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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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吐血

 ここ三週間で三度吐き、そのたびに血が混じっていた。

 最初のうちは「まあそんなこともあるよね」で済ませていたが、さすがに三度目ともなると、笑ってはいられない。

 結論から先に言っておこう。

 なんてことはなかった、むしろ吐いた理由がわからない方が問題だと指摘された。


 就労移行支援施設での訓練中、突然具合が悪くなり、吐いた。

 血の色は鮮血、きれいな赤。

 なので、今までの経験上、そこまで大事ではないことはわかっていた。

 だが、スタッフからすれば大問題、すぐさま主治医のところに行き、検査を受けろ、と、その日は施設を追い出された。

 確かに具合も悪いことだし、言うとおりにする。

 話を聞いた主治医は、すぐさまエコーを取り、簡易な検査をしてくれ、そのまま

「大病院を紹介するから、今すぐそっちに行きなさい」

 と紹介状をしたためてくれる。

 たらい回しというより、専門検査ができない以上、仕方ない措置といえよう。

 

 一度アパートに帰り、用意をしてから、専門医療センターへと自転車で向かう。

 日はまだ高い。

 医療センターには、主治医がすでに電話連絡してくれており、一通りの検査が待っていた。

 採血され、エコーを取り、点滴を受ける。

 相変わらず肝臓の数値は悪いが、問題となるようなものは見受けられない。

 翌日は、朝から胃カメラを通すことになった。

 時間的な制約も存在するが、説明によると、食道からの出血の場合だと、吐血直後に胃カメラを通すと却って傷を拡げ、よろしくないことになる場合もあるという。

 この日は、翌日の検査のために絶食を言い渡された。

 昼飯を食べる前に施設を早退し、腹に入れたのは朝に食べたコメだけ一合のみ。

 辛くない訳はないが、治療というのはそういうものだと思っている。


 明けて翌日。

 朝八時半に医療センターに自転車で赴いた。

 昨日に引き続き、もう一度採血検査を行う。

 継続的に臓器出血があっていたら、貧血のデータが出るそうでこれは行われた。

 専門医療センター特有の大幅な待ち時間を覚悟していたが、予約検診扱いということもありスムーズなモノ。

 胃の中を洗浄するという薬液まずいを飲まされ、続いて喉の奥を噴霧麻酔される。

 五分ほどおいて、今度は点滴麻酔薬液の針を打たれ、再び噴霧麻酔。

 胃カメラは初めてということも有り、医療センターの医師は「きついですよ」と脅してきていたが、ここまでは大したことではなかった。

 

 ただ、胃にカメラの管を入れるとなると、やはり、少々、耐えられないことはないが、辛い。

 動かされるたびに襲ってくる吐き気と、送り込まれてくる空気。

 視界に入るカメラ映像、着色される青い臓器。

 新手の拷問かと思ったが、これよりつらい目、それこそ一週間食べるものが無かったあの日に較べればまだ耐えられる。

 胃カメラの気持ち悪さすら、長い空腹はその辛さに於いて勝る。

 何より生活保護、これほど手厚い医療を受けても、無償なのだ。

 文句を言うなど、とんでもない話だ。

 

 胃カメラを抜かれ、点滴麻酔の管を外され、ようやく自由を取り戻す。

 麻酔薬液のせいか、思うように飲み込むことができない。

 ただ生憎と、こういった状況には慣れている。

 伊達に心と体を壊して生活保護になったわけではない。

 これよりも苦しい場面、何度も向き合ってきた。

 看護師から説明されたように、よだれが垂れ流しになるわけでもなく、検査後に寝かされるベッドスペースで横になる。

 紅茶が欲しいと頼んだが、聞き入れてはもらえない。

 一時間ほど、横になる。


 休んで、しばし。

 担当医に結果説明を受ける段になった。

 前述のとおり、吐いた理由がわからない方が問題だ、と、何度も言われた。

 だが、胃はきれいなもので、腫瘍・潰瘍・ポリープのようなものは見られずきれいなモノ。

 エコーで取られた肝臓も、少々の脂肪肝は散見されるものの、健康そのもの。

 血液検査も、γ-GTP値が高いが問題なし、貧血の症状も見受けられない。

 年齢相応の健康体。

 吐血の理由は、食道に傷が出来ていたらしく、吐いた際に裂傷を起こしたのが原因だろうということに落ち着いた。

 吐いた原因はわからないが、問題は見受けられない。

 以上。

 

 生活保護になってからというもの、ここまで詳細な検査を受けたことはなかった。

 はっきり言おう、この医療体制は心強い。


 ストレス性のものでもなさそうだし、原因不明なのは怖いが、気にしても仕方がない。

 ただ、野菜をたくさん食べろと言われた。

 エコー検査をしてみたところ、消化器系内部にたまっていておかしくないはずのガス(おなら)が極端に少ないそうだ。

 平易な言い方をすれば、エコーを見る限り、腹の中はうんこで満たされている状態だという。

 極端な便秘なのではないか、という指摘を受けた感じだ。

 これは思い当たらない、毎日お通じはある、確かに屁を垂れ流すのは少ないと思う、と言えば、じゃあ個人差の範囲ですね、と、話を切られてしまった。

 

 かくして、吐血騒動の顛末は以上となる。

 大山鳴動して鼠一匹、の様相で終わってしまうほど、自分は元気だ。

 ただ、意識して野菜を取ろうと思う。

 B級野菜を売っている八百屋で、五個百円のトマトと、八本百五十円のきゅうりを買ってきた。

 季節外れだが、一玉八十円だったので、ザワークラウトを漬けた。

 

 翌朝になれば、今まで通り、就労移行支援施設に通所することができる。

 それくらい、自分は元気だ。

 きっとこれも、ただの夏バテだ。

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