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エテ公爆散!!

 気が付けばここに居た。

 自分でも分からないうちに、いつの間にか森の中を走っていた。

 手足には、鎖がぶら下がった枷が付いている。

 接触部分が擦れて痛い。


 思考が混乱していると自分でも分かる。

 それでも、足を止めようとはしなかった。



 …………



 「………寒っ!って、えぇ!?」


 森!?なんで!?


 「お……落ち着け、落ち着くんだ俺。俺の名前は……」


 そこで気付く。

 俺の中に、二つの記憶があることに……。


 「№000……」


 ナンバーゼロゼロゼロ。

 それが、この記憶の持ち主の名前。


 「そして俺が、六幻むげんまひろ……」


 俺は、日本で生まれ育ったごく普通の人間だ。

 最後の記憶は……専門学校の面接に向かう最中の電車の中で、いきなりすごく揺れたと思ったらここに居た。


 「で、ここに居るのは……あそこから逃げてきたからか……」


 №000の記憶。

 どうやら、この子は物心がついたころから孤児院にいたようだが街で人さらいに合い、そのまま奴隷として売り払われて、とある研究施設に買い取られたようだ。


 孤児院では名前があったようだが、もう思い出せない。

 №000は、研究施設でつけられた名前だ。


 人に番号を付けているあたり、碌な研究施設じゃない事が分かるだろう。

 実際碌な場所じゃなかった。

 その施設で研究されていたのは、『人を兵器にする研究』だ。


 この子は試作品第一号として作られて、№000の番号を与えられた。

 この番号には、ちょっとした意味がある。

 №000というのはちょっと特殊で、2回目に改造された子は№101と付けられた。


 百の桁が世代番号であり、十の桁までが製造番号を示している。

 第二世代で24番目に作られると、№224という風になる感じだ。


 この子の場合、どの世代にも属さず、これからの製造の基準として作られたためにこのような番号となったようだ。


 この子の改造結果は、半分成功で半分失敗といったところの様だ。

 想定以上の力を与える事に成功したうえに身体がうまく適合したようだが、非常に不安定で制御不能という事態になり、処分が決定されたようだ。


 しかし、不安定とは言え強い力を持っていたため、確実に処分するすべを施設は持っていなかったため、数か月の間は拘束された状態で閉じ込められていた。


 しかし処分の目途が立ち、この子を特殊な道具で力を封じてから処分するはずだったのだが、ここで研究員たちはミスを犯した。


 この子はとても可愛らしい見た目をしている。

 この子の記憶の中に、鏡で自分の姿を見た時の物があり、俺はそれで知った。


 今も同じかどうかは分からないが、研究員たちは力を封じたのをいい事に、処分する前にこの子の欲望の捌け口にしようとしたのだ。

 それが間違いだった。


 この子は最後の最後で大きく抵抗し、感情が高ぶり力が増幅。

 拘束具もろとも研究員たちを殺し、その隙に施設から脱走して今に至る。


 いろいろ思うところはあるが……


 「この体の異物は、『俺』の方だったのか……」


 この『少女』の意識がどうなってしまったのかは分からない。

 今、この体には俺がいる。


 「……これからどうしよう」


 俺は、『この世界』で何をすればいいのだろうか?



 …………



 俺は一先ず、その場を離れる事にした。

 もしかしたら追っ手が来るかもしれない、そう思うと怖くてあの場所にいる事が出来なかった。

 まぁあの場所にいても意味が無いし、結局は移動することになっていただろうが。


 手足についていた鎖付きの枷は力ずくで引きちぎった。

 改造された体は伊達ではないという事だ。

 その枷は今も持っている。

 追手が来た場合、枷が落ちていたらこの方向にいる事がバレてしまうかもしれないから捨てられなかったのだ。


 きっと武器ぐらいにはなるだろう。


 そう、武器だ。

 この世界で街の外を歩くには必需品といってもいいものだ。

 わかりやすく言うと、よくあるファンタジー世界だ。

 魔物が居たり魔法があったり、人間以外の種族が居たり。

 魔物とは無縁の生活をしていたので、残念ながら見たこともないが。


 「とりあえず……食料が欲しいな。あと服」


 服は研究施設にいたときの物だ。

 これは人前に出たらかなり目立つ。

 何とかして一般的な服を手に入れたい。


 食料に関しては、今はどうしようもない。

 辺りを見回してみても、何となく見たことがあるなぁといった植物は見つけられるが、それが食べられるものなのかが分からず手を付けられない。


 しかし、何時までもこうしている訳にはいかない。

 改造された後から、この体は以上に食料を欲するようになった。

 今までどうしていたのかって?

 実は研究施設では十分な量の食事が与えられていた。

 作られてから欠陥が見つかった当初は、餓死させて処分しようと研究員たちは考えたようだが、この子が精神的に不安定になり施設の一部を破壊するほど暴れてしまったため、再度閉じ込められた後は十分な食事が与えられるようになった。


 でも、今は食事を与えてくれる人が居ない。

 自分で何とかしなければいけないのだ。


 だから、歩き続けるしかない。

 ここがどこかも分からないが、この状況を脱却できる何かを求めて……



 <数時間後>



 「ア“ア“ア“ア“ア“ア“!!!死ネ!死ネェェェッ!!!!!!!!」


 俺氏、現在森で大暴れ。


 「来ルナァァ!!!」


 ぐちゃっと、何かが潰れる音がする。

 しかし、そんなことはもう気にしない。


 今現在、俺は魔物に襲われている。

 それもかなりの数に。

 見た目はサルみたいだが、成人男性並みの大きさがある。

 最初は走って逃げていたがいつの間にか囲まれており、こうして戦う事になってしまった。


 最初に囲まれた時、このまま自分は死ぬのだろうかと思ったが、ある『モノ』を見つけてから、それが違うと気付いた。


 全てのサルたちは、自分を血走った目で見ていたのだ。

 あれが勃っている状態で。

 あれっていうのは、ナニの事だ。


 「ア“ア“ア“ア“ア“!!!!!」


 そして現在に至る。

 もう必死である。

 いろんな意味で必死である。


 更にひどいのが、日本にいた頃の俺のフル状態よりもデカいのだ。

 そんなものが視界に数百とチン列しているのだ。

 殺意しか湧かない。


 「くっ、マズい……そろそろ腹減りが……」


 この体はとんでもなく燃費が悪いため、直ぐにお腹が減ってしまう。

 このままでは動けなくなる。

 しかし、今動けなくなってしまえば、最悪の未来が待っている。


 使うしかない……人体改造によって得たこの力を……

 正直言って使いたくない。

 トラウマとかそういう物じゃなく……使った後にとにかく腹が減るのだ。

 ただでさえ、既に空腹になっているのだ。

 終わった後にどうなるかなんて分からない。

 だが、今使わなかったら確実に俺は終わる。

 使うしかないのだ。


 「クソッたれがっ!!もうどうにでもなれぇええ!!!!」


 この体に秘める力を開放する。

 その瞬間、俺の視界は光に包まれた。


 …………



 <テッド視点>



 ドゴォォォン!!!


 「うわっ!!なにっ!?何が起こった!?」


 大きな衝撃音が辺りに響いた。

 そして、謎の大きな光も見えた。


 「……行ってみるか」


 俺は近くの開拓村に住んでいる。

 衝撃音の原因の場所と思わしき謎の光が見えた場所は森の中だ。

 村では決して一人で入ってはいけないと言われている。

 本来なら真っ先に村に報告するべきだが……何故か、そんな考えが出てきてもそうしようとは思わなかった。

 ちょっと考えれば危険であろう事は想像できるだろうに。


 俺はその場所に向かった。

 光の場所はすぐに見つかった。


 「なんだよ……これ……」


 地面が円を描くように大きく抉れており、その周りには魔物と思わしき物が散らばっている。


 「これは……グレーターフォレストモンキー?ほとんどバラバラだ……」


 かなり大きな群れで行動する非常に厄介な魔物だ。

 何より、人族の女性を好んで襲う。

 動きが素早く、一体でも厄介なのに群れを成して行動するからかなり危険視されている魔物だ。


 「どうしてこんな事が……!?あれは……人!?」


 大きく抉れた地面の中心に、人と思わしきものが倒れている。


 俺は急いで近づいた。


 「ッ!?……天、使?」


 そこには、あまりに美しい少女が倒れていた。


 「…………ハッ!見惚れてる場合じゃない!!」


 俺はこの少女の脈を確認する。


 「え?……これって……」


 脈をとろうと手に触れたとき、それを見つけた。


 「これは……痕か?」


 見れば、すべての四肢に痕が付いている。


 「手足全てに……それもこんなにくっきりと……かなり長期間拘束されていないとこんなことには……」


 脈は……ある。

 この少女は生きている。


 「……家に連れて帰ろう。こんな所に放っておく事なんて出来ない。安全な場所に連れて行かないと……」


 今の言葉は、きっと言い訳だったのだろう。

 間違ったことをしているとは思わない。

 でも……少しでも、この少女と一緒に居たいという俺の欲望を覆い隠すために言った言葉だったのだろう。


 俺は、この少女に恋をした。

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