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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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日常

 ああ、居場所が削られていく。

 久しぶりにデイケア施設へ顔を出した感想が、これだった。

 知らない人が三人入っており、新しいルールが導入されていた。

 問題を起こしたメンバーが一人、退所処分になっていた。

 二週間に一度、薬をもらうついでで通っているが、それにしても変わり過ぎだった。

 一抹の寂寥感が無いといえばうそになる、だが、時間は消費され、世界は動いている。

 受け入れざるを得ない現実が、ある。


 日が浅いというのもあるだろうが、新しいメンバーはまだ、自分の居場所を確立してはいない。

 歳の頃は三十代前半だろうか、まだ若い風をしていた。

 こちらから積極的にかかわろうとは思わない。

 ここはいずれ通り過ぎていく場所なのだから、今更仲良くなってもどうだという言う話だ。

 現に自分の居場所は、就労移行支援施設がメインになっている。


 主軸を移してから、既に四か月。

 時の流れははやいものだ。

 そのため、デイケアのメンバーの名前を忘れつつある。

 年単位で通ったにもかかわらず、ずいぶんと薄情なものだな、と思う。

 だが、仕方がない。

 居場所と、そこに通う人々の量を比較して、どちらがおぼえるべき情報量が多いかと言われれば、圧倒的に就労移行支援施設のほうだ。

 おままごとみたいなカリキュラムのデイケアと、就職を前提とした実践的なカリキュラムの就労移行支援施設。

 扱う情報量も、必要とされる対処法も、全然違う。

 通う人間の性格も、あまりにかけ離れているとなれば、忘れても問題の無い方の情報から、上書きされていくものだ。


 それでも。

 慕ってくれている子たちの事は、忘れられはしない。

 彼らは、デイケアと言う平穏な日常のなかの特異点として、自分が通所する日を楽しみにしてくれている。

 年齢のいった、こんな自分に好意を持ってくれているのだ。

 改めて、それがうれしいと思った。

 そのうちの一人なんかは、自分を追いかけて就労移行支援施設に通いたいとまで言ってくれている。

 慕われていてありがたい事なのだが、デイケアとは違い、彼の面倒は見切れないのもまた事実。

 今は人数が多くて入れないという理由をつけて(これは本当の話だ)、やんわりと距離を置いている。

 自分にはもう、新しい環境の中で培ったグループが存在するのだ。

 確かに彼からすれば頼もしいだろうが、こちらに利することが何もない。

 孤独の中手探りで新しい環境に順応する緊張感もまた、学習の範囲内なのだから、その芽を摘むわけにはいかない。


 デイケアは、楽しい場所だ。

 旨い昼食が出てくるし、眠たければ寝てしまっても良い。

 規律規範がゆるい集団生活の場だ。

 就労移行支援施設は、楽な場所だ。

 仕事の先陣を切るひりひりした感覚は教えてくれない、疑似的なオフィス。

 素行や態度に問題があっても、矯正してくれる空間だ。

 「楽しい」と「楽」では、意味合いが全く異なる。

 仕事が「楽しい」ことは、めったにない。

 仕事が「楽」なときは、手放しで喜べる。

 このニュアンスを身に染みて体感することができるのが、二つの施設の大きな違いだろう。

 かたや牧歌的な田舎にある施設、かたやビル街の一室。

 設定された周辺状況からして違う。

 

 デイケアが終われば、また、日常が帰ってくる。

 過去の日常ではなく、現在進行形の日常だ。

 日常は、変わらないし、異物は面倒だ。

 それでも帰ろう、日常に。

 密度も濃度も厚い、日常に。

 休暇は終わりだ。

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