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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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激動の三日間

 体験入所が終わった。

 存外、疲労がたまっているのを感じ始めた頃合いだった。

 就労移行支援施設では、必要以上の集中力を求められる。

 パソコンでの作業には疲労感を感じないのだが、ゼムクリップを仕分けする作業訓練は、慣れない事もあり大変な疲労を伴った。

 全力を出し過ぎたきらいがあるのは、認める。

 今になって思い出したが、今後は次第にこちらが「いつもの施設」になっていくのだ。

 急ぎ過ぎていやしないだろうか、と、振り返る。

 正直に言おう、まさに、急ぎ過ぎている。


 来週から、とりあえず月曜と金曜は通う事になった。

 とはいえ、就労移行支援施設に入るには市役所の認可が必要となる。

 その手続きが終わるまでは、体験、という形で通所する事になるのだ。

 それだけではない。

 何故か、聞いたことも無い中小企業の担当者が、自宅訪問をするというのだ。

 それも、来週の火曜日という唐突に過ぎるタイミングで。

 訳が分からない。

 なんとか、という役目があるらしいのだが、口頭説明だったため忘れた。

 何のための訪問なのか、それに関しては説明すら受けていない。

 とにかく、その訪問を受けて手続きを踏まなければ、入所できないというのだけは、わかった。

 

 はっきり言って、自分は周囲の行動にただ流されるまま、立っているだけだ。

 法的な手続きの一環なのだろう、というのはわかるのだが、詳しい説明が一切ない。

 あったとしても文書ではなく口答のため、覚えていられないのだ。

 この感覚、この居心地の悪さはなんなんだろうか。

 当事者はただ、目の前に出される課題をこなしていけばいい、というだけではないだろうに。

 なにより、いきなり自宅訪問などという単語が出てこようとは思ってもいなかった。

 自営をたたんで以降、やる気をなくした自分は、部屋の掃除がおっくうで仕方がない。

 そのため、とてもではないが人を呼べるような環境では暮らしていないのだ。

 掃除をしなければならなくなってしまったが、金曜、土曜と、いつもの施設に通わなければならない。

 余裕があるのは、次の日曜だけだ。

 不可能だ、綺麗にするのは。


 そもそも、就職活動で企業担当者が自宅訪問をする会社なんて聞いたことが無い。

 これはとんでもない事になってきたぞ、と、そう思うくらいの事しかできないのだ。

 それにこの就労移行支援施設は、株式会社、つまり、営利団体による運営である。

 医療機関や行政機関、NPO法人によるものではない。

 そう、なにかとんでもないことに巻き込まれたイメージが付きまとうのだ。

 はっきり言って、混乱している。

 その答えは、月曜か火曜にはもたらされるのだろうが、正直言って不安材料でしかない。

 自分を取り扱う管轄が、いつもの施設の、気心の知れたソーシャルワーカーさんから離れてしまっている。

 この孤独感、不安感とどう向き合えばいいのだろうか。

 

 確かに就職、ひいては生活保護からの脱却という道を着実に歩んではいる。

 だが、こんなに強烈なスピード感のあるものだとは、思ってもみなかった。

 実績として二年でモノにしなければならない訳だから、営利企業としては当然の動きであることはわかる。

 わかるのだが、心も体も、それについていけていない。

 思えばここ約十年は、完全に自分のペースでしか仕事をしたことが無い。

 これが組織という物か。

 目まぐるしく動きすぎる周囲の環境と、大勢の関係者、訳の分からない事態の発生。

 形が違うだけで、働いていた頃と何も変わらない日常に、帰っていくための通過儀礼なのだろう。


 家に帰る途中の道で、いつもの施設から電話がかかってきた。

 この三日間について、ねぎらいの言葉をわざわざかけるためだけの、電話だ。

 ああ、あたたかいな。

 居心地がいいわけだな。

 そう、思った。

 ここから離れたくないな、とも、思った。

 しかし、それではいけないのだ。

 いけないのだが、流石に疲れた。

 今は、いつもの施設のゆるい空気が、ひたすら恋しい。

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