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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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喫煙所

 就労移行支援施設に入ってからというもの、付き合い、というのが大変増えた。

 自分はタバコを吸わないが、交流の場としての喫煙所の有用さを感じている。

 一人ですべてを捌いていた個人事業主の傭兵稼業。

 人間嫌いは相変わらずだが、それでも情報は欲しい。

 誰が就職しそうだ、とか、誰が迷惑な利用者だ、とか、自己防衛のために必要な情報が出回る場所だ、我慢して付き合う。


 就労移行支援施設に通所している人間は、総じて無職だ。

 障害年金でやりくりしている者もいれば、自分の様に生活保護の者もいる。

 あまり威張れた話ではないが、保護にしろ年金にしろ、一応の「収入」はある。

 二十代の利用者は、奔放だ。

 すぐに自販機に向かい、飲み物を買う。

 自分には、それが出来ない。

 三十代の利用者は、自由だ。

 施設が終わってから喫煙所で話し込み、それで足りないようならば、ハンバーガーチェーンに場所をかえないかと提案する。

 カネがかかることを、あまり自覚していない。


 自分の金銭管理が厳しすぎるのではないか、と、疑いたくなるほどに、彼らはよく「買い物」をする。

 同調圧力に屈して、自分も買い物をしそうにならないでもないが、律しておかなければ痛い目を見る。

 人生経験の差なのかもしれないが、なかなかに難しい話だ。

 自分は若者ではない。

 奢るような真似ができるほど、裕福ではない。

 見栄を張るだけ詮無い事であるのもわかっている。

 だからこそ、つらいのだ。


 自営でやっていけていた時代は、そういう態度を見せることが信用につながる節もあった。

 必要経費というやつだ。

 だが、今は違う。

 自分は貧しい、いや、貧しい以前に税金で生かされている寄生虫だ。

 付き合いに捻出するカネを用意するには、どこかにしわ寄せがいく。

 具体的には、食費と歯磨き粉などの消耗品だ。

 タオルはぼろぼろだ、使っている数枚には穴が開き、引き裂けかけている。

 しかし、体を拭くという用は成している。

 たかがタオル、百円ショップに行けば簡単に手に入る。

 だが、それをやらない。


 こうして考えてみると、自分はもはや「買い物」が怖いのかもしれない。

 必要なものだけを、それこそ付喪神が宿る覚悟を以てしてまで使い倒す姿勢が染みついている。

 ところが、若い彼らは頓着していない。

 価値観の差なのだろうが、自分にとっては恐ろしい話だ。


 だが、人間関係にひびを入れるのはもっと恐ろしい。

 たった二年しか使えない施設だが、人間関係は存外に濃密だ。

 目に見える形での疎外やいじめは起こっていないようなのだが、陰でひそひそは横行している。

 女々しくて嫌な構図なのだが、それがこの組織の成り立ちなのだから仕方がない。

 下手に流れに竿を刺せば、自分が餌になってしまう。

 自分だって人間だ、こいつは嫌いだって奴くらい、いる。

 自分から言っては危ない、他人に言わせて安全圏から支援する。


 組織を知るという意義に於いて、喫煙所は良い勉強の場になっている。

 ああ、嫌な大人だな、と思わないでもないが。

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