第三話 鬼気迫る演技
□□ 登場人物紹介 □□
ユッコ:高橋真由子 本作の主人公。ツッコミ担当。
マツリ:神代茉莉 ユッコの親友。動画の続きを早くみせたがる人。
タッキー:滝川つばさ ユッコの彼氏。見た目はチャラいが真面目。
オカ氏:岡田孝志 オカルトマニアな少年。説明好き。
to-ko:東堂塔子 愛されキャラ的存在。
> 0:05
オカ氏 「それでは、真相を確かめるべく、この廃屋の中に突入したいと思います」
to-ko 「なーんかドキドキしてきたね。よし、先頭は怖いもの知らずのタッキーに任せた! なんたって、あのユッコの彼氏だもんねー。私はマツリの後ろで殿を務めさせてもらうでござる」
タッキー 「え、俺ってそんなキャラ設定なわけ? …まあ、このメンバーじゃ、俺が先陣をきるしかないか。では、突入!」
オカ氏 「おおっ、昼間とはいえ、中に入るとさすがに薄暗い部分がありますね。懐中電灯があるので問題ないですが。それに、天井はほとんど抜け落ちていますしね。いやー、何かありそうな良い雰囲気です。オカルトマニアとしては心が躍りますな」
タッキー 「なあ、オカ氏。噂だと地下に拷問部屋があるってことだろ? 地下に続く階段でも隠されてるってことか?」
オカ氏 「さあ、どうでしょうな。銅像の首を回すと隠し階段が現れるなんてギミックがあったら燃えるのですが」
タッキー 「いや、銅像なんて見当たらねーし。やっぱりガセネタなんじゃ…うわっ!!」
オカ氏 「ど、どうしました?」
タッキー 「今、向こうの割れたガラスに見たことない顔が映ってた!」
オカ氏 「…ああ、なるほど。アドリブで脅かそうって魂胆ですか? そうはいきませんよ」
タッキー 「いや、ほんとに見たんだって。…うっ、うわああああああああ! なんだお前はああああああああ!!」
II 0:14
「ね、ねえ、ちょっと休憩にしない?」
私は思わず、動画の一時停止ボタンを押していた。
停止した画面には、タッキーが叫びながら指さしているカメラの後方へと画面転換した先が映っている。
そこには、薄暗い廃屋の中でウラギマスクを被り、片手に柄の赤い手斧を持った不気味な人影が立ち尽くしていた。私はその姿を見た瞬間、背筋に冷水をあびせられたように固まってしまったのだ。
「…あ、なあんだ。to-ko…だよね? このウラギマスク?」
薄暗いのではっきりとはわからないが、静止した画面に映っているウラギマスクを被った人影の体のラインは女性のそれに見える。
「そうだよ。他にいないでしょ?」
マツリがいつもと同じ落ち着いた調子でそう答える。
「そっかそっか、だよねー。いやさ、なんか妙に迫力あったからびっくりしちゃったわ。じゃ、続きをと…」
> 0:14
タッキー 「な、なんなんだよ! 誰なんだよお前は!?」
オカ氏 「あ、あれはこのランドのマスコットキャラのウラギ君…のようにも見えますが」
タッキー 「いや、ウラギ君ってあんな気持ちわりー感じじゃなかったろ? つか、なんでマスクなんだよ!? 着ぐるみじゃねーのか!?」
オカ氏 「こ、こっちに近づいてきますな」
タッキー 「く、来るな! 近づくんじゃねえよ!」
オカ氏 「うわっ、手斧を持っているじゃないですか? いったい何を考えているんです? 警察呼びますよ!!」
タッキー 「…え? ぎゃああああああああ!! ど、どうして? ああ! やめろお! やめてく、あがああああ!!」
II 0:21
「…こ、これって!?」
私は恐ろしいものを見た。
それは私の彼氏が殺されている映像。
ウラギマスクを被った人物は、猛然とタッキーに走りよると、両手に握りなおした手斧を思いっきり彼の懐に叩きつけた。その手斧の刃は鋭く研がれていたように見え、途端に彼の腹部からは大量の鮮血が溢れだす。
タッキーは初めは何が起こったのかわからない様子だったが、自分の腹部の状態を手で確かめてから、表情は苦しみに満ちたものに豹変し、絶叫をあげた。しかし、ウラギマスクはその後も容赦なくタッキーの体を手斧で何度も斬りつける。やがて、辺りに血しぶきが舞い、タッキーは倒れて動かなくなった。タッキーの顔は血色を失っていた。
「どうしたの? ユッコ?」
後ろからの冷たく色のない口調での問いかけに、私は振り返る。見ると、マツリが涼しげな顔で私を見つめていた。
「どうしたの …って、いや、こ、これって、ほんとに血が出てるように見えるんだけどっ!? ねえマツリ! タッキーは無事だよねっ? 私の彼氏は生きてるよね!?」
私はあまりに凄惨な映像を見てしまったことで取り乱してしまい、半泣きになりながらマツリを問い詰めた。しかし、マツリは相変わらず涼しい表情を崩さない。いや、少し冷酷な影が彼女の瞳に宿ったような、その時の私にはそう見えた。
「もしかして、タッキーが昨日から連絡をよこさないのって…」
その時だった。私の膝に震えが走ったのは…。