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催眠おじさん爆進記

作者: オーリオ


「司教、サイミン。あなたはフレイ教会へ異動しなさい」

「は……?」


 突然放たれたその言葉に、私の思考は停止した。


 世界で一番栄えている宗教であるルート教。その最高幹部が集う公会議は、一年の方針を決定する重要な物である。


 その最中に、わざわざ名指しで、聞いたことのない地域に行けと言われるなんて、前例がない。


「ど、どういうことですか!?」

「あなたには首都ローウェイにて教会に仕える資格がない。ですからフレイへ行き、自らを律し直しなさい」


 冷たい眼差しでそう語るのは、聖騎士ランセルというクソ野郎だ。教会唯一の武力である聖騎士達の中でも随一の腕を持っているらしい。


 最近入ったばっかりのくせに、多くのルート教徒に慕われていて、気に入らなかった。だがこいつには何も手を出していないはずだ。なのになんでこんなことになる!


「神に仕えるのに資格がいると言うのですか!?」

「ええ、もちろん。厳しい規定はないですが、神に仕える者は善人でなければなりません」

「私が善人ではないと? 何を根拠に仰っているのです!」

「私の目は特別製でしてね。見た人の情報がある程度分かるのですよ。……あなたが邪な考えを持っていることもね」

「ッ!」


 ば、バカな! そんな情報無かったはずだ!

 そもそも見ただけで分かる目などという眉唾な物、誰が信じるというのか!


「教皇聖下! 聖騎士ランセルは偽りを申しております! 見ただけで人を測るなど、できるはずもありません!」


 ルート教のトップであるソフィア教皇に訴える。

 ルート教の女神ウンディーネと同じく、海の色をした髪と瞳を持つ彼女は、私を見据えている。その目は、ランセルと同じ冷ややかなものであった。


「聖騎士ランセルの言うことは、真です。彼にはウンディーネ様から授かった真実を見抜く目があるのです」

「なっ……!」


 教皇聖下まで、信じているのか? こんな腐れイケメンクソ野郎を!?

 焦って周りを見渡すと、他の者も私を犯罪者と思うが如くの表情であり。私の味方が誰一人いないことを悟った。

 ソフィア教皇は厳しい顔で私に言う。


「異動、していただけますね?」

「……分かり、ました」


 教皇聖下に逆らえるわけもない。

 私は抵抗もできず、そう答えるしかなかった。

 その、見下した顔を、覚えておくぞ、ランセル……!!






「畜生、畜生! あのガキ、私をこんな田舎に左遷しやがって!!」


 フレイとかいう村にやってきた私は、荒れに荒れていた。

 村は住民が二百人程度。爺さん婆さんばっかりだ。食料は農作や狩猟で得た物が主になっているが、食文化が発達しておらずクソ不味い。寒暖差は激しいし、虫は多いし、服は良いものないし、教会はボロボロだし、つーか教会に俺一人しかいないし、たまに魔物が襲撃してくる。なんだよこれ。


 確かに私は大乱行シスターブラザーズを計画していた。その内ソフィア教皇も犯そうとしていた。しかし実行してない内にこんな所に左遷するなど、ふざけた話だ。

 あのおっぱい揉みしだきたかった……っ!


「それもこれも全てランセルのせいだ! あやつが余計なことを言わなければこんなことにならなかった!」


 そして今頃両手にシスター侍らせて、私のソーセージをソフィア教皇に食べさせていたはずなのだ!


 必ず……必ず、復讐してやる。

 ランセル、貴様を地獄の底に叩き落としてやる!




『ほう、良い感情だ』




 その声は、脳裏に直接響いた。


「何者だッ!」


 後ろを振り向くが、誰もいない。そもそも教会の鍵は閉めていたはず。この司教室まで入って来れるわけがないのだ。

 ならば、この声は一体……。


『司教サイミン、力がほしいか?』

「な、なんだ、何を言っている!?」

『ランセルに復讐し、ソフィアをお前の物にする。そんな力が、欲しくないか?』

「めっちゃほしい!!!!」


 脳裏に響く声に即答していた。


 いや、だって、ランセルをボコしてソフィアの胸を揉める力とかすごいほしいもん。これってそういうことでしょ?


 何者かは分からんが、そんな都合の良い力をくれるとは、良いやつだ。もしや、ウンディーネ様ではないかな。私の日頃の行いのお陰で加護を下さるのだろう。信仰しててよかった!


『……人選を間違ったか?』

「はい?」

『いや、なんでもない。ならば力をくれてやろう!』


 その言葉とともに、目の前の空間に亀裂が走る。そこから闇が溢れ、私は全身を飲み込まれた。


 体に闇を埋め込まれていく。頭に知識を詰め込まれていく。別に苦痛とかは無いが、馬車に酔ったような気持ち悪さが続く。


 どれくらい時間が経ったか、闇が消え光が見える。気づけば私は司教室に横たわっていた。


『貴様がその力をどのように使うか、期待している』


 その言葉を最後に、脳裏に響く声は聞こえなくなった。


 ゆっくりと起き上がり、手を開け閉めする。体に異常はないようだ。しかし、変化はある。はっきりと理解できているのだ。

私は、とてつもない力を手に入れた。


 完全催眠。


 相手の目を見るだけで、相手を思うがままに操る力。その力の使い方が、頭に入っている。


「ふ、ふふ……ふはははははははっ!!」


 ああ、何という力よ! これの前では剣や魔法など児戯に等しい。目を見るだけで、相手を支配できるのだから!

 これさえあれば、ランセルのクソ野郎を裸で首都マラソンさせながら、ソフィア教皇のおっぱい枕で寝る、なんてことができるのだ!


 これが、私の力。

 理不尽にも田舎へ左遷されてしまった男が、覚醒し新たなる力を得て復讐する……。

 ふふ、まるで物語の主人公ではないですか。


 心が沸き立つのを感じ、一度冷静になるために窓を開ける。風を感じつつ体を冷やしていく。


 いきなり首都へ戻ることは出来ない。ある程度ここで活動をしておかなければ、破門されてしまうかもしれんからな。ならば、今は研磨の時よ。この催眠能力を、使いこなす訓練をするのだ。


 まずは、そうだな。自分に催眠をかけ、解いてみるか。


 鏡で自分の目を見て、念じる。


「イケメンになれ!」


 …………。


 顔に変化なし、かっ!?

 な、なんだ、私の目の前が、ぼんやり、と……。




「私は、なんてことをしようとしていたんだ」


 先程までの私の考えに、愕然とする。

 他の人を支配し、操ろうとするなど、断じて許されることではない。


 聖騎士ランセルは正しかった。

 私は欲に負けてしまう、愚かな若ハゲだったのだ。

 これでは教会に仕えることなど出来はしない……。


 改めよう。

 幸いここは娯楽の少ない村。欲が満たせる場所ではない。いくら私が弱い心を持っていても、ここでなら腐ることがないだろう。


 催眠能力は封印しよう。人を支配するなど、罪でしかないのだから。


 ……でもちょっとだけ。


「髪よ生えろ!」


 …………ダメか。毎日やったらちょっと生えるかな。そう、これもまた、欲に打ち勝つための修行なのだ。毎日やろっと。


 明日から、司教としてふさわしい行動をしていこう。フレイ村をもっと発展させるのだ。村の人々が救われるよう、行動していけば、きっとウンディーネ様もお喜びになるだろうから。


 さて、そろそろ教会の掃除をしようかな……。






 その後、フレイ村は変わった。

 司教サイミンによる食文化と刺繍技術の改革や、効率的な軍のシステムを取り入れ、住みやすく、快適になる。

 教会では礼拝はもちろん、相談室や孤児院も開設され、住民たちの苦労が減り、笑顔が増えた。


 そう、フレイ村はサイミンによって素晴らしい村となったのだ……。


「ってちがあぁぁう!!」


 司教室で聖書を床に投げつけて叫ぶ。そうじゃないだろ私、なんで心がイケメンになってんだよ。こんな田舎をよくしたって首都に帰りたい私にはなんの意味もないだろうが!


 それに試しに使った催眠の方が毎日願った催眠より大きい効果ってどういうことだよ。髪生えろよむしろ悪化してんだよ。使えねーな完全催眠。


「落ち着け。当初の予定とは違うが、この地で役割を果たしているのは確かだ。なら首都へ行っても破門はされないはずだ」


 よし、じゃあ適当な理由をつけて首都へ行こうか。

 そう思った時、ドアのノックされる音がした。


「司教様、ユーナです。相談したいことがあるのですが」


 川のせせらぎのような声がする。癒やされつつ許可を出すと、茶髪をショートカットにした少女が入ってきた。


 この子は教会の孤児院で世話をしている少女だ。魔物を退治しようと村の外に出た際、行き倒れているのを見つけた。事情を聞きたかったのだが、どうやら記憶喪失のようで、自分の名前以外何も思い出せないようだった。身寄りがないこの子を私は引き取ったのだ。


「おお、ユーナ。司教と呼ぶなといつも言っているだろう」

「いや、しかし」

「昔の呼び名で良い。敬語も無しだ」

「……うん、サイミンおじさん」


 引きつった顔で私を呼ぶユーナ。ここ最近、ユーナは私を司教様と呼ぶことが多くなった。親離れというやつなのだろうか。おじさん寂しい。


「それで、今日はどうしたんだい?」

「実は、私の手に変な模様が浮き出てきたの。何かの病気じゃないか心配になっちゃって」

「なに!? 見せてみなさい!」


 差し出された手を掴んで甲をみると、そこには確かに謎の模様が浮かんでいた。一筆の黒い線で描かれているのは、剣のように見える。

 いやまて、これは。


「……ユーナ。これを他の人に見せたかい?」

「ううん。まだ見せてないよ」

「そうか。ならいいんだ」


 床にある聖書を手に取り、あるページをユーナに見せる。


「勇者の刻印……?」

「そうだ。勇者の刻印は、女神ウンディーネ様に選ばれし勇気ある者に与えられる、と言われている」


 まさか、ユーナが勇者だとは。喜ばしいと同時に、不安にもなる。

 代々勇者は過酷な試練が課せられる。その中で命を落とした者も少なくないのだ。

 司教としては喜ばしいことだが、保護者としてはあまり嬉しくはない。


「ユーナよ、これから君には過酷な運命が待ち受けているだろう。だが、挫けてはいけない。信頼できる仲間と共に、試練を乗り越えて行くのだよ」

「う、うん」


 ユーナはよく分かっていないようだが、その時になれば理解するだろう。今は市民に混乱を招かぬよう、この事実を隠しておかなければならない。


「とりあえず、このガーゼを手に巻いておきなさい。これから首都に行って、勇者の誕生を報告しなければならない。それまで誰にも言ってはいけないよ」

「い、今から? 分かった」

「では、準備をしてきなさい」


 ユーナが頷いて、退室して行く。

 やれやれ、大変なことになってきたな。しかし、首都へ戻る口実が計らずもできた。


「これで私が勇者を発見した者として、教皇聖下にご報告することができる。その時に完全催眠を使えば、我が野望も成就するだろう。ふふ……ふはははははははっ!!」






「おじさん、全部聞こえてるよ……」


 ユーナは司教室の前でため息をついた。


「おじさんは相変わらず抜けてるんだから。私以外が聞いてたら大変なことになってたよ?」


 サイミンにかかっていた催眠が解けても、こういうところは全く変わらない。どうにも迂闊というか浅慮というか。おじさんらしいともいえる。

 ユーナはサイミンが自身の能力でまともになっていた時に、元々のサイミンや催眠能力のことについて、既に聞いていた。その際、自身の催眠が解けた後の事を頼まれてもいた。


 ユーナとしても、お世話になっているおじさんを犯罪者にしたくない。いつも村の女の人を見てニヤけてるおじさんをぶっ叩いて矯正しているし、その要領で見張っていよう。ユーナは決意した。


「おじさん、私が立派な司教様にしてあげるからね!」


 この瞬間、サイミンが何を企んでも、ユーナに見つかりご破算になる未来が決定した。


 サイミンの受難は、終わらない。


登場人物紹介


○サイミン

主人公。エロい事を考えているおっさん。悪巧みをするが、頭が足りないためいつも失敗する。ちなみに髪も足りない。

完全催眠という非常に強力な力を手に入れるも、全く生かせなかったし、これからも生かせない。

ユーナのことは娘のように思っており、可愛がっている。最近自立してきて嬉しくも寂しい。

夢はソフィアのおっぱいを揉むこと。


○ユーナ

茶髪ショートカットの美少女。道端で倒れていたところをサイミンに拾われた。

記憶喪失であり、最初は不安だったが、サイミンや村の人が優しく励まし続けてくれたため、今ではあまり気にしていない。

サイミンの事情を知っており、催眠が解けてからは彼が犯罪者にならぬように監視する日々である。

実は勇者。


○ランセル

ルート教最強の聖騎士。イケメン。

最近入って来たばかりなのに人望が厚い。

相手の情報を知ることができる目をもっている。

完璧超人の気に食わないヤツ。


○ソフィア

おっぱい。

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