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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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ラスベガス

 電車で座っていたら、ごつごつと何度も足にスーツケースをぶつけられた。

 最初の一、二回ならそういう事もあるさ、と、我慢もする、それが四回、五回となってくると話は別だ。

「スーツケース当てるの辞めてもらえますか?」

 不機嫌声で、自分は顔を上に向ける。

 そこには、意表を突かれたような顔をしたおばさんが立っていた。

 そして、言い放たれる。

「あら、ごめんなさいね。私、今日からラスベガスに行くもんだから」

 と。


 はぁ?

 と、なった。

 ごめんなさいね、は、意味が分かる。

 だが、ラスベガス云々になんの意味があるというのか。

 そもそも自分は、おばさんのプライベートに興味はこれっぽっちもない。

 大体、こちらの迷惑とラスベガスに接点は見いだせない。

 ただの自慢したがりに付き合ってやる義理もないのだ。

 

 そうですか、せいぜい楽しんできてくださいね。

 とでも声をかければ満足なのか?

 冗談じゃない、一方的に不愉快を押し付けられて、持ち上げてやるなんて糞くらえだ。


 電車の揺れで、また足にスーツケースが寄ってくるのを、軽く蹴り飛ばす。

 顔色は見ていないが、ぐい、とスーツケースが自分の周りから引き離された。

 旅行の最初から最後まで楽しい思い出だけで過ごしたいんだろうが、知ったことか。

 そうしたいのなら、相応の努力をしろという話だ。

 旦那さんと思われる男性から、すみません、と、謝罪された。


 お盆のこの季節、旅行に行く人は多いだろう。

 それは、行く当事者にとっては一大イベントなのだろうが、何の接点もない通りすがりの人間にとってはどうでもいい話なのだ。

 だが、こちらは観光ボランティアでもなんでもない、ただの人。

 やりたい人間が、好きにやってる事に文句を言うつもりは無い。

 だが、それを。

 その献身的な対応を求められても、正直困るだけなのだ。

 

 自分はボランティア活動が嫌いだ。

 カネにもならず、時間だけが奪われる。

 そこにやりがいを見いだせない人種だ。

 市や県、あるいは国が主催する大規模イベントのボランティアなんて、おぞましいとすら思っている。

 背後で祭りを仕切っている広告代理店の懐を温めてやるつもりなんて、これっぽちも持ってはいない。

 災害にあった時に協力し合う「お互い様」の精神なら得心も行くが、物販が伴う商業イベントに「お互い様」は無い。

 それらをプロデュースする連中がカネを吸い取る、商売の道具にタダで動員されてたまるものか。

 善意を搾取するビジネスモデルに乗っかってやるほど、馬鹿らしい話は無い。


 働いていた頃にもボランティアで入ってくれと頼まれたことはある。

 だが、自分はその要求をことごとく突っぱねた。

 ほかの案件のスケジュールがきつすぎて参加できない、と言って。

 会社勤めのサラリーマンなら、ボランティアと言っても「これは休日出勤か残業だ」と割り切って行えるだろう。

 ところが傭兵稼業の自営業では、そうはいかない。

 一度でもやったら、ずるずると引きずり込まれて、なぁなぁで毎回頼まれるのがオチだ。

 そもそも、それに参加したからといってふってくれる仕事の量が増えたなんて話は聞いたことが無い。

 だから、一度も受けなかった。


 電車を降りようと席をたったら、待ってましたとばかりにラスベガスおばさんがそこに滑り込んできた。

 自分は思った。

 こいつ、カジノで有り金全部スって、お土産も買えないまま日本に帰ってこねぇかな、と。

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