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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
77/127

閑話休題

 施設とも、生活保護とも関係のない状況に遭遇した。

 警察に通報レベルの話だ。

 ことは、わらい話として聞いてほしい。


 就労移行支援施設が午前中で終わり、帰る道すがらでの出来事だ。

 人通りの少ない住宅街。

 中途半端にアパートと戸建が混在した地域。

 いつものように、肩を落としずるずると歩いていた。

 車庫に、BMWを停めている家の前を、普通に通過……、出来なかった。


 その男は、常軌を逸していた。


 BMWのボンネットに乗っていた。

 しゃがみこんで。

 そして、平然と、悠々と、糞を垂れていた。

 ボンネットに。


 格好は、どこにでもいそうなサラリーマン。

 だが、尻を丸出しにして、糞をひり出している。

 視覚情報に、心も体もついてこなかった。

 そして、目があった。

 走った。

 走って、その現場から逃げた。

 たまたま見かけたアパートの二階へ通じる階段を駆け上り、身を潜めた。

 そして、通報した。

「事件ですか、事故ですか」

 警察の声が返ってくる。

「事件というかですね、車のボンネットに乗っかってそこで糞垂れてるサラリーマンが居たんです」

「は?」

「車の上で野グソしてるサラリーマンが居たんです!」

「……わかりました、今の場所から近いですか、住所わかりますか?」

「住所はわかりません、でも、近くなのは間違いないです」

「はい、それでは付近の警官を向かわせますので……」

 やり取りはこんな感じ。

 それから十五分くらいしてパトカーがやってきたので声をかけ、現場へ向かった。


 当然だが、犯人は姿をくらませていた。

 しかし、その車のボンネット上には、犯人がひり出した糞と、拭いた後の紙が散乱していた。

 犯行現場を押さえた、といえばいいのだろうか。

 担当した警官は二人いたが、そのうち一人は、どこから手を付けていいかわからない、困った顔をしていた。

 もう一人は無線で状況を報告しており、どうやら車の持ち主の照会を行っているようだった。

 それが終わるまでの間、聴取を受けた。

 どんな風体で、どんなスーツを着ていて、どの位の背丈だったか、等々。

 まさしく「うんこ座り」をしていた男の実身長など、把握しようがないので、髪型や目つき、スーツと靴の色、しか答えられなかった。

 当たり前だ、目があった瞬間、走って逃げたのだから、こちらは。


 すぐに持ち主と連絡がつき、被害者と顔を合わせたのだが、事が事だけに微妙な表情だ。

 一応のお礼? と思しき言葉を頂いたが、何とも歯切れが悪い。

 これ以上は踏み込んではならない、関わってはいけない。

 本能がそう告げていたので、当事者が揃った段階で抜けさせてもらった。

 どんな結果になるのか、知りたくないと言えば嘘になる。

 だが、これ以上関わり合いにならないほうが身のためだ、と、本能が告げているので、それに従った。

 

 ショックだった、いい年をした男が野グソしている現場に鉢合わせただけでも、充分に。

 そこまで警官を先導しただけで、自分の役目は十分果たしただろう。

 そもそもどうしてサラリーマンが狂行に走ったのか、そこは知りたいが、警察は教えてくれそうもない。

 

 自分は無力だ。

 いろんな意味で。

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