飲む酒ともどかしさ
就労移行支援施設では、個人情報の保護が最優先される。
そのため、誰がいつ就職し、居なくなるかといった話は公表されない。
いつの間にかいなくなっているのだ。
だが、仲良くなり、話をするようになり、自発的に「就職が決まった」と言うことは禁止されていない。
この制度、抜け穴がある。
自己判断による告白は、自己責任ということになっている。
そのため、噂話はすぐにまわってくるようになっている。
そんな中、仲良くなった若者の就職が決まったので、総勢四人。
祝い酒ということで、公園で呑んだ。
飲み屋で呑めるほど、皆、贅沢は出来ない。
気温は三十二度を軽く越えている。
この歳になると、堪える。
焼酎を買い、つまみを買い、日の高いうちから、呑む。
二十代の彼には、馴染みの無いやり方の飲み会。
今どきの若者は、こんなことをした経験が無かったのだろう。
初体験の呑み方であり、春であれば花見のそれとなっただろうが、今は違う。
だが、自分にとっては大学時代に戻ったかのような感傷を覚えるそれになった。
たった二か月だが、若い感性というものは心地よかった。
彼は、よく歌い、芝生の上をよく転がった。
もうすぐ居なくなるのだな、と思うと、寂しい。
話題が合う相手がこれほど貴重だとは、思ってもいなかった。
それぞれ呑みたい酒を買ってはいたが、それが無くなると、焼酎に手が伸びる。
若い者はいいな、と、思う。
この歳になると、変な遠慮が出る。
彼らには、それが無い。
割る水もないので、生で呑むしかない。
何より趣味が合う、楽しい酒だ。
就職する職場を聞かされてはいるが、これはここで言うべきではない。
個人情報の壁は、今となっては分厚いものになっている。
彼の人生だ、なんら干渉することは出来ない。
自分たちは、障碍者だ。
そして、就労移行支援施設は、守秘義務の塊だ。
相手が障碍者である以上、情報の漏洩があるのはわかる。
利用規約を読んで、その内容と意味を理解できるものが読めば、これほど厳しい取り決めは無い。
自分には、その意味がわかる。
わかるかわからないか、その判断がつくかどうかも、カリキュラムの一環と言っても差し支えは無い。
伝えたいが、伝えられないことが多すぎて、困る。
守秘義務の壁は、越えられない。
越えなければ、認知されない話もある。
若者の行く末も語りたければ、どのような気持ちで就労移行支援施設に通っているのか。
もどかしい。
なんとも、もどかしい。




