弁明――前書き
0章は、少し冗長です。
流し読み推奨。
姓はミラ、名はマロリー。
私の帰化名であり、元の名とはやや異なる。
名の方が苗字に見られる事があるが、マロリーの方が名であると明記したい。
日本の友人達からは良く、あの有名なデンプン麺の名前で呼ばれる。
気に入っている。
当日記の原文著者であり、これからプライベートなどを仔細書き記すであろう女性の生業と同じ、フリーランスの技術者でもある。
その女性のプライベートを記す事に関して、許可は本人から得ているが、詳細はあまり伝えていない。
なぜ許可を得る事ができたのか、正確な理由は不明だが、それなりに交友が深い記憶はあるため、機会があれば、改めて何かの折に尋ねてみたい。
その女性について書き記してゆく前に、著者自身について特筆すべき事が一つある。
技術者となる前の前職、その特異性について触れたい。
その職業の名を、日本語で端的に記すなら『神』であろうか。
なんとも、おこがましい名称ではある。
とはいえ、便宜上の『神』である。
全知全能や、世界の破壊創造などという壮大さとは無縁な職分を持つ。
一部に埒外な者も居るが、あくまで宇宙全体という意味での世界全体や、限定された一部のエリアに対して、オブザーバーのような立場で関わる職種の事を、そう呼んでいるに過ぎない。
もっとも、声の大き過ぎるオブザーバーも、多数存在するが。
その便宜上の神という職、基本的には永久就労職だが、一身上の都合、もとい一世界上の都合により辞する事となったその理由は、ひとまず置いておこう。
その神の職を辞して以降、現在の職に就き、大規模なプロジェクトをいくつか終えて一息ついていた先日、業務委託系のとある依頼を受けた。
それは、以前プロジェクトを共にした、同業の技術者に関する話であった。
その者が、先に記した女性である。
依頼内容は、その女性のリサーチ、及び業務経過観察との事。
依頼にはそう記されていたものの、経過観察と記すのは聞こえが良過ぎるかもしれない。
正しくはストーキング幇助。
更に正しく記すなら、幇助というか端的に言ってもはや、ただの盗撮。
観察者が同性である事は、言い訳にもならないであろう。
今現在、目下にはその女性が見えている。
単に見えるばかりか、過去の様子や、その思考を辿る事まで可能であり、そのためのツールを扱えるからこそ依頼されたのであろう。
なぜこのような事を、という話ではある。
一応名目上は、この女性がその便宜上の神という物に、新たに任命される事が内定してしまったためである。
任命である。
依頼や、スカウトでは無い。
誘拐、拉致とも言える。
それにより、この女性の来歴把握、及び就任後の就労状況監視が求められたという事になる。
要するに、新人の盗聴、及び盗撮。
不本意ではあった。
しかし、これがまた実際、試しに覗き見たところ、存外に興味深いものであったため、正式受諾後、ここに仔細つらつらと書き記して保存して、あわよくば布教というところまで行き着いてしまった。
以上が、弁明の全てである。
いや、前書きか。
ともかく、これよりリサーチ、及び経過観察を始める。