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12. 幽霊馬車と魔法使い

「あのね、また危ない目に遭っても知りませんからね!?」

「だーいじょーぶっ」


 何度口をすっぱくして言い聞かせてもこの反応である。リルハ、お前昨日丸焼きにされかけたの忘れてんのか?


「剣士様が守ってくれるもーんっ、きゃはは」


 名指しされたソーニャをちらっと見る。女剣士は無言のまま頷いた。なんという頼もしさ。流石っす姐御。


「えーっと、トリ頭のリルハはともかく」「女神さまひどいよっ」


 うっせえ。

 俺はもうひとりの方に視線を投げかけた。


「サキヤも無理してついて来なくていいんですよ?」


 むしろ大人しく留守番しててくれた方がこっちの心配が少なくて済む。と思ったがサキヤはふるふると首を横に振った。自分も行く、と言いたいらしい。表情があまり動かないので内心で何を考えているのか読み取りにくかった。


 見つからないように注意しなかったのは俺の落ち度かも知れないが、しかし同じ家に住んでてこっそり外出ってのも難しいもんだと思う。


 かくして2度目のダンジョン潜りである。標的はルドルフの荒れ狂う馬車。歩き慣れない『リーナ』が長距離を旅するとなれば乗り物は必需品だ。


 馬車はルドルフという200年ほど前の侯爵の持ち物だったらしいが、「走り出すと乗客全員が死ぬまで止まれない」という呪いにかかっている。今なら幽霊御者がセットでついてくるのでお買い得。当然ながら馬車を引く馬もとっくに死んでてお化けである。


 が、対策は講じてある。この呪い、「走り出すと」止まらないってのがミソなのだ。つまり、誰も乗ってない状態ならお化け馬は大人しいのである。そんなら俺の浄化スキルでちょちょいのちょいだ。呪いだけを解除して、餌も水も休憩もいらない乗り物が手に入るって寸法である。


 今回は初めから護衛つきだし、楽勝だぜ。



 ……と思っていた時期が(略)。

 うん、あのね、まさかね、呪いかかってるって言ったのに嬉々として乗り込んじゃう馬鹿がいるとは思わなかったんだよね。


「わきゃーっ! 止まらないよ女神さまーっ!!」

「くぁーっ!?」

「リルハッ」


 ……リルハ、お前わざとやってんじゃねえよな?


 馬車の窓から顔を出したリルハがきゃーきゃー叫んでいる。ちょっと楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。あいつジェットコースター大好きだろ間違いない。窓から放り出されたトカゲは俺が受け止めた。「くきゅうぅ」よしよし怖かったな、もう大丈夫だから。


「で、えーっとソーニャ、あれ止めれるかなあ?」

「中の娘ごと斬って宜しければ」

「やめて!?」


 眼帯を颯爽と外したソーニャはガチの臨戦態勢である。暴れる幽霊馬車を「斬って」しまえるのは確かにすごいが、リルハごとというのはいただけない。それなりに仲良くできていると思ってたんだが、まだソーニャの中でちびっ子どもはそういう位置づけなのか。そもそも馬車が手に入らないと本末転倒だ。


「ソーニャ、2秒でいいから足止めだけできない? 浄化の力が馬に当てられれば」

「それではあの娘に当たってしまうのでは」

「あああそうだったああ」


 不覚。悔しい。今日から練習する! 浄化の光で精密射撃できるようにする!

 が、現時点では広範囲にふわっと広がる光しか出せない。人間に当てたことがないのでどんな効果が出てしまうか分かったもんじゃなかった。ドラゴンの食性を変えてしまうような光である。下手したらリルハの頭がしあわせになってしまう危険すらある。


「クソッ……どうすれば……!」


 くいくい。ドレスの裾が引かれる。何だよ今取り込み中、って。


「サキヤ? どうした」

「あの、できます。目くらまし」

「へ?」

「お馬さんをびっくりさせて、止められます」


 え、どういうこと? サキヤが目くらまし?


「緑の娘、もしや幻術使いか」

「えっと、はい。多分そう呼ばれるモノです」


 幻術使いって何ぞ。


【幻術使い:魔法使いの一種。高等魔法。他者の認識に作用する魔術を得意とする】


 ニンシキにサヨウって何だ俺に分かる言葉で教えてくれリーナの知識よ。サキヤがその高等な魔法使いとやらなのか? ううむどういうことか分からんが、とにかくサキヤが爆走する幽霊馬を止められそうだというのは分かった。


「じゃ、じゃあサキヤ、頼めるか?」

「はい!」


 サキヤが両手のひらを幽霊馬車に向けて構える。


〈光よ光。世を照らす光よ。己が力を手に入れよ。我、サキヤが望む瞬きを〉


 地下道に鋭い光のハレーションが起きる。すぐに目を覆った俺とソーニャは無事だが、もろに食らった幽霊馬はたたらを踏んで停止した。幽霊御者も「目が! 目がァ!」とか言いそうな体勢でうずくまっている。

 同じく目を回し車窓からぐでんとぶら下がったリルハを、神速で走り寄ったソーニャが回収する。


「今です、女神さま!」


 よっしゃ任せろ!


〈哀れなる亡者にかけられし呪いを祓い清めよ〉


 目くらましよりは柔らかい光が幽霊馬車に降り注ぐ。

 光が収まると、ぱちくりと無邪気そうに瞬きする馬はさっきまでが嘘のような大人しさでその場にたたずんでいた。暴走を抑えられずに立ち乗りしていた御者も今は落ち着いている。心なしか顔も険が取れて穏やかな表情だ。


『女神さま。呪いを解いて頂き恐悦至極にございます』


 幽霊御者は古めかしい作法で優雅にお辞儀をした。リーナの知識によると200年前の貴族の礼法だ。そりゃそうか、こいつが生きてた時代がその辺りだもんな。


『かくなる上はこのルドルフ、魂の尽き果てるまで女神さまにつき従いましょうぞ。何なりとお申し付け下されませ』


 そりゃ有り難い。というか元々そういう下心で呪いを解いたわけだが。多分この状態なら話が通じる。が、ソーニャ達のいる前ではまずい。


「ありがとう。何かあれば呼びますね」


 今日のところはひとまずにっこりキープということで。後日改めて誘いに来よう。

 ……『リーナ』の微笑みに幽霊御者がちょっと赤くなったのは気のせいか? よく見ると結構なイケメンじゃねえかこいつ。くっ気に食わん。俺のリーナとフラグなんて立つと思うなよ!


「それにしてもサキヤ。魔法が使えたのですね」

「ああそうでしたな。緑の娘、資格持ちか? 何級だ」


 魔法使いには資格とか級があるのか。そろばんみたいだな。もしくは空手とか。


【魔法使いの段位:10~1級。専門学校で10級から始まり、1級が最高。それ以上のレベルを求めるものは王属騎士団もしくは研究院に進む。どちらにも登録していない者は段を取ることができない。歴代最高は12段。現在の最高位は騎士団顧問のアルブレヒト師、7段】


 ほーなるほどね。国が管理しているわけか。ソーニャに何気なく問われ、サキヤは何故か気まずそうに顔を背ける。


「……剣士様、ごめんなさい。実は私、『認定外』なんです」


 泣きそうな顔で両手を前に突き出すサキヤ。俺の世界の常識で言ってよければ、これは「大人しくお縄を頂戴します」のポーズだ。


【認定外魔法使い:国の認可を受けずに魔法を使用する者。多くの場合は犯罪者として処罰される】


 げ!? 許可なしで魔法使ったら罰せられるってことか! うわあまずい、どうしようってか俺のせいじゃねえか、どうにかして庇えないか!?


「ふむ。検定を受けていないということか」


 まずい生真面目の権化ソーニャが眉を顰めている! 通報とかするなら止めるぞ止められる気が全くしないけど!


「……ごめんなさいっ!」

「それならば検定を受けられるように私から推薦状を書こう」

「「ふぇ?」」


 あ、思わずサキヤとハモってしまった。


「何だ、試験は嫌か? しかし正当な検定なしに力を使い続けるのは違法だぞ、分かっておろう?」


 駄々捏ねる子供に言い聞かせるような口調でソーニャが告げる。いや多分、サキヤの驚きは逆だと思うぞ?


「い、いいのですか?」

「いいも悪いもなかろう。次の一斉検定で受験できるようにはからってもらう」

「ありがとうございます剣士様!」


 サキヤの顔がぱあっと輝いた。普段リルハほど開けっぴろげな笑い方をしないだけに、ギャップがあってこっちも嬉しくなるような笑顔だ。きっと孤児という身の上から検定を諦めていたのだろう。ソーニャ姐さん男前っす!!



 んで同日、夕刻。


「ふゃああ……もぉむりぃいい……」


 俺の注意も聞かず阿呆な行動をしたリルハは、脳筋ソーニャの言いつけによって敷地内ランニングの刑に処せられていた。幼児に酷かなと思わなくもないが自業自得だ。


「遅い! 気合を入れろ、残り1周だ!」


 ……ソーニャ姐さん男前っす!!


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