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3-34 白いマッサージ――白ママと王子の安否確認『爪トカゲ』

ありがとうございます。


 今、私は、芝生に寝そべっている。

 今、私は、癒されている。


「最高……」


 私の形状は、ヒト型に戻っている。


 私の上には、白い神が乗っている。


「そうけぇ?」


 正確には、私の背中に乗って、正座している。

 手は、私の後頭部を撫でている。

 背骨に沿って、小さな分体カタツムリが並んでいる。

 顔の下には、ふんわり枕。


「ありがとう。落ち着いた」


「いんやぁ。まだ、ちぃと乱れちょるけぇ」


「もう十分かと……おもがえう」


 口に、大きな飴玉を差し込まれる。


「暇やったら、グソクさんと話しちょっても構わねぇでなぁ」


「…………」


 まだ、少し時間がかかるようだ。

 皆は、食事休憩をとっている。


 暇――退屈なわけがない。

 白い神の頭皮マッサージは、これ以上無いリラクゼーションと言えよう。


 最高に癒され、心地良い。


 精神が整い、記憶の乱れが解消される。


 とはいえ、なんとなく、このまま心地良さに身を委ね続けた場合、何かが崩壊する気配を感じたため、意識を『4号機』に退避する。


 グソクさん達が観測機データから再現してくれた、白ママ達の盗撮――『安否確認』用の映像を貰う。


 内容は、まだ記憶の同期を行なっていないため不明だが、今回はダイジェスト方式らしい。


 効率主義的な気質を持つ『4号機』の発案、との事。


 ――――


 白ママ達が住む『荒野の森』が見える。


 これは、森の外縁部か。


 木々が騒めき、虹色の花弁が舞い落ちる。


 しばらくして、風に流される花弁と共に、一つの大きな木の実が、荒野に転がり出る。


 転がる木の実が、加速する。

 『花弁の群れ』も、加速する。


 延々と、荒野を疾る、木の実と虹色。


 遠方には、多数の人影が見え始める。


 その集団の進む前方に、躍り出る木の実。


「……?」


 停止した木の実が、荒野に沈み込み、周囲の地面が凹んでゆく。

 その凹みの中心から、水が噴き上がり、縁には数十本の裸木が生える。


 裸木が、『花弁の群れ』を吸い込み、咲き乱れ、たわわに小さな実をつける。


 木々が騒めく。


 木の実が乱れ飛ぶ。


「……っ!」


 痩せ細ったヒト種達が、膝をつく。


 彼らに降り注ぐ水が、虹色に輝く。


 映像が、切り替わる。


 ――――


 荒野のオアシス。


 その周囲には、痩せ細った多数のヒト種が倒れている。


「…………」


 微動だにせず、呼吸も無い。


 添付されたデータには、オアシスの水に、彼らの肉体にとって数日で十分に悪影響のある崩壊しやすさを持つ放射性同位体。

 この水は、荒野全域に広がる地下水らしい。


 多色の花弁が舞い落ちる。


 尽きる事無く降り注ぐ。


 次第に、ヒト種達を覆い尽くす。


 また、映像が切り替わる。


 ――――


 花畑に、王子が寝ている。


 その胸元には、白ママの依り代。


「……忘れてた……」


 王子が、目を開く。


「……王子?」


「…………」


 依り代を優しく掴み、襟元に忍ばせる。


「どうしたの?」


「ごめん……」


 起き上がり、おもむろに走り出す王子。


 その前方には、大きな木の実が転がる。

 後方には、『花弁の群れ』が続く。


 木の実に追いつき、拾い上げる。

 『花弁の群れ』が周囲を覆い、渦を巻く。


 軽く跳ねると、浮かび上がる。


「……転がるの?」


「……うん。あっちの方に、真っ直ぐ」


 『花弁の群れ』が王子のコートの内側に吸い込まれ、急降下。


 白ママの依り代から、棘付き巻貝が膨らみ、王子と木の実が飲み込まれる。


 棘が縦方向に、急激に伸び出す。

 伸びた棘をスポークに、外縁にリムとタイヤを形成。


 タイヤが接地し、転がり出す。


 また、映像が切り替わる。


 ――――


「……何か……居るわね」


「大丈夫」


 遠方に、オアシスが見える。


「……何かしら? この気配……生き物じゃないわね」


「でも――」


「顔を出さないで、危険よ」


 ゆっくりと、音を立てずに転がる巻貝。


「待たせてるから――」


「え?」


 地面から、『爪』が生える。


「……おはよう」


 王子が巻貝から顔を覗かせ、『爪』に向かって起床の挨拶をする。


「おはようございます」


 『爪』の下から『モグラ』が現れる。


「えぇぇ……」


 白ママの依り代――巻貝が唖然とした声を漏らしつつ、横転する。


 横倒しになった巻貝から、王子が抜け出る。


「……元気?」


「はい、おかげさまで。――起きろ!」


 『モグラ』が地面に潜り、呼びかける。

 これは、声を発しているわけではない。

 呼びかけの意図で中性子線を放ったのを意訳している。


 直後、その後方から、多数の『モグラ』が顔を覗かせる。


「えぇぇ……」


 巻貝が萎み、小さなトカゲ状に変わる。


「山トカゲ様?」


 依り代に、『モグラ』達の視線が集まる。


「…………」


 僅かに後退する依り代。


「……大丈夫?」


 声をかけながら、そっと依り代をすくい上げる王子。


「もしや、殿下……山トカゲ様に我々の事を……」


「ごめん……驚かせようと思って……」


「……驚いたわよ……」


「あの……山トカゲ様。覚えておいででしょうか? 我々は、昔殿下にお仕えしていた頃に、良く山菜を採りに山トカゲ様の住処にお邪魔していたのですが……」


「……洞窟の……ヒトかしら?」


「はい。ですが……今はヒト、と言って良いのか分かりませんが……」


「ええ……そうね。動物でも無いわね……」


 観測機のデータによると、全身に放射性同位体が循環しており、反応性が強いラジカルが雑多な化学反応を起こしている。

 一部では規則的に、大部分は混沌と変化している。

 規則的な部分が、動作を制御しているように見える。


 安定しない過剰な乱れが、抑制されずに調和している印象。


「君達の事、なんて呼んだら良いかな?」


「『爪トカゲ』とお呼び下さい」


「分かった」


 土中から、続々と『爪トカゲ』が抜け出て来る。

 その全身は、前半分がモグラ、後ろ半分が枝分かれした木の根。


 全員が、王子の前に集合する。

 木の根で直立して移動。歩行とミミズ的蠕動運動が合わさっている。


「王子、爪トカゲって……」


「うん。僕と君みたいに、森の木と一つになったって聞いたけど……」


「はい。我々は、『森の方』と契りを結びました」


「……私達の事も、森に聞いたのかしら……」


「はい。殿下から『森の方』を通じて諸々伺っております。我々臣下一同、改めて殿下、山トカゲ様にお仕え致します。御用の際には『森の方』を通じて、何なりとお申し付け下さい」


「……ええ、ありがとう」


 良く分からない存在が増えた。

 異常で、不思議で、興味深い存在が増えた。


 黒い神に知らせるべきか。

 いや、ニャマコに知らせておこう。

 少し、気になる事がある。



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