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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
82/127

カップル

 服用している薬を貰うついでもあって、今までの施設に通所した。

 だいたい二週間ぶりの事だ。

 だが、内部は大騒ぎが起こりまくって、ピリピリとしていた。


 なんでも行政指導が入ったという事で、デイケアが始まる前に医師の診断が行われるようになっていた。

 給食配膳時に、エプロンと使い捨て手袋とマスクを付けるよう規制が引き上げられていた。

 これは仕方がないだろう。

 毎日通所しているときから、ああ、ここはユルすぎるなぁ、と、常から思っていたのだから。


 それよりなにより。

 施設併設型病院の、入院病棟へ送られたのが二名も出ていたことに、愕然とした。

 

 基本的に、施設内での恋愛は禁止されている。

 それを破り、付き合っていたカップルがいたのだという。

 規則に従い、通所日をずらすように指示されたカップルが暴走し、乱暴を働いたのだという。

 壁を殴り、椅子を蹴倒し、殴りかかろうとし、と、酷い暴れようだったそうで、即日入院措置となったのだという。

 施設での恋は、悲恋にしかならないとわかっているのに、その壁を暴力でどうにかしようとした。

 これが社会的に正当性をもって受け入れられるのは、一昔前の低予算昼ドラマくらいのもの。

 現実は非情だ、特に精神を病んだ人達を受け入れる施設内であればなおのこと、厳しい措置が取られるのも当たり前のこと。

 彼氏彼女の事情は、雑談伝聞と言う名の周知の事実として耳に入ってきた。

 今にして振り返れば、機縁相談だったのかもしれない、と言う会話が頭をよぎる。

 結果、カップルの片方が入院させられることとなった。

 それを聞いた自分は。


 オタク談義は、世事から自分を疎くさせるものだな。


 と思い至ってしまい、少しへこんだ。

 思えば自分は、同好の志との語らいばかりで、そのような空気が以前からあったことを一切知らなかった。

 同好の志とばかり話していた自分を思い出して嫌になった。

 また、そのとばっちりを受けて、以前恋愛関係にあった二人が、出席日をずらすよう指示を受けたそうだ。

 こちらは数年も前の話を掘り返されたらしく、青天の霹靂の様相を呈していたという。

 

 もう一人は、純粋な精神状態の悪化だ。

 独り言が多くなり、乱暴な振る舞いが増え、他者への害意の意図を臆面もなく出すようになったというのが原因だそうだ。

 確かにあの御仁は、普段から気持ちのブレ幅が大きいところがあった。

 やはりこちらも暴れる等の大立ち回りがあったらしく、即日入院。

 少なくともこの事例は、今まで語らなかっただけで、施設の内部ではよくある話だ。

 酷い人になると、家族が気疲れしてしまいどうにもならなくなったから、と、まるでペットホテルに預けるように入院措置を取られた人もある。

 自分も、この地雷は抱えているので笑い事では済まされない。

 就労移行支援施設でこの地雷が起爆すれば、明日は我が身なのだ。


 とはいえ、今日の施設内活動は平穏そのもの。

 なにしろ出席者が少なかったのと、当事者が誰一人顔を出していなかったのだから当然の話だ。

 今日の活動はカラオケだったのだが、歌いたがりが非常に少なく、自分と同好の志、そしてしいたけの彼のオンステージだった。

 自分が幼女戦記を歌えば、同好の志はけものフレンズを歌い、しいたけの彼が、誰も知らない歌を放つ。

 天に届く屍の山を作れ、と、物騒な歌詞の歌を披露したというのに、スタッフ側がそれどころではないのであろう、お咎め無しだった。

 続けて、艦これ、ゼロの使い魔、灼眼のシャナ、とらドラ、遠山の金さん、チャゲアス、と、独りで七曲も歌ってしまうくらい気安い空気だった。

 同好の志も、先述の通りけものフレンズにはじまり、ご注文はうさぎですか、物語シリーズとボカロ曲、といろんな意味で充実のラインナップ。 

 しいたけの彼は、今まで自分がよく歌っていたメタルに興味を持ったらしく、様々な洋楽に挑戦しては失敗していた。


 聞き知った、事件のさまざまに関しては、自分も思うところがある。

 ありはするが、口をはさむべき問題では無い。

 その当日に居なかった時点で、自分は関係者ではない、ただの傍観者なのだ。

 カップルに間違ったメッセージを与えてしまった事などは、慙愧に堪えない。

 いつでもどんな状態でも恋愛は自由だという二人に、それが無条件で受け入れられる世界ばかりではない、という事を伝えるべきだった。

 他人に迷惑をかけない実力と成果をあげられるなら、その言い分は通るかもしれないが、現実は甘くない、とは言った。

 二人は若い、だから、リスクを考えなかったのだろう。

 惜しい話だ。

 であれば、カラオケで日々の憂さを晴らすほうが利口というモノ。

 まずは自分。

 自分を大切にしなければならない、というのは、この施設で学んだことだ。

 友軍必護の精神に燃える玉砕馬鹿だった自分とは、違っていなければならない。


 だから、歌った。

 表現ではなく、本当に、喉がかれるまで歌った。

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