表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

18. 俺が何をしたと言うのか

 絶世の美少女にしか見えないはずの『リーナ』を指差して「男」と言い放ったシェイラ座長。誰一人それに反応できず、ぽかんと口を開けるばかりである。そして俺は内心でものすごく焦っていた。


(な、なななな何で!? バレた!? そんな馬鹿な!!)


 あり得ない。確かに中身は男の俺だが、体は正真正銘の女の子である。何もボロを出してないし初対面の相手にバレるはずが……!


「ちょっと失礼」

「きゃふん!? やっやめてファティマっ……やぅう、ふゃあん……」


 ふみゅふみゅと俺のあらぬところを揉むファティマの手つきはとても優雅でありながらとても遠慮がなかった。そのせいで俺は泣きそうだった。俺の、何か大事なものが奪われていく……。


「本物のようですけれど…?」


 ファティマがおっとりと首を傾げてみせる。しかしシェイラは言い切った。


「確かにそう見えるわ、でもこいつ6割くらい男よ!」

「6割!?」微妙に多い!?

「あんた、あたしが気絶してる間にあたしに触ったでしょ」


 触ったって、さっきアイシャに預けられてこいつの体を引きずったことを言ってるのか? 確かに乱暴な運び方だったかも知れないが腕力的な都合上しょうがないし、それだけで中の人のことまで分かるはずがない。俺が困惑していると、シェイラはびしりと自分の腕を指差した。見ると、彼女の白い腕には赤いぶつぶつが浮き出ていた。何と蕁麻疹である。


「あたし、男が嫌いなの」

「……マジっすか」


 まさかその嫌いアンテナで俺の正体を見抜いたというのか。度が過ぎるだろ。呆れかえっているとシェイラ様は更にこんなことをのたまい出した。


「男なんだからこいつもあんたも信用できないに決まってるじゃない。そもそも男なんて汚物だし変態だし気持ち悪いし有害だし!」

「なっ……!」

「こら、シェイラ!」


 その理屈は通らねえだろ!? てか汚物って曲がりなりにも助けてやった相手に言う台詞かよ、そりゃ俺は何も活躍してないけどさあ!


「あの、リーナさん。ごめんなさいね? この娘の勘違いだと思いますから、どうかお気になさらないで」

「勘違いじゃないもんっ」


 軽くキレかけた俺に謝ったのはファティマだった。当のシェイラは暴言をたしなめられ、ぶすくれてそっぽを向いている。子どもか。


「シェイラ、拗ねるのは後にして頂戴な。盗賊さんが目を醒ます前に、できるだけ急いでここを離れるべきだわ。もちろん坊や達を連れてね。私達がおうちに帰してあげないと」


 ですわよね、と『俺』に向かって確認するファティマ。


「ま、妥当な判断だな」


 何無責任なこと言い出したこいつ? お前がさらったガキ共だろ、自分で行けよ。


「盗賊団だぞ? ガキ連れて村に寄ったりしたら袋叩きに遭うに決まってるだろうが。元から適当なとこで通りすがりの善人に預ける予定だったんだ」


 心底馬鹿にした冷たい顔でこっちを見る『俺』。正直こいつの一味なんぞいくらでも袋叩きに遭えばいいと思ってしまうが、そう考えた俺を見透かしたように『俺』はますます冷たい顔になる。


「へえ、いいのか? 荒くれ者の集団がいたいけなガキに何をするか、分かったもんじゃないぞ?」


 ぐっ……。それくらい抑止しろよ頭領だろ、と言いたい。言いたいのだが分が悪い。あまりごねると『俺』=格好いい義賊、『リーナ』=子どもを見捨てる自分本位な我侭令嬢、である。もしここで「それじゃあ後は任せたわね、私達は目当ての物も手に入れたし御機嫌よう」とか言ったら心証は最低である。乗りかかった船とでも言うのか、ガキ共の村まで同行せざるを得ない流れだ。


「ちょ、ちょっとだけ待ってくれ! ……少しこいつとふたりで話したいんだけどっ」


 ささやかな抵抗。俺にだってわざわざここに来た目的があるんだ、せめて情報収集くらいさせてくれ。


 全員に(具体的にはソーニャとファティマに)告げて、『俺』を離れた場所に連れ出した。こそこそ話せば内緒話ができるが、叫べば誰かしらに聞こえる距離だ。何かしようとしやがったらぎったんぎったんにしてやるからなソーニャが!


「そうカリカリするな。折角の可愛いお顔が台無しだぞ?」

「うっせえ。つかリーナどこやったんだ本物のリーナ!」


 さっさと吐け。さっきは周囲の目もあったし動揺して流れに飲まれてしまったが、俺にとって最優先の本題はそこだ。本当のリーナが入ってりゃもっと可愛いんだよこの体は!


「手がかりは手に入れたんだろ? じゃあもういいんじゃないのか」


 そう言った『俺』が視線で示したのは、『リーナ』の抱える古びた手鏡。やべえ、うっかり隠さずに持ったまま出てきてしまった。


【鏡の姉妹・長女ガレリア:後宮とつながり緊急時には王族の脱出経路を提供する。所有者は北の森の盗賊グラン。】


「か、返さないからな! どうせ元々盗品だろ!」

「いや? 先代の首領は正当な所有者だぞ? まあ別に返せとは言わないさ、どうせ使い物にならないしな」

「……使えない?」

「何をどうやっても稼動しない。理由は不明だ」


 水晶に目をやると、ザザ……とノイズが走って情報が上書きされた。


【鏡の姉妹・長女ガレリア:両側からの同意がなければ作動しない。ガレリアの現在の所有者は『カイタカヒト』からの譲渡により『エカテリーナ』となった。】


 両側からの同意、えーっとつまり、王宮側で回路が閉じられてるってことか? あっちも代替わりしたとか? てか、2枚ペアでしか動かんのかい! どれか1枚手に入れたら残りの8枚につながるんじゃねえのかよ、ぐぬぬ……!


「お、お前が何か細工したんじゃないのか!? だいたいお前、何が目的なんだ! どーおせ、碌でもないこと考えてやがるんだろ、世界を自分に都合よく変えてやるとかな!」


 苛立ち混じりに挑発めいたことを口にした、その瞬間。『俺』の放つ空気が変わった。


「な、何だよ、も、文句あんのかっ!?」

「……お前がそれを言うのか?」


 奴の放つひんやりとした怒気に圧され、一歩また一歩とじりじり後ろに下がってしまう。何だよやめろよ、『俺』のくせにそんな怖い空気出すんじゃねえよ!


「お前に何が分かる、『カイタカヒト』。お前がこの世界にやったことのせいで、どれだけの人間が苦しんだと思っている……!?」

「ヒィ!?」


 後退り続けて、気づけば背中が岩壁にあたっていた。逃げ場がないというそれだけでも恐ろしいのに、怒りの形相のままの『俺』が岩壁に手を突いて更に追い詰めてくる。


「や、やめろ近づくなっ」


 無様に声が裏返った。何だこの状況、自分に壁ドンされるって何なんだよ!? しかも少女マンガに出てくるようなロマンチックな壁ドンじゃない、微塵もない。むしろカツアゲとかそっち系統のガチで怖い奴やこれ! 真剣すぎる目線が怖い。目の前の男が漲らせる獣性が怖い。誰だよこいつ、『俺』のはずなのに、俺じゃない……!


(お、犯される……!!)


 膝がガクガク震えていた。今まで隙間からいくらでも逃げれるだろとか思っててごめんなさい、これ無理、マジで無理。体は動かないし、喉が引き攣って声も出せない。すぐそこにいるソーニャを呼ぶことすらできなかった。涙で滲み始めた視界をぎゅっと瞑ってしまうと絶望が押し寄せてきた。


「やめなさいよ、何してんのよ」


 へ……?

 声が聞こえて、目を開けると。革の手袋をした小さな手が、『俺』の腕を掴んで抑えていた。


「しぇい、ら……?」


 震える声で問いかけると、『俺』の手をべしぃっと振り払った彼女はそっぽを向いた。


「別に、あんたのことは信用してない。……けどこういうのは、気に食わないのよ」


 まるで怒っているかのような口調だけど、でも。


「あ、あり、ありがとぉ」

「だっ、だから! 別にあんたを助けたとかじゃないんだってばっ!!」


 うん、でも、ありがとう。そう声に出して言えたかどうかは分からない。俺はへにゃへにゃとその場にへたり込んでいた。……本気で怖かった……。


「どうかなさいましたか、リーナ様!」

「お姉様、無粋なお邪魔をなさっては……あら」


 遅いよソーニャ、もっと早く邪魔してくれて良かったよ。

 チッ、と舌打ちして『俺』が背を向けた。そして吐き捨てるように言う。


「……あまり目立たないように気をつけるんだな、『エカテリーナ』。金髪の娘を探している連中がいる。お前を利用しようとする危険な奴らかも知れん」


 お前以上に危険な奴なんていねーよ!!

 と叫びたかったけど、ぐす、と鼻を啜る音しか出せなかった。畜生。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ