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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
56/127

無理難題

 自分は、動いていないと駄目なようだ。

 休むことを良しとしない。

 診察の日に、主治医に直談判した。

 就労支援に乗り出していいように、と。

 当然のことながら、難色を示された。

 当たり前だ、動くなと言われているわけなのだから。

 普通なら諦めるだろう、そして、怠惰をむさぼるだろう。

 自分には、それが出来ない。

 確かに、施設に通うようになってから、まだ一年もたっていない。

 焦り過ぎだとたしなめられてしかるべき状況だ。

 それでも、自分は働きたいのだ。

 体がついていく、いかないの話ではない。

 気性の問題だ。

 最前線に立ってなんぼだと思っているし、精神的なものは、治る治らないの線引きがわからない話だ。

 雇用側に迷惑はかけるだろう、だとしても、今のようにぬるま湯に浸かった状況はごめんだ。


 やれと言われれば、やってのける。

 そういう考えのどこが悪いのか。

 危うさも、理解している。

 仕事に穴をあける迷惑は、嫌なくらい体験してきた。

 今の自分は、手負いの獣のようなものだ。

 危なっかしくて、責任のある仕事は任せられないと考えられるのは自然な話だ。

 だが、それでも、自分は前線に出たい。


 これを機会に、綺麗に休んでみないか、とはよく言われる。 

 なるほど、理にはかなっている。

 だが、休んでどうにかなるなら、ここまで追い詰められてはいない。

 若くは無い、だから、最前線には出られないだろう。

 それでも、現場が好きなのだ。

 前線で指揮を執るのが大好きなのだ。


 主治医にも、その旨は伝えた。

 このまま腐りたくない、と。

 非常に困った顔をされた、まあ、当然のことだ。

 言い出したら止まらないことも、理解されている。

 面倒な患者であることは、間違いない。

 そもそも、仕事に就けるか就けないかは、時勢の判断次第、主治医が難色を示そうが、自分がどれほど吠えようが、先方の意思が尊重される。

 過去の経験は、あって無きが如くの厳しい世界だ。

 施設側も、数字を稼がねばならない。

 社会復帰実績という、宣伝文句は集客力に直結している。

 しかも、それを言い出しているのは、半月前にこわれた人間なのだ。

 そういう指示を与えられたからと、大人しく言うことを聞く相手ではない。

 非常に厄介な相手だ。

 だが、自分にはもう時間が無い。

 ハローワークの年齢制限に引っかかる焦りがあるのだ。


 主治医は、そこまで言うならと再稼働を容認してくれた。

 動かねば死ぬ、このまま福祉行政の厄介になる、それは御免だ、と談判した甲斐もあるという物だ。

 もちろん、何か言いたそうな顔をされはした。

 だが、耳を傾けて時間を浪費する気分ではない。

 やらなければならないのだ。

 そのためには、いくらでも自分を追いつめる。

 正しいかどうかはわからない。

 前へ、ひたすら前へ。

 進んだ先がどんな場所かはわからない。

 それでも進むしかないのだ。

 この考え方でやっていって、倒れた。

 それがどうしたというのだ。

 次に倒れたら、その時は死ぬ時だ。

 正しいも糞も無い、ただただ時間を浪費し、国家予算をタダ飯食いしている自分が許せない。

 それだけの話だ。

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