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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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休憩との間合い

 久しぶりに、二日連続で風呂に入っている。

 いつもの施設とは違う行動様式だ。

 いつもの施設に通うときは、最近は特に冬場から寒い気象条件だったため、一日おきしか入浴をしなかった。

 地味な倹約というやつだが、この先には、洗濯機が待っている。

 こいつを使うと、電気・水道の二つがコスト的に上がってしまう。

 だから削っていたが、そこは就労支援施設。

 まっとう、とまではいかなくとも、それなりな身だしなみをしなければならない。

 余裕は、正直言ってない。

 だから、朝を抜く。

 幸いにも、就労移行支援施設は、いつもの施設より開所が一時間遅いため、朝を抜いても頑張れる。


 就労支援施設は、いつもの施設のようにのんびりとした田舎に立地していない。

 大都会のど真ん中、しかも交通の便がいいところに存在する。

 ウスイタカイ本が売られている店も、徒歩で通えるような好立地だ。

 もっともそこには、財政面が許さないため、この体験入所中に一度も足を運べそうにはないのだが。

 とにかく、街も施設も人が多い。

 人間嫌いなため、これが二日目にして、地味に何発も当てられるローキックのように堪えてきた。

 自営でやってきたのも、思えば、人間が多すぎる環境に適応できないから、といった側面がある。

 その殻を破らなければ生きていけないわけだ。

 就労支援施設は満員御礼で、いつもの施設の四分の一ほどしかいない空間に十数人も人が集中している。

 私語やそれに類するコミュニケーションは、あまりない。

 

 私語というなら、カードキャプターさくらの公式ページを見ていた人に「さくらちゃん可愛いっすよね、自分も連載当時読んでましたよ」と声をかけたくらいのものだ。

 うん、わかってる、拳圧がきつすぎるハードパンチャーだという事くらいは。

 だが、居場所を作るにはその位しなければならないモノではないだろうか。

 たかだか三日間の体験入所の人間がそれをするのはおかしいかもしれない。

 だが、そうしないと、息が詰まる。

 いつもの施設には、オタク談義ができる同好の志が居て、お互いそれを好意的に受け取っていた。

 だが、ここは違う。

 常在戦場。

 余分な隙は、どこにもない。

 自分の生き方が、生活リズムにオンオフ付けられないままやってきていたこともあり、休めと言われても、どうしたらいいのかわからないのだ。

 そのため、設定された休憩時間にも休むことが出来ず、苦労している。

 締め切り前は、当たり前のように徹夜して案件に対応してきていたのだ、この性分が抜けているはずもない。

 指先が動く間は休むなんてありえない、やることをやってから気絶するように眠り込んでしまえ。

 これが、自分の中にある「休憩」のイメージだ。

 その染みついた因果が、ここでは通用しないのだ。

 世間様では明らかに自分のほうが極少数派だろう、それはわかっている。

 わかっているが、そうやって稼いで、そうやって食って、そうやって生きてきたのだ。

 いきなりリセットしろと言われても、心もそうだが、潜在的ななにかが追いついてきてくれないのだ。

 

 だから、施設が用意した課題にのめり込む。

 体験入所者向けとして用意された初級PC訓練カリキュラムの八割を、この二日で終わらせてしまった。

 残り一日、どうやっても、暇な時間が出来てしまうだろう。

 どうにも施設は、パソコンの入力・操作スキルに重点を置いているきらいがある。

 そのため、ここでこうやって無駄話を綴る程度にパソコンが扱えるものからすると、退屈なのだ。

 とはいえども、実際の仕分けや資料分配といったものの模擬訓練は苦手だ。

 今はまだ体験入所、今はまだそれらを要求するべき立場にはない。

 舐めてかかっているわけではない。

 自分が普段使っているのはオープンオフィスであって、マイクロソフトの純正品ではない。

 純正品だとしても、持っているのはoffice2003なこともあり、操作の勝手がまったく違うのだ。

 施設では、道具に弄ばれているとしか言いようもない、恥ずかしい体たらくである。

 

 ともあれ、明日で体験入所はおしまいだ。

 一旦、書類が揃い、公的機関から認可が下りるまでは、いつもの施設の暮らしに戻る事になる。

 これは予言だ。

 きっと、昼飯の後に花札をやってた時期が恋しくて仕方がない時間が来るだろう。

 息が詰まるほどの濃密な時間に、今は、恋焦がれていた、そんなひりひりする時間に触れられて満足だろう。

 それが永続する環境に戻る意味、楽園にかじりかけのりんごを置いて去る未練、それをどう整理をつけるか。

 社会復帰が、こんなに重苦しいものだとは、正直思っていなかった。

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