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3-33 殻に閉じ込める邪神――殻を打ち破る邪神

ありがとうございます。


「――この星では、教会の設計図やモンスターの戦利品から何かを作ったり、修理する役割はとても需要が大きいのですが……『発明家』の役割は、あまり印象が良くないのです」


 おそらくこの星では、技術的には『足るを知る』在り方が尊重されるのであろう。


「ふむ、技術方面が保守的過ぎるのかにゃ?」


「はい……」


「うん。たぶん、ヤバちゃんが作ったお伽話が、効き過ぎたんだねぇ」


「お伽話?」


「うん。簡単に言うと、昔の人がやらかした事を、後世の人にそれとなーく教えるための絵本だねぇ」


 なるほど。技術的情報を極力省いた自滅の流れを、分かりやすく一般化したような形であろう。


「あ、そっか。世界を消しちゃったから……」


「はい。そのお伽話では、昔の人達が凄い技術を持っていて、負けそうになった魔王が、悪い神様を呼び出した事になっています」


「悪い神様?」


「うん。日本語だと邪神……かねぇ?」


「その邪神が、世界を壊しちゃった感じ?」


「や、壊したのは昔の人達だよ。邪神は魔王を強化したり、倒されたら復活させたりして……それに対抗した人達が、やり過ぎちゃった感じだねぇ」


 おそらく、『凄い技術』や『邪神』というのは、世界に対してクリティカルな影響を及ぼす技術の事を言っているのであろうが、明確に細かく指定し難く、実質的な抑制力も得られ難いため、一括りにしてしまったのであろう。

 この世界の抑制システムがいかに強力でも、あくまで、技術により構築されたシステムでしかない。真に全て何もかも、一切の隙も無く完璧、とまでは言い切れない。

 多少なりとも補助的な抑止を、という事か。


「そっか。その邪神はもう居ないの?」


「いえ、とても強い神様がどこかに閉じ込めている……事になっています」


「強い神様?」


「うん。日本語だと戦神……かねぇ? 戦争の審判役をやってて、邪神を呼ぶのは反則だから、封印してる感じだよ」


「ふむ……その戦神の封印というのは、抑制システムの事かにゃ?」


「うん。お伽話の絵本だと、『戦神』の挿し絵が私なんだよ。今の私の格好も、その挿し絵を真似してる感じだねぇ」


 『戦神の封印』――抑制システムの開発代表者、という事か。


「はい。お顔はクロ様にも似てますが、お姿はアカ様と一緒ですね」


「赤いのは、むしろ邪神だがにゃ」


「そうだねぇ」


 認めた。


「……そっか」


「……否定してくれないんだねぇ」


 否定して欲しかったらしい。


「いや、管理者にとって都合の良いシステムの監獄に、この世界の住民を閉じ込めておるのにゃ。ワシら補佐役も含めて、十分、邪な神だにゃ」


 赤い神は、この世界だけでなく、多数の世界に崩壊防止措置を施しているらしい。

 それだけでなく、世界全体の時間を凍結したり、そのツールを他の管理者に与えたりもする。


 とはいえ管理者の大多数は、生命体に不自然な影響を与え、時には直接改造し、観測機でプライバシーまで侵害する。

 つまり、地球人的な感性で見たなら、十分邪な神と言える。


 さらには、頼まれもせずに保護したり、暮らしやすい環境を維持したり、消えた人々を勝手に蘇生させようとして拒絶されたり、やりたい放題の偽善者集団とも言える。


「んだけぇが、皆が喜んで生きちょるなら、ウチは立派な事や思うけぇ。赤姐もヤバちゃんも、エライと思うなぁ」


「そうですね。私も、この世界に住まわせてもらって感謝しています。アカ様……グッジョブです!」


「うん。そう言ってもらえると、嬉しいねぇ」


「お母さんはいつだってon my wayでイイんだよ。私もそうだし」


「いや、完全にブレない意志を保つのは無理だにゃ。固定され過ぎた精神状態は、恒常性維持機能が生きておれば、病として判定されるのにゃ」


「そっか。やらかして反省するリピートは、私の性格じゃないって事?」


「いや、反省はともかく、やらかすのは完全にお主の性格だにゃ」


 以前に私も管理対象から、『揺るがない信念――確固たる意思を持って欲しい』と言われた経験がある。

 しかし、『揺るがない信念』を持つという精神状態は、恒常性の殻をも打ち破る奇跡、もとい不具合をもたらし、管理者の正常な機能を破壊するであろう。


「うん。それより、クロちゃんの役割は『発明家』で決まりかな?」


「あ、生産者か商人の身分証なら、役割の欄は自由に記入できます。その代わり、街の入り口で細かい手続きが――」


「ううん、『発明家』で行くよ」


「うん。クロちゃんは自由に、なんでもたくさん作ってイイんだよ。罪になっても私が居るから、問題無いよ」


 おそらく、赤い神の言う『問題無い』は、『より大きな問題で上書きする』という意味であろう。


「いや、罪は罪だがにゃ。まぁ、その辺りの責任は、ワシらが背負えば良いからにゃ」


「んだなぁ。ウチも背負うけぇ」


 罪、背負うべき責任。


 なんだろうか。


 何か、忘れている気がする。


 いや、思うに――、


「あらゆる技術は、あらゆるリスクに繋がっている。応用は限りなく……最終的に是非を決めるのは、主観でしかない」


「ん……?」


「つまり、なるようにしかならない以上、私は、黒い神を肯定し続ける。君の全てを、いつでも、いつまでも肯定し続ける。私は既に、管理者を干されている」


 なんだろうか。


 私は、何を言っているのか。


 勝手に口が動く。


「ふむ……?」


「私の、恒常性の殻は既に破れ……殻は破れ……殻を破り……私が破り……私がヤブレ……シーギ種の精神性に進化を……」


「先輩、感触が――」


「進化の……可能性の殻を破り、改造……つまり、ヤブレ……おそらく肯定……」


「うん。先生――」


「確かに私は……君の機能、不具合を修正出来なかった……君が、永命種であるという確信は無かった……とはいえ、過剰な意思、欲求、絶望……不具合は苦痛を生む。修正出来ずとも、出来る事はあったはず」


「先輩……」


「しかし、管理者に必要な……完全な永命種に必要な……いや、進化の殻を破り……恒常性の殻を破り……抑制の殻を破る不具合、もとい奇跡に必要な、『意識の器の柔軟な拡張性』は、苦痛を生む過剰さを心底嫌いながらも、自ら過剰になる事で生まれるため……」


「…………」


「私は君の過剰、つまり不具合を肯定し、私はヤブレない。私が……私は……君を! 肯定する! いつでも! いつまでも! 君を! 肯定する! 私の意志は! 君の意思を! 完全に肯定する! 私の意思は! 私の信念は! 決して破れない! 決して……決して……ユル……ユルガ……ユルガない……ブレない……ヤブレない……キミのスベテを……コウテイし……キミを……」


「んだなぁ……そうやなぁ。その通りやけぇ。んだけぇ、ウチも先生が正解や思うけぇ。大丈夫やけぇ」


 飴玉が、口に、差し込まれる。


 頭を、撫でられる。


 白い神が、しゃがんで、撫でている。

 黒い神も、しゃがんで、撫でている。


 私の体が、戻っている。

 『虫』の姿に。


 美味しい。


 落ち着く。


 心地良い。


「ん、先輩、ありがと。先輩のソレ、久しぶりに聞いたかも」


 やってしまった。


「……ゴメン……」


 リストラされて地球に来た当初、管理者の機能――完全な恒常性維持機能を失った反動で、自制心が欠落してしまい、制御を失っていた。その時の不具合が、再発してしまった。


「ううん。キニシナイ。――チーズさん。ここに乗せればイイの?」


「あ、はい。それではこちらに……」


 身分証を判定機に乗せると、特にエフェクトも無く、一瞬で印字される。

 模様らしき物も見られず、シンプルな黒い文字のみであった。

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