自分の意思
「…………知らない天井だ」
ここはどこだ?
部屋……寝室か……誰の?
俺は寝ていたベッドから体を起こし、その場に立ち上がろうとする。
「あっ……」
倒れた。
体に力が入らない。
「お腹……すいたな……」
体中の力が抜けていく。
何だか頭がボーっとしてきた。
そんな時、部屋の扉が開いた音がした。
「え!?ちょっ!大丈夫ですかっ!?」
男の人の声がする。
「お……」
「……お?」
「お腹……すいた……」
「……えっと……直ぐに用意します」
男は、俺を抱えてベッドに寝かせてから部屋を出た。
このまま横になるとまた眠ってしまいそうなので、上半身だけ起こしてそのままボケーっとしておく。
暫くすると、男が食事を持って部屋に戻ってきた。
「お待たせしました。とりあえず、これを「いただきます」……ハイ」
俺は食事を受け取って口にかき込んでいく。
パンを食べ、炒められた野菜を食べ、スープで腹に流し込み、全てを平らげる。
この間、わずか五秒弱。
ぐぅ~~~~。
「あっ………」
男だった頃だったら十分な量だったのだろうが、この体では全く足りなかったようで、お腹が直ぐに鳴ってしまった。
「……おかわり要りますか?」
「お、お願いします……」
非常に申し訳ないが頂くことにした。
お腹が減っているから動くことも出来ないしね。
結局、その後更に追加で二回おかわりを貰った。
…………
「すみません、こんなにいただいちゃって……」
「いいんですよ。食料ならまだまだありますし、なくなればまた調達すればいいだけですから」
食べてからでなんだけど、メッチャ申し訳ねぇ……
しかも、これでまだお腹いっぱいじゃないんだぜ?
まだまだ足りない……まぁこれ以上は貰わないけど。
それよりも……
「あの……ここはどこですか?」
「ここですか?ここは『アブルスタ王国』の辺境の開拓村にある僕の家です」
アブルスタ王国。
この世界の三大大国の一つだ。
それにしてもアブルスタ王国の辺境か……。
となると、近くには大森林という異常にデカい森があるはずだ。
つまり、俺が気を失うまでいた森は大森林だったのか?
研究施設は森の中にあった。
となると、あの研究施設はアブルスタ王国の管理下にある物なのか?
でも、目の前にいる青年はここを開拓村と言っていた。
やる事といったら、森の開拓だろう。
自分たちの非人道的な研究施設がある森を開拓させるのか?
それとも、何か目的があるのか?
……調べる必要があるな。
「……行かないと」
「えぇ!?まだ駄目ですよ!しばらくは安静にしていないと!」
「ありがとうございます。でも……やるべき事が、あるんです」
研究に関わっていた者に復讐し、施設を破壊する。
あんな場所、あってはいけないんだ。
それに、あの施設にはまだまだ捕らえられている奴隷が沢山いる。
俺はその人たちを助けたい。
私は最初の犠牲者だ。
だから、あの場所で最も多くの苦しみを見てきた。
助かったのは私だけ……そして、助けられるのも私だけ。
私が、何とかしないと。
俺はベッドから立ち上がり、部屋を出ようとする。
「待って!!」
青年が俺の腕をつかんできた。
「待ってくれ…………俺には、君の事情は分からない。でも、君の目を見れば分かる。君がやろうとしているのは、とても危険な事じゃないのか?」
「…………」
危険、ね。
「ありがとうございます。心配してくれているんですね。初対面であるはずの私を。……それでも、やらなくてはいけない。やらないといけない理由があるんです」
「……教えては、くれないんだね」
「……はい。ごめんなさい。あなたは命の恩人なのに……今の私には、あなたに迷惑をかける事しか出来ない」
「そんなこと……!!」
「私は……『ゼロ』。それが、私の名前です。必ず……必ず、お礼に来ますから。……それでは」
俺は青年の手を振り切って、部屋を出る。
「待ってくれ!!」
後ろから声が聞こえたが、私は振り返らない。
部屋を出れば、外へ出る事の出来る扉はすぐに見つかった。
私はそれを開けて外に飛び出し、そのまま走り続ける。
どうやらここは、村の端だったようで、直ぐ近くに街道を見つけることが出来た。
街へ向かおう。
やるべき事は分かっている。
<テッド視点>
行ってしまった……。
「……追いかけないと」
俺は家を出る。
すると、そんな俺に誰かが声をかけてきた。
「おいテッド。今、すげぇ美人な嬢ちゃんがお前の家から走ってったが、ありゃあ誰だ?」
「あぁ、ライさんですか」
ライさんはお隣さんだ。
妻と息子の三人で暮らしている。
「なんだ?随分落ち込んでるな。まさかフラれたのか?」
ライさんは笑いながらそう言ってくる。
「……まぁ、そんなところですかね」
「……マジかよ」
辺りを見ても、あの少女……ゼロと名乗ったあの子の姿は見えない。
「どこへ向かったか、わかりますか?」
「ん?街道を走って行ってたから、多分街にでも向かったんじゃないか?」
「街ですか……」
街か……最近は行ってないな。
街に住んでいたことが懐かしい。
まぁまだ二年前の話だが。
「ライさん。俺、ここを出ようと思います」
「は?お前、まさか……追いかける気か?」
「まぁ、いろいろあるので、今すぐっていう訳にもいきませんが……」
本当なら今すぐにでも追いかけたい。
今からならまだ間に合うだろう。
だが、彼女はここに戻る気が無いように思う。
今行ったところで、無駄になってしまうだろう。
それに、ここを出るなら準備もある。
「早くても、明日には出ていこうと思います」
「……そうか」
「いきなりですみません」
「全くだ。だがまぁ……俺は応援してるぜ?」
「!!……ありがとう、ライさん」
「へへ、ここを出る時には声をかけな。食料くらいなら分けてやる」
「それは……とても助かります」
「いいって事よ!!」
必ず……必ず見つけ出して見せる。
<ゼロ視点>
うわぁ……勢いで出てきてしまった。
でも、あのままいたら、もっと強く引き留められてたかもしれない。
そうなれば面倒だ。
というかゼロって……いくら咄嗟に思いついたのがこれだったからって、女の子の名前にゼロは無いだろう。
我ながら酷いセンスだ。
でもまあいっか。
これからはゼロだ。
今の自分には、この名前がピッタリだろう。
さて、これから街に向かうところだが、一つ問題がある。
街に入るためにはお金が必要なのだ。
そして私は無一文。
持っているのは今着ている服だけ。
街に入るためには、どこかでお金を手に入れないといけない。
まぁそれは後で考えよう。
今は街へ向えばいい。
で、街へ行って何をするかだが、冒険者になろうと思う。
理由はいくつかある。
一つ、お金。
冒険者は、実力があるだけお金を稼ぎやすい。
危険も多いが、この体なら問題ないだろう。
二つ、自由度。
冒険者なら、基本的にどこに居ようと不思議じゃない。
どの街に居ようと、どの国に居ようと、どんな土地にいようと、冒険者なら基本的に怪しまれることはない。
それだけでもかなり動きやすくなる。
三つ、大きな組織への接触。
組織といっても、いろいろある。
国や商会、教会なんかもある。
冒険者として名を上げれば、そういった組織から声がかかることがある。
あの様な大規模な施設を運営するのは相当大変なはずだ。
大きな組織でなければ、まず不可能だろう。
一先ず、最初は国を標的にして調べていこうと思う。
兵器とは戦力だ。
単純に、戦力を手に入れて大きく得をするのはどこか考えた時、国が最も分かりやすかったというだけだ。
国の重要人物に接触するのは、冒険者になって名を上げるのが一番可能性がある。
というかそれが一番手っ取りばやい。
これが外れたら、また次を調べればいい。
片っ端からやっていくつもりだ。
どれだけ時間がかかろうとも……最後までやってみせる。