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7. 引き籠もり女神は情報通

 今なら何でもできる気がすると言ったな、あれは嘘だ。もっと正確に言うと、気のせいだ。

 『知識』を引き出すという新スキルを手に入れたものの、だからといって即チート女戦士に変われるわけじゃない。


 俺は昨夜、この世界に関するありったけの脳内ファイルを解凍してみた。それはもう徹夜する勢いで集中して頑張った。決して、リーナの匂いのするベッドで緊張し過ぎて眠れなかったわけではない。うん、仄かなフローラルの香りだったよ。女の子って何でいい匂いがするんだろうね。しかも今やその香りが俺の体から漂っているわけで、悶々とするというか悶々通り越してぐるぐるするというか。


 ゴホン。と、とにかく、それで判明したことがある。


 俺の予想通り、あの鏡にはスペアがあるのだ。それも1枚や2枚じゃない。リーナが把握している限りで9枚が現存しており、鏡どうしをつなげると互いに物質や言葉を転送できる。鏡はこの世界のあちこちに散らばっていて、それぞれに所有者はばらばら。彼らはネットも電話もないこの世界では極めて珍しいネットワーク型の道具を有していることになる。


 つまり、俺の体を横取りした『あいつ』も鏡の所有者であった可能性が極めて高いのだ。あの割れた鏡を鏡1、俺の部屋にあったのを鏡2とすると、鏡1と2との『通信』回線によって俺とリーナはつながっていた。そこに奴が鏡3を通して割り込みをかけた、と考えると辻褄が合う。


 ここにある鏡は割れてしまって別の鏡に呼びかけることもできないが、まだ無事な鏡からならそれも可能だろう。元の『あいつ』が持っていた鏡を突き止めれば、そこにはきっと『あいつ』の体に入ったリーナがいる。『獣』をどうにかするにしろ『あいつ』をどうにかするにしろ、まずはリーナを見つけるのが先決だ。


 つーわけで当面の方針:魔法の鏡を訪ね歩け。


 で、問題は、『リーナ』として鏡探しの旅に出るのはこのままでは難しそうだということだった。


 まずもって、旅慣れてない。むしろ自力で生活したことがない。自分で着替えたことすらない世間知らずは中身が俺であることによって多少補正されるが、たとえばこの体が長距離歩けるかっつったら多分無理。


 更に、戦闘スキルがない。いや冒険者とかやるわけじゃないからそこまで強い必要はないんだが、最低限の自衛スキルは欲しいところだ。リーナを探しに出かけて『リーナ』がお陀仏なんて洒落にならん。下手したら殺されるより酷い目に遭うかも知れない。これだけの美少女だから、不本意ながら売ったらさぞかし儲かってしまうことだろう。俺のリーナにそんなこと許さん!


 んで、これらの問題を解決したとして、どうやってうまくこの場所を抜け出すかという最大の難問が控えている。『女神さま』が自称じゃなくてガチなのは想定外だったし、あの親衛隊なんてものも知らなかったが、幼少時からここを離れたことがないという話は本人から聞いていた。リーナはかなりの重要人物なのだ。ということは、俺が自分で旅に出ようと思ったら何かしらのフェイクを用意する必要がある。


 今のところ解凍済みのファイルに影武者についての情報はなかった。解凍しただけで未読のファイルもあるので可能性はゼロではないが、あまり期待はできそうにない。


 そこで逆転の発想。いないなら作っちゃえばよくね?


 俺は何を言い出したのか。これにはちゃんと算段があるのだ。


 『獣』がいて『女神さま』のいるここは『神殿』と呼ばれている。『獣』を封じてある(封じきれてなくね?)聖堂を中心に、大小の祠と居住区が集まって小さな集落のようなものを形成している。大きさはまあ、大学のキャンパスくらいを想像してもらうといい。


 重要なのは祠。ここには何と、呪われた武器・防具・魔道具が奉納されているのだ。毒を持って毒を制すって考えらしい。『獣』の瘴気によって呪いを抑える目的で、大陸各地から手に負えない道具がわんさか集まってくるのである。俺はこれを手に入れようと考えた。


 そんなもん入手したところで、とお思いだろうか。忘れちゃいけない、今の俺は『女神さま』なのだ。この体が持つ、正真正銘この世界最高かつ唯一のスキル、『浄化』が使えるのである。人間の聖人さま聖女さまも似たようなことがやれなくはないようだが、リーナのそれは桁違いだ。何たって女神だからな。


 このスキルがあれば、有益なエフェクトを残したまま呪いだけを浄化して上質な道具を確保できる。

 魔道具をうまいこと応用すれば『女神さま』が神殿にいると思わせておいてこっそり旅立つことが可能だし、防具や武器でこの身を守ることもできる。


 つうわけで、これから俺が求めに行くアイテムは3つ。


 ザカリアスの絶対防具。

 ルドルフの荒れ狂う馬車。

 アレクサンドラの幻影水晶。


 行くぜ、待ってろ祠ども!


 待ってろっつってもすぐそこだけどな!

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