれば、あって当然のものが一切ないからである。


「本当にここにいた? いや、でも……」


 少女の頭の中をぐるぐると考えが渦を巻く。その時、少女の背後から突然澄んだ声が響いた。


「おや、お客さんとは珍しいですね」


 少女が振り返ると、そこには美しい女性がいた。絹糸のような銀髪は肩口で切りそろえられ、緑の切れ長な目。華奢だが、しっかりと筋肉のついている身体。

 女性を一番特徴づけているのは耳朶だろう。彼女の耳は長く尖った形状をしている。

 つまり、女性はエルフだった。


 少女は驚愕と興奮がないまぜになり、口をパクパクと魚のように開けたり閉めたりを繰り返すことしかできていない。


 エルフの女性はその様子を見て、クスリと笑う。


「そう慌てなくともいいですよ。私には時間がたっぷりありますから、落ち着いて」


 そういわれた少女は、一つ大きく深呼吸をして心を静める。

 そして、言った。


「あ、あの、あなたはもしかして……」

「私はリディと申します。あなたは?」

「あ、えと」


 聞かれて、自分が名乗っていないことに気が付き、少女は恐縮して居住まいをただす。


「すみません! わたし、アーネット、アーネット・シュルターって言います!」


 アーネットの名前を聞いて、リディの目が少し驚きの色に染まる。

 だが、リディはすぐに微笑んでから言った。


「ああ、あなたはフレデリカさんの……」

「ええと、子孫ってことになります」


 はにかんでいうアーネット。リディは再び微笑んだ。今度は優しさを湛えた笑みだった。


「それでは、ここに来た目的は」

「はい。何か分かればと思って。その、『語られない鍛冶屋』の伝説について」


 アーネットの言葉に、リディは大きくうなづいた。


「私の話せることなら、教えましょう。もう聞きに来る人も少なくなってしまいましたからね」


 パチリとウインクをするリディに少しドキマギしつつ、アーネットは最初の質問を口に出すのだった。

本日12月10日に、作家デビュー6周年と、Web版1000話を達成することができました。

読者の皆様のおかげと、まずはお礼申し上げます。

今後も物語は続けてまいりますので、お引き立てのほど、よろしくお願いいたします。


また、コミック版6巻、書籍版13巻の予約も始まっております。

電子書籍版については、今しばらくお待ちください。

コミック、書籍ともに書店特典もございますが、公式のご案内、もしくは書店様のご案内をご確認くださいませ。


コミック6巻

https://www.kadokawa.co.jp/product/322509001139/


書籍13巻短編小説小冊子付き特装版

https://kadokawabooks.jp/product/kajiyadehajimeruisekai/322509000910.html


書籍13巻通常版

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― 新着の感想 ―
1000話おめでとうございます! そういえばあと5日でこの作品も7年ですね……読む側としてはエルフじゃないけどあっという間だった気がします。
寿命が違うからしょうがないが、なんか寂しいな エイゾウとリディの間に子供はいないんか? いても独立したしてるか
で・・・このお話は暫し続きますよね?
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