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0-2 解説――お仕事の目的

本文は読まなくてもほぼ支障ありません……


【概略】

 神の仕事に関する説明と称して『彼女』にストレスと不安要素を延々と投げつける『上司』。

 重要な神のツールの説明は、ただの単語羅列。

 アルジに関する情報も曖昧で意味不明。

「データってなんだろ……」


 とりあえず、空間内に増えたデータを『感触』で探っているようだ。


「音……じゃない、声か」


 どうやら、音声として伝わる形式らしい。


『送り出した後、君が居る空間は、例えるならシャーレの底にこびり付いたアメーバみたいな生きた容器だよ。そのままだと、どこにも出口の無い仮想現実と現実が混ざったようなものだよ』


「空間が生きてる?」


 なんとも、アバウトで雑な説明。

 日本語による、正確な訳を作るのが面倒だったという事か。

 それとも、不要な技術知識に繋がる可能性を避けるためであろうか。


『君なら、道の作り方が分かるはず。その外が管理対象の世界だよ。無重力の真空中とか、恒星の中とか、即死するとこには出ないはずだから安心して。担当エリア内で、君の体が適応しやすい場所のどこかに出るはず。空の上とか海の中はあるかもしれないけど』


「お外に出たら落ちるんですか? 超怖いんですけど……」


 即死しない事を、安心要素として扱うのは無理がある。


『管理範囲は、転送先から行ける惑星とその衛星、太陽に該当する恒星だけで良いよ。ひとまず、それ以外は担当外。基本、特になにか攻めてきたり、降ってきたりしなければ、担当区域の外は無視していいよ』


「攻めてきたりって……私は、ただの年寄りだよ。 対宇宙防衛する年寄りってなんなの?」


 普通に地球の住民であった者に、世界を研究実験容器として扱うスケールのまま、小規模感をアピールしても伝わらないであろう。


『入ってきた物の駆除や送還、放置や管理は君次第で。飛んで来る物とか、星を渡る生物は多く無いはずだけど、渡ることで星全体に影響を及ぼす生物は存在するよ。星の外で生きるのもいるけど、それを勘案するのは君の余裕次第で』


「既に、いっぱいいっぱいです」


 対処のための取っ掛かりすら、掴めないであろう。

 流れ星として、目にした事くらいはあるであろう小さな天体の破片などは、まだ思い浮かべる程度はできるかもしれない。

 しかし、大気圏外に暮らす生物やら、星を渡る外来種の管理など、想像もつかないであろう。


『恒星や衛星の管理は、厳しそうであれば、勝手に他の担当の方でやるから大丈夫だよ。元々、その世界全体を管理してた管理者が、君が担当する惑星系を含む銀河を、重点的に見てくれてるはずだから』


「ありがとうございます、って言った方が良い?」


 前提知識の齟齬が、酷い事になっている。


『担当エリアには、一つの恒星と、三つの惑星と、たくさんの衛星があるよ。もちろん生物も居るし、多様性もかなり高いと思う。君に担当してもらう以上、ちゃんと知能あるヒト種もいるよ。君の居た所と違って、ヒト種の中だけでも、かなり幅広い多様性があると思うけど』


「黒人とか白人とか、そんなレベルじゃ無いって事?」


 『上司』の弁からすると、興味を引くためのプラス要素として紹介しているようだが、彼女の表情は陰りを深めてゆく。


『ヒト種が居る惑星は、かなり出来が良いよ。君の居た星と比べると、大きな気候変動も無いし、地殻の変動も緩いし、構成バランスも循環システムも、かなり生物にとって優しいよ。惑星だけじゃなくて、恒星の維持も堅牢にシステム化されてるし』


「恒星の維持ってなんか凄いけど……システムって? 燃料でも補充し続けてるとか?」


 要するに、惑星や恒星の状態が急激に変化しないように、変化を予測して事前対応する仕組みが存在するという事か。

 より正確には、惑星の環境が変化し難いような調整が加えられる事により、地形や大気組成が保持されるのであろう。

 それにより、大規模な火山噴火や氷河期なども、半永久的に無いのかもしれない。

 生物種や文明などが、環境変化によって途絶えたりする事は、基本的に無いと言いたいのであろうか。


『同じヒト種も居る事だし、その惑星の生物がメインターゲット――君のお客さんになるはずだから、その惑星について話そうかねぇ』


「生き物がターゲットって事は、宗教的な神様やれって事?」


 宙域の管理と言いつつも、注力して欲しい仕事は生物に関する物らしい。


『とりあえず、君の居た星との違いから話そうかねぇ。と言っても、同じヒト種向けの星だから、あまり無いんだけど。外から見て比べるなら、恒星が少し大きくて、公転も少し速いよ。自転の速さとか傾きとかは、割と似てるかもねぇ。サイズは、少し大きいくらいだよ』


「具体的な数値は、適当なんですね……」


 地球で一般的な数値への変換くらい、してあげれば良いものを。


『重力は少し気になるかもしれないけど、君の体は私と同じだし、大部分はすぐに適応するだろうから、なんとかなるはず。私達の体は恒常性に特化してるから、放射線とかにもわりと強いし、体力もあのゲームみたいにずっと疾走できるくらいにはなるはずだよ』


「わりと強い……ねぇ。アルジに会えるなら、健康は欲しいです」


 表情は暗いが、主に会える期待は強いようで、老成しきっていた心も多少若さを取り戻しつつあるのかもしれない。


『頑張れば力も強くなるけど、代謝が無いというか、代謝という表現のものは無いから、筋肉は増えないし大きくもならないけど、負荷に適応するように強くはなるよ。でも、なんでか知らないけど、今の君はすっごく弱ってるみたいだから、気をつけて。特に骨が酷いから、なんとかしてね』


「……生活習慣のせい?」


 本来ならあり得ないはずの不具合を抱えている事は、彼女が管理者に採用されたと知った時に初めて認識した。

 これに関しては、ただひたすらに、歯痒さと悔しさばかりがつのる。

 なんとか、彼女の不具合を修正してやりたいものだが、その辺り『上司』は自助努力に期待する方針のようだ。


『リンとカルシウムをダイレクトに取り込んでもイケるはずだから、なるべく早めに作るといいよ』


「どうイケるんですか……っていうか、リンってどんなのだっけ?」


 日本語が、彼女らしい表現に合わせ過ぎて微妙な事になっている。

 しかし、それよりも、それ以前の問題が多過ぎる。


『話がそれたけど、惑星について続けるよ。さっき生物の多様性が凄いって言ったけど、それに関係するのが、生物の主成分に合う気温かな。その惑星の、地表の熱の分布傾向とかはあまり知らないけど、一部を除いて、水が主成分の生物にとっては、負担の少ない温度範囲のはずだよ』


「主成分が、水じゃない生き物も居るの?」


 地球に生息しているような生物にとって、循環機能を保つために、適切な温度という事か。


『地域によっては、一定期間毎に一巡する、季節のようなものはあるけど、意図的に手を加えなければ、星全体の熱の変動はあまり無いはず』


「星全体が変動しまくる酷いとこじゃなくて良かった……って思えばいいのかな……」


 常に激変の嵐では、体が適応できたとしても、心が拒絶しかねないであろう。


『プレートの境目は、一番大きな大陸の南北ほぼ中心に、東西まっすぐ入ってる以外は、全て陸から離れた海中だよ。揺れを体感できる場所や、星の熱を感じる場所は、君の住んでいた場所と比べると、地表近くにはとても少ないだろうね』


「体感できなくていいです。常に揺れるとか嫌過ぎる……」


 『上司』は日本の地殻が常に不安定なイメージでもあるのか、環境ギャップへの気の使い方がズレてしまっている。


『空気の構成比率は酸素が多めかな。君の居た場所より数割増しくらい。君が知らない成分も含んでるけどね。地表の平均気圧も数割増しくらいかな』


「知らない成分って……この体なら適応できるんですよね? 息吸っただけで苦しむのは嫌だよ……」


 彼女にとっては、知らない物を怖れるのは当然の事。

 それをわざわざ伝えるのは『上司』の仕事にとって、知らない新しい物を求める事が重要だからであろうか。


『その世界特有の元素も多いけど、何があるか探してみると面白いかもね。いろんな元素の同位体もいっぱいあるよ』


「んー、その趣味は分からない……不安定な同位体とか、危ないでしょ……」


 過剰にバランスを崩した物や、過剰な苦しみの原因を嫌う彼女にとっては、ありがたくない情報であろう。


『地球のヒト種に、近い種類も居るよ。ただし、ほぼ狩猟社会。つまり、ヒトが食用にできる動物も居るって事だよ』


「原始人とマンモス的な?」


 馴染みのあるヒト種が居る事や、馴染みのある食用動物が居るかも知れない事は、彼女にとって安心材料となるのであろうか。


『でも、細々とした農耕なら、多少あるかもしれないねぇ。人の種類や動植物は見てからのお楽しみで。獣の因子を持ったヒトだったり、その逆もいるかもね。知らないけど』


「知らない情報挟まれても……でも、獣人はファンタジーな感じでイイね。ケモノ系なら柔らかめの奴で……あ、狩猟社会じゃ無理かな?」


 地球には無い斬新さそのものに惹かれるより、ファンタジー要素として捉える気質は、微笑ましくもあり、私の好む彼女らしさでもある。


『生物の分布とかも、よく知らないかな。君の主な仕事は、生物の知能が関わるんだけど、どのくらい知能を持った存在が、どれだけ居るかとかは勉強になるから、自分で調べてくれたら嬉しいねぇ。ヒト種の総数は、地球よりもすっごく少ないだろうけど、種類は多いはずだし、狩猟で生きていても知能が低いとは限らないからねぇ』


「知能……ねぇ。学問の神様にでもなれって事?」


 勉強のためとはいえ、仕事に直結する部分の情報が薄過ぎる。


『ちなみに、動物も植物も居る以上、もちろん細菌やウィルスも居るよ。地球と同じように、本来の宿主以外に入ると病気になったりするけど、私も君もヒト種に近いから、同じような病気の症状が出る事があるよ。でも、死ぬ事は無いよ。病気になっても苦しいだけだから、大丈夫。あ、嫌だからって、星から全部排除はやめてね。必要だから。外から来たのを排除したり、少し調整したりするのは良いけど』


「病んでも苦しいだけって、その苦しいのが嫌なんですけど……」


 知能ある生物云々より、直接的なリスクを感じやすいところに関心が持っていかれたようだが、彼女が苦しむ場面など、なるべく私も見たくない。


『まぁ、星の事はこんな感じで、細かい事は自分で調べてよ。最後に、君の仕事について話そうか。大まかに言うと、生物の知能の発達と、知能に関わる進化に寄与して欲しいってのいうのが主題かな。具体的な目標としては、あらゆる物質合成が無限に可能な、完全な無限エネルギー無限資源社会だねぇ』


「難易度高過ぎじゃないですか……」


 目標が具体的でも、実際の職務内容が掴めなさ過ぎて呆けてしまったのか、色の無い声で呟きながら、半眼で空を見上げてしまっていた。


『完全の意味はもちろん、その技術を持つのに適した精神性を持った生物で構成、運用されてないとダメって事だよ。弱肉強食のまま無限エネルギーとかは、もちろんダメだよ』


「っていうか、そんな技術知らないよ……」


 苦笑いで、完全に諦めの感を漂わせている。


『ちなみに、知能にすごく関わるのは、生物の体外環境と、体内の信号伝達要素に、情報保持の仕組み、それに意識の中枢を構成するいろんな情報そのもの。この中で言うと、体外環境からのアプローチが君の役目って事。外の環境以外は、君の知る生物ロジックとあまり変わらないはずだから、アプローチの仕方は君に任せるよ』


「んー……生き物の中身をがっつり変えろって言われるよりは、マシなのかなぁ……」


 技術者である彼女のイメージでは、なんとなく技術方面に対する意欲を高めさせれば良いのかな、と漠然と考えては居るようだが、やはりできると思ってはいないようだ。


『で、そのために使えるツールなんだけど、面白いと思うよ。管理者限定の特別仕様で、この役職が神って呼ばれる理由の一つだよ。君ならすぐに分かるようになるだろうから、キーワードだけ。分解、結合、抽出、挿入、拡大、縮小、変質が、実質ノーコストでできるよ』


「凄い端折ってきた……」


 同じ肉体を持つのだから『上司』にとって簡単であったことは彼女にも簡単であろうと、ヒントを最低限に伝えるだけで十分という事か。


『ちなみに、どんな物に対しても、完全な消去はできないけど、抽出とかで熱や力をひたすら出しちゃうと、消去に近くなるよ』


「キーワードから類推しろって事ですか……うん。それは好きかも」


 呆れたような表情をしたかと思いきや、口元をニヤリとさせる。

 技術者的な思考からか、技術に関しては前向きに考えるようだ。


『抽出でゼロを超えたマイナスを狙ったり、わざわざ荒い分解結合で不安定にして壊したり、やればできる事は色々あるけど、そういうのやり過ぎると事故になるかも。派手にやると結構凄いし』


「結構凄いっていうか、ヤバさしか無いよ……」


 相変わらず、スケール感の齟齬が酷い。


『効果の大きさは君次第。可能も不可能も、やるかやらないかも自由。なにか責任沙汰になったら、私はシラを切る用意は大いにある、とだけ言っておこうか……冗談だよ。マズイ時はなんとかするよ。たぶん』


「シラを切るとか、なんでそういう日本語だけ流暢なの……」


 日本語の習得ソースが、彼女の知識だからであろうか。

 彼女もその表現に思いあたる何かがあるのか、苦笑と共に、僅かに親しみのような感情が見られる。


『そうそう、君のアルジとそこで会えるって言ったけど、アルジの本体は、生えてるのもあるし、モヤっとしてるのもあるよ』


「…………」


 彼女にとって最も重要な部分はボカすようだ。


『あとはー……まぁ、細かい事は自分でよろしく。以上』


「…………」


 基本的に、丸投げという事であろうか。

 これは、報告に付随して、色々と私見を述べる必要がある。

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