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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
67/127

最後の施設見学

 就労支援施設見学も四件目、これで最後の見学になる。

 特に緊張するでもなく施設の概要説明を受けていたが、目的地に着いた時点で、ああ、ここは無いなと決まっていた。

 かつての客先に近すぎるのだ。

 仮にここを選んだとしたら、毎日、ここに通う姿を客先の人に見られるかもしれないと気をもまなければならなくなる。

 そのストレスは看過できぬものとなるだろう。

 こういった理由で検討先から除外せねばならない日がこようとは、思いもしなかった。

 

 それにもう、通いたい就労支援施設は決まっている。

 昼に弁当が無料で出るという、三回目に行った施設、ここ一択だ。

 半額弁当が二割引きにしかならなくなった以上、食糧問題は深刻だ。

 就労支援の環境で言えば、二回目に行った施設が一番だ。

 だが、限られたわずかな生活保護費から、そこへ通所する交通費と昼食代を捻出するのは実質不可能だ。

 将来的に、金銭的な理由から通うことが出来なくなるであろう施設を選ぶことは出来ない。

 どこかで妥協するしかないのであれば、財政に優しいところを選ばざるを得ないのだ。

 カネがあれば、と、心底思う。

 世の中の悩みのうち、四割くらいは手元にポンと自由に出せるカネが二百万くらいあればすぐに解決するのではないだろうか?

 そんなことを思ってしまう。

 

 施設見学も終わり、今現在通所している施設へ帰る道中で、ソーシャルワーカーさんにこの旨を話した。

 最終的に決断するのは自分なので、その口からは否定とも肯定とも取れぬ言葉が返ってくる。

 だが、これ以外に道は無いのは確か。

 そうなれば、次のステップに進みたい旨を伝えるしかない。


 就労支援施設への体験入所を行いたい、と伝えた。

 これは快諾され、すぐにでも手配をしてくれると返答してくれた。

 実際、その手続きは恐ろしいほどすばやく取られ、午前中に施設見学をしたと思えば、午後にはスケジュールが上がってきた。

 火曜から木曜まで、つまり明日からの三日間をそれに充てる、というものだ。

 正直、心の準備が出来ないほどのスピード感だ。

 だが、進む方向へと間違いなく足は向っている。

 自分は、はやく社会復帰をしたい。

 繰り返しになるが、今の環境は確かに居心地が良い。

 だからと言って、慣れ切ってしまうのはだめだ。


 見学から帰ってきて施設利用者に話しかけられたので、この旨を語ってみた。

 その利用者は、施設にもう十年近く通っており、仕事をしない現在の環境になんの罪悪感も持たないと返されてしまった。

 ここはぬるま湯だ。

 美味い昼飯は出てくるし、有り余る時間を無為に過ごすには良いところ。

 心を癒すには環境が整いすぎている。

 当たり前だ、精神を病んだ者達のために存在する、病院併設型施設なのだから。

 長くいれば、自分も生活保護になんの罪悪感も持たなくなるかもしれない。

 それが、怖い。

 生きるだけなら、確かに生活保護で賄える。

 現段階で、生きるだけなら、困ったことは無い。

 美味いものを食いたい、旅をしたい、娯楽を享受したい。

 こういった欲の部分を殺してしまえば、なるほど、これほど恵まれたセーフティネットは無いのだ。

 逆を言えば、それら自由の味を知っている、自分のような人間には、窮屈だ。


 自分のカネで、もう一度酒を飲みたい。


 生活保護からの脱却を望む気持ち、社会復帰を望む心の根底には、この一言しかない。

 模範的な答えは、頭の中にすぐ浮かんではこない。

 動機が不純でも、いや、不純だからこそモチベーションに繋がっているのかもしれない。

 酒を飲める境遇でもないのに断酒薬を飲まされる屈辱から、さっさと解放されたいのだ。

 確かに、医療費の観点から見れば、肝機能が完治するまで生活保護でもいいのではないか、と思わなくもない。

 だが、それではだめなのだ。

 何故かはわからないが、間に合わなくなる気がしてならないのだ。

 この施設に通うようになって、まだ一年も経ってはいない。

 そんなに急がないでもいいじゃないかと思わないでもないが、それでは遅すぎる気がする。

 

 就労支援施設の利用可能期限は、二年間。

 しかも、利用には行政への申請が必要となってくるという。

 自分には時間が無い、そう言い聞かせる。

 日本の福祉政策は、偉大だとつくづく重ね重ね、思う。

 ならば、その支援の手には応えねばなるまい。

 明日からの三日間、気を引き締めねば。

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