狂化ゼロ
「本ッ当にごめんなさい!!」
ゼロです。
現在、シェリーさんにすごく謝られています。
「いや、シェリーさんは何も悪くないですよ。謝る必要なんてありません。本当ですよ?」
ギルドに来た私は、武器屋での事をシェリーさんに全て話したのだが……
白金貨5枚の借金が出来てしまった事を言った途端に、「自分があの店を紹介したせいでっ……」となってしまったのだ。
シェリーさんは本当に何も悪くないのに……
「大丈夫ですよ、頑張って稼ぎますから」
「うぅ……」
「ある程度準備も出来たので、明日から仕事を始めようと思います。頑張りますから、気にしないで下さい」
「……ゼロさんはまるで天使ですね」
「え?」
「それなら私も、ゼロさんをしっかりサポートさせていただきます。一緒に頑張りましょうね!!」
「あ、はい。頑張ります」
その後、シェリーさんと細かい話をして、お金は一括で払う事にした。
稼いだお金の一部をギルドに保管して、白金貨5枚分がたまったら自分で払ってやろうと思ったのだ。
という訳で、今日やる事は終わったので宿に戻ろう。
そう思いシェリーさんに別れを告げてギルドを出ようとしたその時……
「見つけた」
ギルドの入り口に現れた男が、私を見てそう言った。
「……あっ」
私はこの男を知っている。
「ご飯をくれた人だ……」
お腹がすいていた私にご飯をくれた人だ。
どうしてここに……
「……テッドです」
「テッドさんですか」
そんな名前だったんだ。
あの時は名前も聞かずに飛び出しちゃったからなぁ。
「ゼロさん。まずは、君に謝りたい。君の事情も知らないのに、勝手なことを言ってしまって……」
「いいんですよ。心配して言っていたという事は、わかってしましたので」
「そうか……でも、君が心配だという気持ちは変わらない。……俺では、助けにならないか?君を助ける事は出来ないか?」
助ける?私を?
……違う。
私が……
「私だけが……助かったんだ」
「え?」
「私だけが……助けられるんだ……」
「ゼロ……さん?」
<テッド視点>
「ゼロ……さん?」
なんだ?どういう事だ?
今の彼女は明らかに正気じゃない。
「な、なんだ!?」
視界が歪んでいる。
これは……蜃気楼?まさか……ッ
「飽魔蜃気楼ッ!!彼女が起こしているのか!!」
飽魔蜃気楼……空間に存在する魔力の量が許容量を超えたときに発生する現象。
物が歪んで見えたり、浮いて見えたりといった事がするだけで、それ以外の害はない。
しかし……
「これだけの魔力……何が起こるか分からないッ」
ギルドの人たちも異変に気付き、段々と騒がしくなっていった。
冒険者たちもざわついている。
このままではまずい……
「『空間転移』!!」
空間魔法、俺が使える魔法だ。
俺はこの魔法を使って、街はずれの草原にゼロさんごと転移する。
ゼロさんを見ると、何やら青いもやのようなものが体を覆っている。
「可視化するほどに、魔力を高めているのかッ!」
「…………」
「え?」
ゼロさんはなにかを言っていたが、うまく聞き取れなかった。
ゼロさんはおもむろに手をこちらに向ける。
次の瞬間、ゼロさんの手が一瞬だけ光り、とてつもない速さで何かが飛んできた。
「くっ……」
ギリギリのところでそれを躱す。
今のは、純粋な魔力を爆発させて砲撃してきたのか……
「完全に……『殺し』に来てるね」
ゼロさんが正気を失う程、俺は怒らせてしまったようだ。
「分からない事だらけだな……っと」
また砲撃が飛んできた。
考え事をしている場合じゃない。
こんな事をしている間にも、攻撃はどんどん飛んでくる。
しかも、時間が経てばたつほど攻撃の頻度が増していく。
「まるで、雷の最上位魔法の一つ『ライトニング・レイ』みたいだ。いや、あれよりも凶悪かな?」
今はまだ余裕があるが、このままだとまずい。
「『リリース』」
空間魔法の一つ、放出。
空間魔法によって自分が閉じ込めた物を放出する魔法だ。
「悪く思わないでほしい。お返しだよ」
以前戦った魔法使いが撃ってきた魔法をゼロさんにぶつける。
ライトニング・レイ、俺が撃ち出したそれがゼロさんに当たろうとした次の瞬間。
ゴガァアアンッ!!!
「……弾かれた」
突如現れた半透明な壁によって弾かれた。
そんな事まで出来るとは……
そろそろ止めないとまずい。
来たばかりの時は綺麗だった草原が、今では戦争でもあったんじゃないかという位悲惨な事になっている。
大地は抉れ、穴まで開いている。
そろそろ草原の原型が消えそうだ。
しかし、これだけ派手に暴れているのに彼女は魔力切れを起こす兆候すら見せない。
一体どうなっているのだろうか?
「魔法は効きそうにないし……近接戦を仕掛けてみるか?」
俺は腰に下げていた剣を抜く。
「『転移』」
俺は転移を使ってゼロさんの後ろに回り込む。
「ごめん」
俺は一言謝って剣の柄の部分で首を殴ろうとする。
だが……
その一撃は防がれてしまった。
いつの間にかゼロさんが握っている剣によって。
「嘘だろ……魔剣まで持っているのか……」
俺だって魔剣を手に入れるのは相当苦労したんだけどな……もう手に入れたとは、驚きだ。
しかしこれは……
「詰み、かな?」
魔法では敵わないし、剣も防がれた。
他に何かあったかな?
一度彼女と距離をとる。
いまだ、彼女の攻撃はやんでいない。
「一か八か……ゴリ押しでもするか」
俺は彼女の正面に転移する。
そしてそのまま彼女に斬りかかる。
しかし、案の定彼女の剣に防がれる。
「『リリース』!!」
俺は空間から新たな剣を取り出し、彼女の剣に飛ばしてぶつける。
その衝撃で彼女の手が緩んだ。
今だ!!
俺は彼女の腹の辺りに抱き着いて思いっきり地面に叩きつけた。
ゴツンという鈍い音がなり、彼女は動かなくなった。
「はぁ……二年前の俺なら、もっとスムーズに行ったんだろうなぁ。二年のブランクはでかいね」
念のため、彼女の脈を確認しておく。
「……ちゃんと生きているね。よかった……」
一先ずはこれで大丈夫だろうか?
それにしても……
「……すごく柔らかかった」
頭に当たったアレがとても柔らかかった。
けっしてワザとやったわけではない。
「ふぅ、この後どうしようか……」
彼女を安全な場所に寝かせるとして……目が覚めたら後はどうしよう?
「一体……何を話したらいいんだ……」
結局、テッドはゼロが目を覚ますまで悩む事となった。