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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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売れないモノを売る

 就労移行支援施設は、履歴書を書く段階に至った。

 自分の場合、これが難しい。

 学歴欄は、一応のところは埋まる。

 埋まるが、そこから先が説明に困るのだ。

 就職氷河期まっただ中の世代である自分は、丁半博打でベンチャー企業を興した。

 興したはいいもの、脳血栓で倒れて放逐された。

 以降はフリーランスで食いつないできた。

 自分は、常識的かつ、まっとうなレールに乗った人生を送ってきていない。

 だから、施設のスタッフもどう指導していいものかわからない部分があるのだ。

 

 職歴はあるにはあるが、まっとうな組織に属して働いた経験はない。

 この時期はここの会社のプロジェクトチームにフリーで参加した、この時期はあそこの会社の下に入って作業した、この時期は誰それたちとチームを組んで案件をこなした。

 振り返ってみると、こんなあいまいな事しか書き出せない。

 しかも、契約上守秘義務に引っかかるため、書きたくても書けないプロジェクトが噛んでくる。

 フリーランスという傭兵稼業に、理路整然とした経歴など求められても、困るのだ。

 職務経歴は、どれだけぼかすかが難しい。

 名の通った企業のアレに参加していた、と、言いたくても言えない。

 それこそ面接まで至り、口頭でそれとなく話すくらいしかできない。

 そこに来て、病歴の話もある。

 障碍者手帳を交付された後も働いたりしているので、書類を見た相手の印象頼みだ。


 こんなポンコツ、どうしろというのか。

 自己PRは、本当に困る。

 売り物にならないダメさの漂うモノのPRは、仕事でいろいろ書いてきたが、その執筆者である本人は、それの集大成みたいな代物なのだ。

 制作の現場ではなく、打ち合わせや進行管理の仕事が増えてきていた中での、自営業廃業。

 頼みの綱だったFlashアニメーションの制作スキルは、昨今の環境変化に対応できず死んだテクノロジーと化している。

 IT業界の負の面に、見事に飲まれてしまったのだな、と思うしかない。

 企業側が欲しいのは、進行管理ができる人間より、現場の作業をこなせる人間だという事なのはわかっているのだから。

 それよりなにより、この業界に戻るつもりは、毛頭ない。

 このせいで心を壊したのに出戻って、何の利があるというのか。


 無能の人。


 一言で表現するなら、これに尽きてしまう。

 時代から取り残され、現場から離れすぎてしまい、元来た道を戻るようなことなど出来などしない身だ。

 それでも、売り込める要素をピックアップしていく、というより埋めていくしかない。

 書き出してみると、自分がいかに使えない人間なのかがわかって嫌気がさしてくる。

 有能だなどと思ったことはないが、まったくもって平均的な社会人のそれには遠く及ばない。

 これが、障碍者手帳を交付されるという事か。

 これが、就労移行支援を受けるという事か。

 これが、仕事を探すという事か。


 なるほど、確かにそうだ。

 障碍者雇用の現場が過酷だとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。

 健常者の就職活動すら大変なご時世、こんな無能を雇いうけざるを得ない企業経営者は災難だ。

 なるほど、確かにそうだ。

 多くの生活保護者が現状に満足して、そのまま現状維持に走るのもわかろうというものだ。

 医療費はかからず食い物は手に入り、雨風しのげて、死ぬまでの日々をひっそりと謳歌できる。

 だが、そんな生活は御免だ。

 他人からは羨まれるだろう、ありあまる時間があるのだから。

 そのままで良いだろうと言われるだろう、傍から見れば、自由を謳歌しているのだから。

 死にたいと思っていても、周囲は羨みと蔑みの目を向けてくるに違いない。

 

 それでも、生きていくしかない。

 このままでは終われない。

 終われないのだ。

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