19. おとこのこ、おんなのこ
「お椀を持って一列に並んで下さいね、小さい子から順番ですよ!」
うわー懐かしい。小学校の時を思い出すなー。今日の給食当番、じゃなかった野外炊飯の配膳を仕切っているのは何とサキヤである。リルハと並べるとお姉ちゃんなのは前々からだったが、ここに来てそのスキルは他のガキどもに対しても発揮されるということが判明した。
ちなみにリルハの方は年少のお子様に混じってわくわくと列に並んでいる。そしてサキヤから「メッ」と怒られていた。……自重しろよ。
誘拐されたガキどもを預かってからおよそ1週間。なし崩し的に(というか俺としては不本意に)始まった道連れだったが、旅芸人『紅い花一座』との旅はここまでのところ特に問題もなくうまいこといっている。
大陸北端の森で盗賊の砦を出発し、今は東西に大陸を横切る街道に向かって南下しているところだ。ほぼ真っ直ぐ南に行くと街道沿いに大きな街があり、そこで一度旅支度を整えてから北西にある子どもらの故郷に向かう予定である。幸いにして俺が行きたい方角と同じだった。
最大の怪我の功名は、ソーニャの負担が減ったことだろう。何せ『リーナ様』ご一行の戦闘力は実質彼女ひとりだったのだ。不寝番には眠らない幽霊のルドルフがいるとはいえ、いざ何かあった時に戦えるのはソーニャだけ。この問題は俺が気づいておくべきだった。すまんソーニャ。
今はファティマやアイシャといったメンバーが護衛を分担してくれるのでソーニャもきちんと休憩を取れるようになった。守る人数も増えたけど、プラマイでいえばプラスと見ていいだろう。
サキヤとリルハも神殿では出遭えなかった同年代の子ども達にしっかり馴染んでいる。リルハなんかむしろ溶け込みすぎて時々見失うくらいだ。この世界の人間のデフォルトなのか、子どもらは大半がリルハと似たような茶色の髪の毛をしているのである。きゃいきゃい鬼ごっこなんかやられた日には誰が誰やら。まあ仲良くやれてんのはいいことだ。思う存分遊べちびども。あ、護衛の目の届く範囲でな?
「ちょっと! 男は最後に決まってるでしょ!?」
「いやシェイラ殿、自分はリーナ様より先に頂くわけには参りませんので」
シェイラの当たりは相変わらずキッツいけど、それを除けばまずまず愉快な仲間達である。
……シェイラさんのお陰で俺の立ち位置が「女子だけど男」で落ち着いてしまってるんだが、それでいいのかお前ら。順応力たっけえな。俺だったらもっと混乱するぞ。いや根掘り葉掘り聞かれても答えられないし困るんだけどさ。
「でも、シェイラはきっとリーナさんのこと、男だとしてもそこまで嫌悪してないと思う」
フォローして微笑んでみせるのは早々に敬語を外してくれたアイシャである。見た目は儚げな美少女の割にさばさばした言動で、俺としては最も喋りやすい相手だ。
今夜はふたりで焚き火の見張り当番。一座トップの美少女とふたりきりの語り合いというのは正直ドキドキのシチュエーションなんだが、揺れる炎もロマンチックと言えばそうなんだが、如何せん今の俺では何もイベントが起こらない。リーナ以外とイベント起こすつもりもないけど。
ちょっとお喋りを楽しむくらいは浮気の範疇に入らないよな? な?
「好かれてもいないみたいだけどな」
「うーん、それは否定できないな。でもボクが見てきた限り、男だって断定しておきながら会話が成り立ってるのってリーナさんが初めてだよ」
ちなみにアイシャはボクっ娘である。そしてシェイラの異母妹である。僅か2ヶ月差で生まれ同じ屋敷で育ったというアイシャが「見てきた限り」ってことは、ほぼシェイラの人生初と考えていい。そりゃすげえ快挙だぞ、俺。……現状、大して嬉しくもないのは置いておこう。あんな喧嘩腰で会話が成り立ってるとか言われてもなあ。
「……ちょっと妬けちゃうな」
寂しげに目を伏せるアイシャ。ううむ、憂い顔も絵になる娘だ。まつ毛長い。お姉ちゃんが男に取られたようで寂しいんだろうな。けど安心していい、俺はシェイラとどうこうなるつもりは毛頭ないから。それにシェイラの方も、中身が男と分かってる以上は精々「他の男よりマシ」程度の位置づけだと思うぞ? そっからの発展はないんじゃないかなあ。
「ボクがシェイラの一番でいたいから、わざわざこんな格好してるのに」
アイシャは拗ねた風に唇を尖らせた。そんな顔もやはり絵になる。俺の方が(つまりリーナの方が)上なのは譲らないけどな!
一座の少女達がひらひらしゃらしゃらした服装なのはひょっとして座長の趣味か? 芸人だから職業上派手な衣装が必須なのかと思ってた。どうやら違ったようだ。蕁麻疹出るほど男が嫌いってとこで気づいても良かったかも知れん、シェイラはひょっとしたらそっちの世界の住人なのかも。
とか考えていたら、アイシャは更に斜め上の投球をかましてきやがった。
「リーナさん。ボクもリーナさんのことは嫌いじゃないけど。もしボクのシェイラをボクから奪うようなことがあったら、……弟として、容赦しないからね」
「……今、何つった?」
気のせいかな、オトウトとかいう単語が聞こえたような。
「シェイラの心に入れる男は、ボクだけでいいって言ったの。姉弟だとか、そんな野暮なこと言わないでね? 誰が何と言おうと、シェイラはボクのなんだから。ちっちゃい時から、ずっとボクだけのお姉ちゃんなんだから」
落ち着けアイシャ、目が怖いよ!
俺が仰け反り気味なのはシェイラについて疚しい考えがあるからじゃねえ、お前が「弟」ってとこの方だよそこんとこもうちょい詳しくテルミープリーズ!?
「……あれっ? ボク、男の子だってリーナさん達に言ってなかったっけ……?」
ハッと我に返ったアイシャが呟いた。
「聞いてませんけど」
「……」
「……」
「……てへっ」
今更かわいこぶってんじゃねえぞ! だが可愛いから許す! いややっぱり許せない! ちょっと混乱してるんですお察し下さい!
「いや見せなくていいよ!?」
「え、でも、リーナさんも中身は男の子だよね?」
そうだけどそうじゃねえんだよ! やめろ脱ぐな誰かこいつを止めろ!!




