表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

16. 盗賊の隠れ家

「まったくもって、どいつもこいつも軟弱な」


 我らがソーニャ姐さんがぶつぶつと不満を零しておられる。盗賊団アジトの制圧があまりにもあっさり片付きすぎたせいである。物足りないらしい。流石は剣豪。


「ちくしょーこのアマ覚えてろよーッ」

「我が渇きは貴様らの血如きでは癒えぬぞ」


 ……流石は中二病って言った方が良かった?


「まあまあ、仕方がないですよ。何しろ頭領が不在のようですし」


 おっとりと宥めるのは旅芸人の少女その1、つややかな黒髪にややふっくらした体型の女の子だ。東洋風の切れ長の目が、笑うと優しそうな糸目になる。ぱっと見そこまで年長ではないんだが雰囲気が柔らかいのでお姉さんぽい。お姐さんぽくはない。お姐さんはソーニャだ。


「頭領について主力メンバーが出かけてるから雑魚しか残ってなかったんですね」


 旅芸人その2、さっき俺らを呼び止めた薄い茶髪の子。ざっと見た感じだと一座の中で最も顔面偏差値が高い。茶髪の子はまつ毛も薄茶色なんだなあとか思ってしまうのは、それが分かるくらいまつ毛が濃いからだ。潤んだ瞳の華奢で儚げな美少女である。但しその割には雑魚とか平気で口走る辺り、性格の方はあまり可愛くないのかも知れなかった。


 黒髪の娘はファティマ、茶髪の娘はアイシャと名乗った。ちなみに他のメンバーは近くに隠れて待機している。旅芸人の一座は座長を除きあの場にいたメンバーで全員らしかった。つまり若い女の子しかいない。よって置いてきた。うちのチビどももそっちだ。いくらソーニャが強くても、足手まといは少ない方がいいからな。で、ということは、このふたりは足手まといにならない人員なわけである。自己申告なのでどこまで信用していいものか分からんが。


「いえリーナ様、こやつらは相当な使い手です。一度手合わせ願いたいものだ」


 ……マジで? ソーニャがそう言うなら間違いないんだろう。目顔で問うと、黒髪のファティマが困ったように眉根を寄せ、頬に手を当てておっとり答えた。


「流石にこちらのお姉さまとお手合わせして無事でいられるほどではありませんわあ……」


 うん、宜しい。己の分を正しく弁えているというのは大切なことだ。


「ところで、君らのとこのお頭さんもいないようだけど」

「お頭じゃなくて座長です。多分もう少し奥の方に捕虜用の房があるんじゃないかと」


 こだわりがあるらしく茶髪のアイシャが律儀に呼び方を訂正し、それから洞窟の奥を指差した。今いる入り口近くの位置は天然の岩穴で、奥の方は人の手で掘って広げたもののようだ。おそらくは俺が探している鏡もそっちにある。


「その座長さんは、というか座長さんだけ捕まったの?」


 ろくに聞かずに連れてきてしまったがどんな状況だ。単独行動してたのか?


「近くの村で、子供がさらわれたとの話を聞きまして。助けると言って」

「……単身飛び込んだわけか」


 ファティマは柔和な困り顔で、アイシャは怒ったような顔でそれぞれ頷いた。どうやら座長とやらは相当な熱血漢らしい。暑苦しいおっさんまたは兄ちゃんが少女達率いて旅芸人やってるのか。拾われたり助けられたりした訳あり少女の一団なのかも知れないな。何のハーレムだよと突っ込みそうになったが、ふたりが真剣に心配の表情を見せたので茶化すのはやめておいた。


 しばらく歩くと洞穴は3本に別れていた。旅芸人組が右、俺とソーニャは左に手分けして探索を続ける。左は侵入者避けに作られたフェイクの枝道で、行き止まりに罠が仕掛けられていた。無論そんなもんはさくっと(ソーニャが)対処。元の分岐点に戻ると旅芸人の少女ふたりも間を置かずに戻って来た。同じくフェイクだったとのこと。彼女らも思いのほか対応できているらしい。自己申告は虚偽申告ではなかったようだ。


 そうして分担調査を繰り返しつつ、遂に行き着いた最奥の行き止まり。そこには重厚な鋼鉄の扉が嵌まっていた。三日月刀を腰に差した男が立っている。


「な、何だお前ら、どうやってはぎゃああ!?」


 門番は「どうやって入った」まで言い終えることもできずに一撃で沈められた。よし、ここは例のあの台詞を。


「峰撃ちじゃ、安心せい」

「…………」

「ごめん言ってみたかっただけ」


 ジト目で見ないでソーニャさん。だって俺やることなくて暇なんだよ。屈強なはずの男の懐を手際よく探り、ソーニャが鍵を取り上げる。特にひらけゴマとか言う必要もなく扉は開いた。ここまで何のアクシデントもなし。盗賊狩りってこんなイージークエストだったのか。いやうちの護衛剣士が強すぎるのか。


「お邪魔しまーす」


 肩透かし食らいつつ踏み入った広い部屋の中は、まさしく目も眩むような金銀宝石の山だった。いや欲で目が眩むって比喩じゃなくて、金ぴかすぎて物理的に眩しい。ド庶民の俺としては気後れするっつうか、こんだけあったら食傷起こしそう。うへえ。


「リーナ様、あちらに」


 女剣士がおもむろに宝物倉の右手奥を指し示した。その一画の岩壁に窪みがあり、鉄格子が嵌まっている。中に数名の人影らしきものが見えた。捕虜と宝を同じ場所に突っ込むとかどういう了見だ。スペースならいくらでも余ってたぞ?


「座長! シェイラっ」


 叫ぶが早いか、アイシャがそちらに駆け寄った。ファティマもすぐに後を追う。ふたりの目的は、奥の方に倒れている小柄な人物のようだ。じゃあそいつが彼女らの座長なのか。全然おっさんじゃなかった。てか、え? ……女の子じゃね?


「シェイラ、シェイラ!」


 アイシャが必死に呼びかけるが、シェイラと呼ばれたその人物は目を覚ます気配がない。うつ伏せに倒れた顔は長い髪で隠れていて、見える範囲だと怪我をしているのかどうかも判断つかない。アイシャとよく似た薄茶色の髪。もしかして姉妹だろうか。泣きそうな形相でアイシャは後ろを振り返った。


「ふぁ、ファティマ、どうしよう! シェイラが、シェイラが……っ」

「落ち着きなさいアイシャ。あなたはシェイラのことになると取り乱しすぎるわ」


 ファティマが宥める。それに、と彼女は続けた。


「小さな子供達が怯えるでしょう?」


 その通り。鉄格子の中にはシェイラ座長と、加えて複数の幼い子供がいたのである。後ろ手に縛られているのは座長ひとりだけで、後の子らは小汚いし怯えているものの折檻の痕跡などは見当たらない。ひとまずそのことにほっとした。


「大丈夫ですよ、坊や達。助けに来たの」

「ほ、ほんと?」

「おうちに帰れるっ?」


 ガキどもが口々に訴え出した。ファティマが笑顔で頷くと、わぁっと歓声が上がる。


「娘、うろたえるな。ひとまずそこから出してやるのがよかろう」


 我らが姐御の頼もしい声が洞穴に響いた。冷静なその声にアイシャも涙を引っ込めた。


「そ、そうだ、そうだよね、鍵、ここの鍵っ」

「不要だ。そこを退くがいい」


 げ。危ないガキども離れろ! 奥に避けろ奥に!

 ザンッ、ガギン、ギィン!


「? …!? ……!?!?」


 ギャラリーが声もなく仰天している。ですよねー。こんな太い鉄格子5本も6本もまとめて一刀両断されたらそりゃ驚くわ。常温のバターかっての。


 いち早く我に返ったのはファティマだった。おっとりしてる分だけ動じないのだろう。地味に強い。


「さあさ、皆さん、こっちにいらっしゃいな」


 柔らかく微笑むと幼児どもが安心感を覚えて寄って来る。保母さんか。

 その横ではアイシャが座長の体を担ぎ上げていた。ほっそり華奢な割に力はあるらしい。ちらりと視線を投げたファティマに低く早口で答える。


「眠りの魔法、すぐ解けると思う」

「それなら良かったわ」


 全員が急いで外に出た。ファティマ、幼児ども、座長を抱えたアイシャ、そしてソーニャ、俺。俺だけ一瞬くるっと引き返したのでソーニャが心配してくれた。


「リーナ様? 如何なされました」


 破壊された鉄格子の向こうからとあるブツを取ってすぐに戻る。俺としてはこれが本来の目標物だからな、忘れるわけにはいかん。


 キャアァアアア!!


「!!」「!!」


 通路の方から絹を裂くような悲鳴が聞こえた。まずい、先に出たファティマ達が盗賊の残党に出くわしたのかも知れない。俺とソーニャは慌てて走り出した。


 そして、たどり着いた先に見たものは。


(うっげぇえええ!?)


 幼児どもと気を失ったままの座長の体を後ろに庇い、ファティマとアイシャが荒くれ男達に剣を向けている。そこまでは予想通りだった。一見危機的状況だが、うちの護衛剣士がいればぶっちゃけこの程度の人数どうってことない。全く無問題。


 問題は、野郎どもの先頭に立つ、どうやらリーダーらしき若い男が。


「お? タカヒトじゃないか。予想外に早い到着だな」


 ……………………俺だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ