身ぐるみはがされる思い
教材に、地雷が仕掛けてあった。
就労移行支援施設での今日のトレーニングは午前中のみ。
郵便物の仕分け作業シミュレーションだった。
与えられた時間の中で、届いた郵便物を市区町村ごとに仕分けする作業を行うのが、訓練の内容。
それはいい。
ただ、その教材に、大きな問題があった。
住所も宛先も出鱈目に作られた、はがき実寸のカードをより分ける作業のトレーニングだったのだが、これが酷い。
宛名氏名が、声優さんの名前だらけだったのだ。
指摘しないと、誰も気づかないだろう。
仮に気づいても、指摘するには勇気が要る。
杉田智和、ゆかな、田村ゆかり、釘宮理恵、井上喜久子……。
わかる人にはわかる氏名が、訓練用カードには記載されていた。
ノーミスかつ時間短縮を求められる訓練で、笑うことは許されない。
ツッコミを入れたくても、それをわかってくれるであろう人は、自分の周りにはまだいない。
共有したくてもできない環境が、いかに酷なものであるか。
多くの利用者は、わからないだろう。
それはそれとして、作業には集中しなければならない。
指示された通りに仕分けをしていくが、どうしてもにやりとしてしまう。
苦行だ。
「なんでこんなに声優ネタしこんどるんよ、この教材」
と、言いたくて仕方ないが、言える空気ではない。
これは苦行だ。
自分の脳内では、艦これ、銀魂、ひだまりスケッチ、ガルパン、ニャル子さんで一杯になりそうなキャスティングなのだ。
ガス抜きをしたくても、その弁は閉じられている。
手先を動かす作業自体は、逆にスムーズに動いていく。
しかし、平常心をいかにして保つかの訓練としては、あまりにも不意打ちだ。
こういうところで楽しさを補完しなくていいから、と思った。
退屈な作業に、わかる人にはわかるネタを仕込んでいる。
この教材の製作者的には、お遊びなのだろう。
それを、集中力を求められる現場に持ち込まれては、たまったものではない。
何とかやり過ごし、昼食を頂いてすぐ、自分は施設を後にし、施設職員とともに市役所へ向かう。
障碍者就労移行支援施設の利用申請を行うためだ。
正直に言おう。
これは、障碍者が社会復帰をするための気概をどれだけ持っているのか、それを振るい落とすための体のいい選別機会なのではないかと。
それくらい、面倒くさいのだ。
前回話した会社と、市役所と、似たような質問を並べ立てられた。
それも、かなりの量だ。
会社の職員が自宅にやってきた時と違い、終了移行支援施設のスタッフが付いていてくれるとはいえ、なんとも心細いし、あまり良い気分ではない。
話によると、この二つの面談書を照らし合わせなければ、施設利用の承諾が得られない。
柄にもなく、模範生を演じなければならないのだ。
社会人になった、約二十年前からの来歴を、期日は不確かであるものの、説明せねばならない。
過去をえぐられていく気分になる。
国の支援事業を受けるには、権利の代償に尊厳を失うのだな、と思わずにはいられない。
それほどまで、根掘り葉掘り聞かれるのだ。
生活保護を受けるにあたって、国に丸裸にされて以来。
自分は何度、プライベートを他人に明かさなければならないのだろうか。
何度、プライバシーを赤裸々に語って見せなければならないのだろうか。
それほど、不正受給者やよからぬ企てを起こす輩が多いのだろう。
だろうが、そのしわ寄せは、自分のような正直者が喰らっている。
ここに光をあて、まともに伝えてくれる人は、少ない。




