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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
74/127

身ぐるみはがされる思い

 教材に、地雷が仕掛けてあった。

 就労移行支援施設での今日のトレーニングは午前中のみ。

 郵便物の仕分け作業シミュレーションだった。


 与えられた時間の中で、届いた郵便物を市区町村ごとに仕分けする作業を行うのが、訓練の内容。

 それはいい。

 ただ、その教材に、大きな問題があった。

 住所も宛先も出鱈目に作られた、はがき実寸のカードをより分ける作業のトレーニングだったのだが、これが酷い。

 宛名氏名が、声優さんの名前だらけだったのだ。

 指摘しないと、誰も気づかないだろう。

 仮に気づいても、指摘するには勇気が要る。

 杉田智和、ゆかな、田村ゆかり、釘宮理恵、井上喜久子……。

 わかる人にはわかる氏名が、訓練用カードには記載されていた。

 ノーミスかつ時間短縮を求められる訓練で、笑うことは許されない。

 ツッコミを入れたくても、それをわかってくれるであろう人は、自分の周りにはまだいない。

 共有したくてもできない環境が、いかに酷なものであるか。

 多くの利用者は、わからないだろう。

 

 それはそれとして、作業には集中しなければならない。

 指示された通りに仕分けをしていくが、どうしてもにやりとしてしまう。

 苦行だ。

「なんでこんなに声優ネタしこんどるんよ、この教材」

 と、言いたくて仕方ないが、言える空気ではない。

 これは苦行だ。

 自分の脳内では、艦これ、銀魂、ひだまりスケッチ、ガルパン、ニャル子さんで一杯になりそうなキャスティングなのだ。

 ガス抜きをしたくても、その弁は閉じられている。

 手先を動かす作業自体は、逆にスムーズに動いていく。

 しかし、平常心をいかにして保つかの訓練としては、あまりにも不意打ちだ。

 こういうところで楽しさを補完しなくていいから、と思った。

 退屈な作業に、わかる人にはわかるネタを仕込んでいる。

 この教材の製作者的には、お遊びなのだろう。

 それを、集中力を求められる現場に持ち込まれては、たまったものではない。


 何とかやり過ごし、昼食を頂いてすぐ、自分は施設を後にし、施設職員とともに市役所へ向かう。

 障碍者就労移行支援施設の利用申請を行うためだ。

 正直に言おう。

 これは、障碍者が社会復帰をするための気概をどれだけ持っているのか、それを振るい落とすための体のいい選別機会なのではないかと。

 それくらい、面倒くさいのだ。

 前回話した会社と、市役所と、似たような質問を並べ立てられた。

 それも、かなりの量だ。

 会社の職員が自宅にやってきた時と違い、終了移行支援施設のスタッフが付いていてくれるとはいえ、なんとも心細いし、あまり良い気分ではない。

 話によると、この二つの面談書を照らし合わせなければ、施設利用の承諾が得られない。

 柄にもなく、模範生を演じなければならないのだ。

 社会人になった、約二十年前からの来歴を、期日は不確かであるものの、説明せねばならない。

 過去をえぐられていく気分になる。

 国の支援事業を受けるには、権利の代償に尊厳を失うのだな、と思わずにはいられない。

 それほどまで、根掘り葉掘り聞かれるのだ。


 生活保護を受けるにあたって、国に丸裸にされて以来。

 自分は何度、プライベートを他人に明かさなければならないのだろうか。

 何度、プライバシーを赤裸々に語って見せなければならないのだろうか。

 それほど、不正受給者やよからぬ企てを起こす輩が多いのだろう。

 だろうが、そのしわ寄せは、自分のような正直者が喰らっている。


 ここに光をあて、まともに伝えてくれる人は、少ない。

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