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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
63/127

一矢報いたり

 花も一部咲きか二分咲き程度にしか咲いていないというのに、今日の施設活動は花見だった。

 これは仕方がない、スケジュールは一か月前に決められているのだから。

 バスに揺られること一時間弱、この地方では有名な花見の名所へやってきた。

 花見客も閑散なため、屋台は並んでいるが、並んでいるだけで開けている店はこちらも三分咲き程度と言ったところ。

 人混みが苦手なので、これは有り難かった。

 しかし、りんご飴と箸巻きは食べたかった、風情的に。


 風情と言えば、花には酒だ。

 しかし、施設にアルコールの持ち込みは禁止だ。

 そこで考える。

 だったら、ノンアルコールならいいじゃない、と。

 こういう悪い事を企み始めると、無駄に行動力が出てしまう自分である。

 一週間前から、根回しを仕掛けてみていた。

 送迎バスの中で声をかけていたのだ。

 ノンアルコールビール持ち込んで、風情くらいは味わおうぜ、と。

 結果、数人が呼応してくれ、ノンアルコールビールで、数輪の桜を見上げながらささやかな宴会気分を味わうことが出来た。

 外で食べる弁当というのは、非日常感があり、美味い。

 天を覆うがごとく咲き乱れていないので、どちらかと言えばピクニック感覚だが、たった数輪でも花は花だ。

 こういうのは、気分なのだ。

 それも「ぎりぎりセーフだろうくらいの悪いこと」を共有する仲間たちとの、妙な一体感。

 これは、いくつになってもたまらない。

 

 しかし、花はこの調子なのでやることが無い。

 そのため、近くの公園まで歩くことになった。

 うん、本当にピクニックになってしまったわけだ。

 かつての城跡に整備された公園が目的地となった。

 花見の公園からぞろぞろと歩く集団を見たら「運が無かったね」と言われそうだ。

 この時間帯になると、屋台も開いている店が増えてきてはいたが、そこは如何せん弁当を食べた後。

 流石に箸巻きを食べるほど、胃袋に余裕は無かったので断念する。


 歩くこと十分程度。

 目的地の公園に着いて、四十分ほどの自由時間と相成ったが、はっきり言おう。

 やることが無いのだ。

 仕方がないので、同好の志とベンチに腰掛け、映画とかのありそうなワンシーンごっこをして楽しむ。

「この戦争、やはり我が国は負けますか……」

「しかたがありませんよ、相手が悪かったんです」

 みたいな、まったくしょうも無い即興寸劇を、誰に見せるでもなくぼそぼそと繰り返す。

 視界の先には大きな池があり、スワンボートが群れを成して浮いている。

 暖かさもあってか、子連れ客にスワンボートは大人気のようで、時間待ちが出来ているくらいだった。

 ボーっとしているうちに、時間が来て、施設に変える時間を迎えた。


 そして活動終了のミーティング時。

 やはり、ノンアルコールビールの話がやり玉に挙がった。

 しかし今日は、スタッフ側に勢いがない。

 施設は病院併設型なので、アルコールの持ち込みは禁止されている。

 だが、ノンアルコールビールへの規制は、具体的に明示されてはいない。

 そう、利用規約の穴を突いたのだ。

 今後は、依存症患者への精神的配慮から持ち込み禁止にします、くらいの柔らかい注意を全体に行う程度で済んだ。

 

 一矢報いたな、と、機嫌がよかったのは顔に出さなかったが、出し抜くのは気分がいい。

 自分が持ち込んだのは、輸出用に作られた、ハラールが施された特殊なもので、缶のデザインからして到底ノンアルコールビールだとは気付かれなかった。

 ところが、呼応してくれた数人は、コンビニで調達してしまっていた。

 よって、首謀者が自分であることは完全に秘匿されてしまったのだ。

 スタッフの言葉は、明らかに断酒薬を服用させられている自分に対してのものではなかった。

 まあ、悪者になってもらった利用者には申し訳ないが、やるなら徹底的に、だ。

 

 それよりも、本物の酒を片手に、近々独りで花見に行こう。

 裏をかいた祝勝祝い、来週の土日にでも、アパート近所の花見の名所に日本酒を持って繰り出してみようと思った。

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