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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
72/127

根性なし

 就労移行支援施設の正式利用は、行政の認可があって初めてスタートとなる。

 その間、空白期間が発生する。

 だが、この施設はその間も「体験」という形で受け入れてくれることとなった。

 そのため今週は、今日を含め二回、通所することにした。

 ちなみに来週は、いつもの施設のメンバーに挨拶をするため利用はせず、本格的に「体験」を有効活用するのはゴールデンウィーク明けからにする、という事で話がついた。

 障碍者手帳や生活保護が絡むと、どうしても行政による審査が入ってくるため、もどかしい思いをする。

 するが、これほど手厚い対処をしてもらえている事実を考えれば、これ以上を求めるのは傲慢という物だろう。


 この施設の特徴は、体験してみてわかったが、事務作業に関する教育に重きを置いている。

 特にパソコン教育は熱心で、そちらの教材が豊富だ。

 見学した中には、アパレル系を目指したい人向けに衣服の畳み方を覚えるスペースが用意されていたり、また、清掃の訓練セットが置いてあるところもあった。

 自分の場合、無料で弁当にありつける一点で選んだため、何とも情けない話だ。

 貧すれば、選択の幅を狭めてしまう。

 カネを持っている奴は、どんな境遇だろうが強い。

 改めて、まざまざと、思い知らされる。


 思い知らされたと言えば、自分の老いだ。

 パソコン訓練を受けていて、集中力が減衰しているのがはっきりと分かった。

 貸与品はノートパソコンなので、長年キーボード派の自分が馴染まないという点もあるが、とにかくミスタイプが多い。

 それに、常に集中を要求されるのが、辛く感じてしまう。

 自営の頃は、一時間当たり考える時間が七に、入力が三くらいの割合だったのが、この施設では入力が九にチェックが一なのだ。

 スタイルが全然違うため、こうやって自宅でパソコンをいじるのと比較したら格段に疲労感が高い。

 通らなければならない慣れの壁、習熟度の問題なのだろうが、苦痛で仕方がないのだ。

 若い頃ならどんな環境でも割と簡単に適応できていたのだが、そうはいかなくなっている。

 椅子がいい例で、腰が痛くて仕方がない。


 朝起きて、まだ四回目でしかないのに「行きたくないな」と思ってしまう。

 考えることとクライアントとの折衝が仕事だった節があるため、こういった、ひたすら指を動かすだけの訓練は退屈で仕方がないのだ。

 今日はやらなかったが、ゼムクリップを色ごとに分ける訓練などは、退屈を通り越して苦痛だった。

 就職したら、こんな感じの事を毎日繰り返すのか、と思うと、気が滅入ってくる。

 思えば自営の頃は、仕事をしていても変化があった。

 打ち合わせをする相手の環境も違えば、提供される資料もバリエーションが豊富で、読んでいて飽きなかった。

 繰り返しのようで、そうではない仕事だったことを再認識する。

 

 自営か、就職か。

 どちらがマシかは、正直見当もつかない。

 休憩時間の何気ない会話で、サラリーマン経験者の利用者からは自営がうらやましいと言われるが、こちらとしては、会社勤めのほうがうらやましいと思える点を列挙できる。

 苦痛じゃなければ仕事じゃない、という言葉をどこかで聞いたが、言い得て妙である。

 訓練だからなおの事やるべきことや休息の取り方が先鋭化してあらわれているのだろうが、やっていて「自分はとんでもない社会不適格者なんじゃないだろうか」と考えてしまう。

 たった四日でこれだ。

 二年間というタイムリミットは、さながら永遠に続く悪夢なんじゃないだろうか、と、尻込みしている自分が居る。


 やらなければならないのは、わかっている。

 わかっているから、我慢する。

 やらなければならないから、我慢するしかない。

 自己の成長といった方面に目をやれるようになるためには、まずは今の環境になれることから始めるのが適当だろう。

 課題がどこに置いてあるか、備品がどこに置かれているか、それらをどう使うか、訓練ソフトの起動方法とその習熟。

 覚えることが多すぎる。

 環境が変わることからくる疲労も、乗っている。

 特に、いつもの施設というぬるま湯に浸かっていた身の上、老いもそうだが、体力の低下も著しい。


 とはいえ、やらなければならない。

 やらなければ、後が無いのだから。

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