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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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バルバロッサ

 この街並みに触れるのは、十年ぶりだろうか。

 若かりし日、自分はこの街にいた。

 今になって、自分はまたこの街にいる。

 それは、五年ぶりに外国から帰ってきた友人、それと、当時つるんでいた友人たちとの宴のためだ。

 

 約束した時間より二時間はやく、自分はその地域に到着した。

 なんという皮肉か、ここは丁半博打と言わんばかりに起業した地域だったからだ。

 郷愁とでもいえばいいのだろうか、懐かしさが先に出て、施設のカリキュラムが終わると同時にすっ飛んできてしまった。


 十年ぶりの街並みは、大幅に変わっていた。

 駅を中心とした再開発が行われているらしく、自分が見知った駅の姿は、柵の向こう側で、地肌をむき出しにして横たわっていた。

 既に削り終えたそこには、飢えをしのぐために、夜中に忍び込んでもいだザクロの姿もなかった。

 ピザトーストがおいしかった喫茶店も、巻き込まれるようにして無くなっていた。

 駅から五百メートル。

 かつて、事務所が入っていたマンションに向けて歩く。

 道すがら、どうしても通らざるを得ない景色は大きく変わっていた。

 会社で借りていた駐車場と畑は無くなり、有料老人ホームに化けていた。

 その畑の象徴であった大きな琵琶の木は無くなり、無機質に思えるコンクリートの箱に変貌していた。

 さらに足を延ばす。

 よく通ったたこ焼き屋は無くなり、高級果物店となっていた。

 ラーメン屋は中華料理店となり、商店街には介護福祉施設と、障碍者の作業所が立ち並んでいた。

 当時流行っていたメロンパン屋は消え、コンビニに変貌していた。

 全体的に飲み屋が増え、場末の体をなしている。

 ああ、自分も歳を取るわけだ、とうなることくらいしかできない。


 道は、変わらない。

 道に沿って居並ぶ商店の質が変わっただけで、往来する人々の生活に影響はないのだろう。

 一抹の寂寥。

 それと、あの頃の若さに任せた行動が出来なくなった我が身の衰えを痛感せずにはいられない。

 自分の中ではあるべきはずであるところに、あるべき店が無いのだ。


 それよりなにより、今の自分には職が無い。

 

 ひとまわりが終わるころ、丁度集合の時間が近くなったので、予約されていた焼肉店に向かう。

 ここもまた、思い出の場所だった。

 なぜなら、大きな案件が終わった際の打ち上げの会場として、幾度となく通った場所なのだから。

 

 大学時代の友人たちは、かつて、時間にたいして大変ルーズだった。

 とはいえ、社会人になった今となっては、時間厳守が身に染みているようで、懐かしい顔が続々と揃ってくる。

 だが、一人だけ遅れた。

 外国から帰ってきた友人だ。

 電話で連絡を取ってみても、友人は五年ぶりの日本に難儀している様子を伝えてくるばかり。

 それでもしばらく待てば、彼はやってきた。

 彼だけは、昔と変わらなかった。

 いや、五年前と一つだけ大きく変わった点といえば、あごひげだ。

 十センチはありそうな長さのあごひげを、真紅に染め上げている。

 まさしく、バルバロッサ(赤ひげ)だ。 

 人に道を聞こうとすると、避けられたという。

 それはそうだ、日本人のファッションセンスでは無いし、外国に行っても空手を続けているため、がたいが良いのだ。

 率先して関わり合いになりたがる風貌ではない。

 実際店内に入っても、店員が彼と目を合わせようとはしなかった。

 

 久しぶりに、飲んだ。

 五千円という大きな出費だ。

 だが、この時間を買えるのなら安い買い物だと思った。

 昔話は盛り上がる。

 集まりに参加できなかった友人たちの近況を知ることもできる。

 次はまた、五年後になるだろう。

 その頃の自分がどうなっているのか、見当もつかない。

 今置かれた生活保護受給者の立場から脱却できていることを、切に願う。

 友人たちと飲みながら、気後れするような背景を抱え込んでいないことを、切に願う。

 自分で稼いだ金で、次の集まりには顔を出したいと、切に願う。

 切に、切に、切に、切に願う。

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